金田一先生に聞く「ヤバい」を連発する子どもに親ができる語彙力アップ

国語の神様・金田一秀穂先生に聞く「国語力を養う親子の時間」#2〜子どもの語彙力アップ編〜

日本語学者:金田一 秀穂

「今日も言葉を変えながらずっと同じようなことを話している。こういう積み重ねが僕は好きなんです」(金田一先生)
写真:菅沢健治

子どもの語彙を増やすため親ができること ①言葉を丁寧に選ぶ

子どもの語彙を豊富にしたいからといって、親は浴びせるように話しかければいいとも限りません。

詩人の谷川俊太郎さんが使う言葉は、僕らがよく知っている言葉でも、とても新鮮に、みずみずしく聞こえます。使い古された言葉に聞こえないんです。

そこである日、「どうしたら、いわゆる僕が考える美しい日本語を使えるんですか?」と聞いてみたら、こう仰っていました。

「言葉に誠実であることだよ。自分が本気でそう思っている言葉だけを使う。量ではなくて質なんだよ」と。

ハッとしました。子どもも、大人の心に響く言葉を時々使いますよね? なぜ響くかというと、子どもは正直だから。大人のように余計なことを考えず、思った通りのことを言葉にするから。

今の日本は、思った通りではない言葉があふれかえっています。2021年東京五輪の際にも、新型コロナウイルスの感染者が増加の一途をたどっている時期に「安心、安全」という言葉が繰り返し使われていた。実際とかけ離れた言葉を使われても、私たちの心には全く響きません。

どう表現したらいいか分からない、伝えきれないモヤモヤした気持ちもあるでしょう。その場合は、簡単に言葉にしない方がいい。なんとなくで「悲しい」「死にたい」「うるさい」などと言わない方がいい。より正確に表現できるようになるまで、何歳まででも心の中にとどめておいた方がいいと思います。

2020年から2021年にかけて大ヒットしたAdoの楽曲『うっせぇわ』は僕たちの心をドーンと打ちました。恐らく作り手は、かねてから心の中にあったモヤモヤした言葉を、高校生になってようやく表現できた。それも正直に、誠実に、ストレートに。

『うっせぇわ』という言葉に眉をひそめる親御さんもいるかもしれませんが、実は歌詞がとてもいい。だからこそ多くの人の心に響いたのでしょう。

ですから親御さんも、本気でそう思っていないのに「あなたはダメな子ね」などと使わないでほしい。「死ぬほど疲れた」とつぶやく前に、本当か? と自問してみるといいでしょう。

基本的に、子どもは親の影響を受けます。親自身が事実とは違う言葉を安易に使うと、子どももそうなりかねません。

もし子どもが、「死ね」といった乱暴な言葉を使う場合、親、あるいは周りの大人がいい加減な言葉遣いをしている可能性がないか、振り返ってみてください。

そして万一、親自身が不誠実な言葉を使ってしまったら、「ちょっと違う言葉を使っちゃった」と訂正し、反省をするとよいでしょう。

正直でない言葉を使うことへの心の疼(うず)き、痛みをいつも意識しておくんです。すると子どもはだんだん正確に言葉を使えるようになります。

子どもの語彙を増やすため親ができること ②曖昧な言葉は具体的にする

親の言葉でもう一つ見直した方がいいのは、あいまいな言葉。

「明日のおしたく、ちゃんとやった?」
「『ちゃんと』ってどういうこと?」
「『しっかり』ってこと!」
「『しっかり』って何?」
「『早く!』」

――これじゃあ、子どもの語彙は貧しくなります。ここで言いたい「ちゃんと」というのは、

「明日学校に持っていく持ち物、明日の朝慌ててやって遅刻したり忘れ物をしたりすることがないように、今日のうちに時間割を確認してすべてランドセルに入れてね。それも、ただモノをランドセルに突っ込めばいいわけではなく、筆箱の中の鉛筆は字を書きやすいように削るなど、学習のしやすさも考えながら用意をするのよ」

というような、「遅れ」「忘れ」「やりそびれ」「乱れ」のない準備を指しているのでしょう。十把一絡げ(じっぱひとからげ)に「ちゃんと」を多用するより「忘れ物がないように」というように具体的に伝えた方が、子どもは理解しやすいし、子どもも大雑把な使い方が少なくなるでしょう。

それから、感動詞の代わりに使いがちな「ヤバい」「かわいい」。例えば親が「ヤバい」ばかり言っていると子どもも「ヤバい」しか使えなくなります。

実は「感動するほど素晴らしい」ことを伝えたいのであれば、「心が動かされた」「心が震えた」「目を奪われるほど美しい」などとより正確に、細かく表現した方がいいでしょう。

親が普段から表現豊かに感情や物事を表していれば、子どもも「そういう言い方があるのか」と学び、語彙はどんどん豊富になっていきます。

もし親が語彙力に自信がなかったら? そんな時こそ、絵本や童謡の出番です。雨の降り方ひとつとっても「しとしと」「ザーザー」など表現豊かに書かれていますよね。読み聞かせることで、親も子も、自然と語彙が増えていくはずです。

語彙が豊かになれば、学校などで「マジ神だ」などの流行語を覚えてきたとしても、語彙力を脅かすことにはならないでしょう。「流行語を使うことで子ども同士が盛り上がり、友情が育まれていくなら大いに結構」という心の余裕もできます。


取材・文/桜田容子

金田一先生の記事は全4回です。
次回(#3)は「子どもを本好きにするには」について。
21年12月24日公開です(公開日までリンク無効)

第1回(#1)スマホは子どもの国語力に影響なし! 事実と意見を区別する力が必要

15 件
きんだいち ひでほ

金田一 秀穂

日本語学者

1953年生まれ。東京外国語大学大学院日本語学専攻課程修了。中国大連外語学院、米イエール大学、コロンビア大学などで日本語講師を務め、現在は杏林大学外国語学部客員教授。専門は日本語学。日本語学を専門とする。著書に『15歳の日本語上達法』(講談社刊)、『日本語大好き』(文藝春秋刊)など。編集に『学研現代新国語辞典』(学研プラス)など。

1953年生まれ。東京外国語大学大学院日本語学専攻課程修了。中国大連外語学院、米イエール大学、コロンビア大学などで日本語講師を務め、現在は杏林大学外国語学部客員教授。専門は日本語学。日本語学を専門とする。著書に『15歳の日本語上達法』(講談社刊)、『日本語大好き』(文藝春秋刊)など。編集に『学研現代新国語辞典』(学研プラス)など。