「音トラブル」実は高層新築マンションの方が多い「驚きの事実」…共同住宅の騒音問題・専門家に「苦情対策」を聞いた
騒音の“苦情を寄せられた場合”の対処法 「マンションの騒音問題」第2回
2024.09.11
今年(2024年)の6月、国土交通省による令和5年度の『マンション総合調査』の結果が発表になりました。
これによると、生活音を巡ってトラブルがあったマンションを建築年別で見ると、平成27年以降に建てられた新しいマンションが、最も多い結果でした。
また、階数別で見ると、20階建て以上の高層マンションが68%を占めています。
つまり、音に関する苦情やトラブルが多いのは、新しい高層マンションということです。これはいったいどういうことなのでしょう。
「新しいからといって、必ずしも建物の性能が良くなっているとは限らない、ということもありますが、全体的に見れば、やはり新しいマンションのほうが、床も厚くなっていたりして、性能は良いはずです。それなのに、音のトラブルが多いのは、希薄な人間関係に原因があると思います」
「新しい物件ということは、若い世代が多い可能性が高く、また、近所付き合いを好まない傾向も高いと考えられます。築年数が浅ければ、良い人間関係を望んでいても、まだ築けていないことも考えられます」
「さらに、高層マンションは移動をエレベータに頼るしかありませんから、上下の住民が会う機会もほとんどなく、コミュニケーションを取りにくい可能性もあります。新しい高層マンションに音のトラブルが多いのは、こうした理由からでしょう」(橋本先生)
実際、「新しい高層マンションだから大丈夫!」と安心して生活していたら、ある日、突然、下階から音に関する苦情が寄せられて驚いた、というのは、よくあるケース。
「そのような場合、“性能のいいマンションで普通に生活しているだけなのに、苦情を寄せるなんて、下階の住民はなんて神経質なんだ!”と思いがちですが、決めつけてはいけません。安心して無防備に暮らしていると、知らず知らずのうちに音を階下に響かせていることはあるのです」(橋本先生)
「防音マットで騒音対策」は大間違い!
下階から苦情が来ると、フローリングの床ならラグやカーペットを敷くなど、多くの人は防音対策を考えます。ところが、これはあまり効果がない、ということも……!
「階下に響くのは、カンカン、コツコツ、パタパタ、ガタガタ、バンバン、ドスドス、ドッスン──というような床衝撃音なのですが、これには、軽量と重量の2種類があります」
「床に積み木をぶつけたり、スリッパでパタパタ歩くような音は軽量床衝撃音、子どもがドスドス走り回って暴れたり、ドンドン飛び跳ねたり、高いところから飛び降りたりするときのドッスン! という音は重量床衝撃音です」
「軽量にしても、重量にしても、階下に響くのは確かなのですが、床に何かを敷いて防ぐことができるのは、軽量床衝撃音のみ。残念ですが、重量床衝撃音は、コンクリートの床を厚くする以外、防ぎようがないのです」(橋本先生)
多くの人は、床にマットなどを敷けば重量床衝撃音も防ぐことができると思っているのでは? 実は、ここに悲劇の源が……!
「床にマットを敷いたから、もう大丈夫」と安心してしまうかもしれません。ところが、階下の人は「お願いレベルで丁寧に苦情を入れたのに、音はちっとも小さくならない」「上の住民は何の改善の努力もしない」と怒りが湧き上がってきたりして、さらに苦情を入れることに……。
苦情を言われた側からしてみれば、「ちゃんと防音対策をしたのに、また文句? 神経質すぎるのでは?」などと嫌な気持ちになる。苦情が続いて精神的にまいってしまうケースもあるようです。
「防音対策が逆効果になるというのは、このように、認識に違いが生じてしまうケースです。認識の違いを防ぐためにも、まずは、音に対する正しい知識を持つことが大事です」
「音に関しては、意外に勘違いが多いんですよ。子どもが立てる音の対策として、和室で遊ばせる、スリッパや靴下を履かせている、という人がいますが、畳の上でも重量床衝撃音が出るほど暴れれば階下に響きます」
「また、スリッパや靴下をはかせることで、子どものパタパタという足音(軽量床衝撃音)は階下に聞こえなくなりますが、いくらスリッパや靴下をはかせていても、ドッスンドッスン飛び跳ねたりすれば、やはり音は下に響きます」(橋本先生)
二重床・クッションフロアの効果
床の造りに関しても勘違いがあるとか。
マンションには「二重床」と呼ばれる工法があります。これは、コンクリートの板の上に防振ゴムと支持脚を立て、下地を組んでからフローリング材を張るというもの。
一般的な床よりも、こちらのほうが防音性に優れていると思っている人は少なくありませんが、橋本先生曰く「これもまた大きな勘違い」。
「製品にもよりますが、二重床にしても、良くて、通常の床と変わらない程度の性能。最悪の場合、1ランク、2ランク性能が悪くなってしまいます」
「分譲で、遮音フローリングだったところを二重床に張り替えたところ、音の苦情が来るようになって大揉めに揉めて、裁判にまで発展したケースもあるほどです。二重床をはじめとした『床の種類』に関しても、正しい知識を押さえておくことが必要ですよね」(橋本先生)
絶対に必要なのは「コミュニケーション」
ある日、突然、階下の住民が訪ねてきて、音に関する苦情を言われたとします。
騒音に対して自覚があり、ずっと気にしていた人なら「ついに来たか」と、慌てず騒がず、丁寧に謝るなど、それなりの対応ができるかもしれません。でも、自分たちが音を出しているという自覚がなく寝耳に水だった場合は、驚きや戸惑いが入り混じり、素っ気ない態度を取ってしまいがちです。
「そうなんですよね。“それはどうもすみませんでした!”などと言って、ドアをバタンと閉めたりとかね……。やはり、それはまずい」
「“どういう音でしょうかねぇ”などとやんわり訊ねたりして、相手の話をちゃんと聞いてみましょう。そして、心当たりがあれば、まず謝っておく。相手がこちらに対してまだ敵意を持っていない段階で、きちんとコミュニケーションを取っておけば、良い関係を築くこともできるんです」
「ちなみに、どう考えても心当たりがない場合は、分譲なら管理組合に、賃貸なら管理会社に相談するなどして、音源の特定をすることが先決です」(橋本先生)
第1回でも詳しく説明したように、相手とのいい関係が音問題の解決に結びつくこともあるのです。
「相手とコミュニケーションが取れる関係になれば、たとえ防音対策にさほど効果が出ていなくても、誠意は伝わります。会話もできないような関係性だと、どんなに気をつけていても相手に伝わりません。そうなると、誤解が誤解を生んで、お互いの感情がヒートアップして、どんどん話がこじれる」
「例えば、“床にマットを敷いてみたんです。音が少しは小さくなりましたか”などと伝えれば、実際に音は小さくなっていなかったとしても、相手方は“改善の努力はしているんだな、節度を持って暮らそうとしているんだな”とわかるはずですから、喧嘩腰で苦情を入れてくることもないのではないでしょうか」(橋本先生)
これもまた第1回で触れましたが、音の問題の予防と対策として求められるのは、音を出す側の「節度」と、聞く側の「寛容」です。けれど、いくら節度と寛容があっても、それが相手に伝わらなければ、どうにもならない。
その意味でも「コミュニケーション」が欠かせないということなのです。
騒音問題が殺傷事件に…危険を感じたら迷わずSOS
「ただ、相手がこちらに対して、怒りを通り越して敵意を持っているような場合は、もはや、コミュニケーション云々で解決できる段階ではありません」
「1日に何回も苦情を言うために訪ねてきたり、電話をかけてきたり……。そのような場合は、第三者に間に入ってもらうしかないでしょう。分譲の物件なら管理組合ですよね」
「また、相手が真夜中であろうが構わず文句を言いにやって来るなど、明らかに攻撃性を持っている場合は、迷わず警察を呼んでいいと思いますよ。音の問題は殺傷事件に発展することもある。危険を感じた場合は、早めにSOSを出しておくと安心ですね」(橋本先生)
もちろん、音を聞かされる側の全員が極端な行動に出るわけではありません。大多数は極めて常識的な人たちです。
とはいえ、「音はそれくらい人を追い込んでしまう」「もしかしたら自分たちが出す音も階下の人を追い込んでいるかもしれない」という認識は持っておいたほうがいいかもしれません。
「自分のことはさておいて、相手にだけ求めるようなトラブルも増えています。音を出している側が“節度”を持たず相手に“寛容”を求める。逆に、音への“寛容”をもてず、相手に“節度”ばかりを求める。いずれにしても、ちょっと相手の立場に立ってみる──共同住宅における音の問題を大きくしない、あるいは、問題解決につなげるには、この考え方が必要です」(橋本先生)
【「マンションの騒音問題」は全3回。「騒音問題に巻き込まれないために必要なこと」についてお聞きした第1回に続き、今回の第2回では「騒音の“苦情を寄せられた場合”の対処法」について伺いました。第3回は「騒音の“被害に苦しんでいる場合”の対処法」について、引き続き騒音問題総合研究所代表の橋本典久さんに教えていただきます】
(取材・文/佐藤ハナ)
橋本 典久
福井県生まれ。東京工業大学・建築学科卒業。東京大学より博士(工学)。建設会社技術研究所勤務の後、八戸工業大学大学院教授を経て、八戸工業大学名誉教授。現在は、騒音問題総合研究所代表。1級建築士、環境計量士の資格を有す。元民事調停委員。専門は音環境工学、特に騒音トラブル、建築音響、騒音振動、環境心理。著書に、「2階で子どもを走らせるな!」(光文社新書)、「苦情社会の騒音トラブル学」(新曜社)、「騒音トラブル防止のための近隣騒音訴訟および騒音事件の事例分析」(Amazon)他多数。日本建築学会・学会賞、著作賞、日本音響学会・技術開発賞、等受賞。我が国での近隣トラブル解決センター設立を目指して活動中。
福井県生まれ。東京工業大学・建築学科卒業。東京大学より博士(工学)。建設会社技術研究所勤務の後、八戸工業大学大学院教授を経て、八戸工業大学名誉教授。現在は、騒音問題総合研究所代表。1級建築士、環境計量士の資格を有す。元民事調停委員。専門は音環境工学、特に騒音トラブル、建築音響、騒音振動、環境心理。著書に、「2階で子どもを走らせるな!」(光文社新書)、「苦情社会の騒音トラブル学」(新曜社)、「騒音トラブル防止のための近隣騒音訴訟および騒音事件の事例分析」(Amazon)他多数。日本建築学会・学会賞、著作賞、日本音響学会・技術開発賞、等受賞。我が国での近隣トラブル解決センター設立を目指して活動中。