妊娠中の出血は少量でも病院に連絡を! 産科学界の名医が解説

産婦人科医・安達知子先生に聞く「妊娠中に注意したい症状」 #1 妊娠中の出血について

総合母子保健センター 愛育病院 名誉院長:安達 知子

特に注意したい3つの妊娠中の出血原因と起こりやすい時期

妊娠中の出血で赤ちゃんとお母さんの命にかかわるのが「前置胎盤(ぜんちたいばん)」「常位胎盤早期剝離(じょういたいばんそうきはくり)」「子宮破裂」の3つです。

①前置胎盤(ぜんちたいばん)

前置胎盤は、胎盤が内子宮口(子宮体部と子宮頸管との境界)をおおった状態のことです。子宮が収縮したり、内子宮口が少し開いたりすると、子宮の壁から胎盤の一部がはがれて出血することがあります。

・胎盤が正常よりも下方に付着している。
・胎盤が内子宮口を一部、もしくは全部覆う。

イラスト/山口陽菜

妊娠25週以降に、痛みもなく、自覚がないぐらい軽いおなかの張りで真っ赤な血が出る場合、前置胎盤や低置胎盤(内子宮口から2cm以内の位置に胎盤が付着している状態)が原因かもしれません。

前置胎盤の状態で子宮口が開いてくると、出血が継続して大量出血になりしてお母さんの命にかかわるため、出産は帝王切開になります。少しでも出血があれば、入院して子宮収縮を抑える薬を投与しつつできる限り妊娠37週以降(正期産)まで、安静を保ってもらうことになります。

前置胎盤では性器出血が増量してきたタイミングで早産となることも多く、赤ちゃんは新生児集中治療室(NICU)に入院することが多いです。

②常位胎盤早期剝離(じょういたいばんそうきはくり)

妊娠後半期(妊娠20週以降)に出血する原因で非常に怖いのが、常位胎盤早期剝離です。本来ならあかちゃんの出産後にはがれるはずの胎盤が妊娠中にはがれてしまう病気で、原因はわかっていません。症状としては、性器出血やおなかの強い張り、激しいおなかの痛みがみられます。

常位胎盤早期剝離では性器出血は少量ですが、子宮の中ではものすごい勢いで出血します。子宮内は出血によって圧力が高くなるため、はがれた胎盤の細かな組織がお母さんの血液の中に入り込んで、DIC(播種性〔はしゅせい〕血管内凝固症候群)という血が固まりにくい状態となることも。

DICが起こると、出血が止まらなくなるため、母子ともに命を落とす危険性があります。胎盤がいきなりすべてはがれることはないため、できる限り速やかに診断後30分以内に多くは帝王切開を行って、赤ちゃんを救命すると同時に、母体へも大量の輸血や血液製剤による治療を行います。赤ちゃんは通常NICUに入院します。

③子宮破裂

まれですが、妊娠後期に子宮破裂が起こる場合があります。子宮破裂は子宮の壁が裂けた状態で、性器出血のほか、冷や汗や気分の悪さ、突然のおなかの激痛などの症状がみられます。

前回の出産が帝王切開である場合や、深い場所にある子宮筋腫をとる手術(子宮筋腫核出術)や子宮腺筋症の手術(子宮腺筋症摘出術)をした場合など、子宮の手術をした人(腹腔鏡での手術も含む)は子宮破裂のリスクが高いといえるでしょう。

また、胎盤が「癒着胎盤(胎盤が子宮の筋層に食い込んだ状態)」である場合にも子宮破裂が起こりやすくなります。癒着胎盤は、出産回数が多く子宮の壁が薄くなっている場合や、胞状奇胎(受精の異常によって胎盤の元になる絨毛が異常に増殖した状態)の既往がある場合、前置胎盤のように筋層の薄い場所に胎盤が付着している場合、人工妊娠中絶の回数が多い場合、子宮内膜の下に子宮筋腫がある場合などにリスクが高まります。

この3つはどれも治療が遅れると、低酸素の状態が長引いて赤ちゃんの脳に影響が出るおそれがあり、最悪の場合、母子ともに命を落とすリスクがあります。これらの病気や症状、起こりやすい時期を知っておくことは大切です。

また、手術や病気の既往歴、妊娠・出産歴は、妊娠中の病気のリスクに気づく貴重な情報となるため、必ず医師に伝えてください。子宮ではなく卵巣の手術であっても、強い癒着(本来離れている組織がくっついた状態)をはがしたときに子宮の壁がうすくなり、分娩時に子宮破裂を起こすケースもありうるため、子宮以外の場所の手術や病気についても医師に伝えておきましょう。

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妊娠中に出血したときには、出血の量や色、出血以外の症状を確認することが大切です。出血以外の症状がなく、薄いピンク色や褐色の出血ですぐ止まるようなら、様子を見ても大丈夫といえます。

もし、大量の出血や、出血とともにおなかの痛みや胎動の減少、吐き気や冷や汗などの症状があれば、救急車を呼びましょう。もしものときに備えて、上の子の預け先や入院用の荷物の保管場所などの情報を家族と共有しておくと安心ですね。

2回目では、妊娠中に気をつけたい症状としておなかの張りについて、引き続き安達先生に詳しくお話を伺います。

取材・文 広田沙織

妊娠中の症状は全3記事
2回目を読む。
3回目を読む。
(※2回目は2023年11月17日、3回目は11月18日公開。公開日までリンク無効)

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あだち ともこ

安達 知子

Adachi Tomoko
総合母子保健センター 愛育病院 名誉院長

総合母子保健センター 愛育病院名誉院長。東京女子医科大学客員教授。 東京女子医科大学医学部卒業後、同大学産婦人科学教室入局。米国ジョンズ・ホプキンス大学研究員、東京女子医科大学産婦人科助教授を経て、2004年より愛育病院産婦人科部長、2017年より同病院院長に。2022年より愛育病院名誉院長に就任。日本の産科学界を担う中心的存在の一人。

総合母子保健センター 愛育病院名誉院長。東京女子医科大学客員教授。 東京女子医科大学医学部卒業後、同大学産婦人科学教室入局。米国ジョンズ・ホプキンス大学研究員、東京女子医科大学産婦人科助教授を経て、2004年より愛育病院産婦人科部長、2017年より同病院院長に。2022年より愛育病院名誉院長に就任。日本の産科学界を担う中心的存在の一人。

めでぃぺん

メディペン

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医療ライターズ事務所

医療ライターズ事務所。 看護師、管理栄養士、薬剤師など、有医資格者のライターが在籍。 エビデンスに基づいた医療記事を得意とするほか、医療×他業種の記事を手掛ける。 産婦人科関連、小児科、皮膚科、医療系セミナーレポートや看護師専門サイトの記事の実績多数。 medipen

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