世界中のママの悩みや不安を即解消する「オンライン助産師」

じょさんしONLINE代表・杉浦加菜子さんインタビュー【2/2】

萩原 はるな

「じょさんしONLINE」は「誰ひとり取り残さない」ことをモットーに2020年、本格的にサービスがスタートした。
写真提供:じょさんしONLINE
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2019年1月に誕生し、コロナ禍における妊娠・出産・子育てをサポートしてきた「じょさんしONLINE」。助産師たちがオンラインで妊娠や出産、育児のアドバイスをしたり、さまざまなセミナーを開いたりするサービスです。イベントをきっかけに認知度がアップし、世界中のママたちがサイトに訪れています。

前回では、サービスが立ち上がった経緯や、コロナ禍のなかどのようなサポートをしてきたかをお伺いしました。2回目の今回は、オンライン助産師サービスの代表を務める杉浦加菜子さんに、コロナ禍でのサービス提供を通じて感じていること、そしてどのような相談が寄せられているかなど、具体的なエピソードを教えてもらいます。

氾濫する情報 自分が見えなくなってしまうママたち

「『じょさんしONLINE』に寄せられているのは、妊娠・出産・育児に関するさまざまな悩みです。帝王切開で大変な思いをしたり、産院で冷たい扱いを受けたりした方のなかには、出産がトラウマになってしまった人がいます。次の妊娠・出産が怖い、と悩まれているママも少なくありません。そういう方には、本当はどうしたかったのか、今どのように感じているかを聞きながら、必要な情報やアドバイスをするようにしています」(杉浦加菜子代表)

オンラインという気軽さからか、日常の育児で生じる細々とした悩みを相談してくるママも多いといいます。

「『歯磨きはいつからしたらいいのか』『離乳食はいつから、どんなものを、どうやって食べさせればいいのか』『母乳がうまく出ない』『おっぱいを飲んでくれない』といった悩みが多いですね。保育園に預けて仕事に復帰する際に、子どもの睡眠リズムをどう整えたらいいのか、という相談もたくさん寄せられます」(杉浦代表)

とくに離乳食や母乳に関する問題は、SNSなどからさまざまなママのケースを見て、「私はこういうふうにできる自信がない」と悩んでしまう人が多いようです。

「ネットで情報を得ることはできるのですが、答えがひとつではないことが多く、ますます混乱してしまうのです。また、いわゆる『ばえる』離乳食がアップされているのを見て、自信をなくしてしまうママも。そういうときには離乳食には素敵さよりも、まずは『食べることは楽しい』と感じてもらうことが大切であると伝え、『お味噌汁にご飯をいれた、ねこまんまでもいいんですよ』などと話しています。

子どもの食の細さに悩んでいるママには、それぞれの子どもによって食べない理由があるので、まずそれを探りながら伝えています。そして離乳食は『食べさせなければいけない』ものではなく、『母乳やミルク以外の食べ物を楽しく知ってもらうきっかけ』であることを説明。母乳やミルクを飲んでいれば、離乳食を完食しなくてもまったく問題はないことを伝えています」(杉浦代表)

後から思うと「なんでそんなことに悩んでいたんだろう」というささいなことも、育児に奮闘している真っ最中は、大問題にとらえてしまうことが少なくないのです。

じょさんしONLINE代表・杉浦加菜子さん(ZOOM取材にて)

ママたちの「不安の根っこ」を見つけていく

オンラインで相談を行う際に、杉浦さんが心がけていることは、「決して否定しないこと」。

「多くのママが『こんなこと言ったら批判されるんじゃないか』とか『怒られるんじゃないか』と、不安や疑問を口に出せずにいます。ですからどんなに彼女たちの発言が自分の価値観と違っても、否定しないことが大切。その選択にたどり着いた想いや考えがあると思うので、それを尊重するようにしています。

たとえその考えが間違っていたとしても、『あなたは間違っています』と伝えたところで、どちらにとっても何のメリットもないんですよね。指摘したほうが物事はうまく進むのか、というとそんなことはありません。一番大切なのは、ママが自分に絶対的な自信をもって妊娠・出産・育児にのぞめることだと思うのです」(杉浦代表)

相談者の思い込みなどを感じた場合は、なぜそう思うのかを聞き、よりママや子どもにとってストレスのない方法を一緒に探っていきます。そのためには、助産師としての思考の整理も必要になると杉浦さんは言います。

「『出産が怖い』『育児がわからない』という悩みをもつママはたくさんいますが、その理由や内容はさまざま。でも、誰もがママになれるのです。出産に大きな不安をもっている妊婦さんによく伝えているのですが、『あなたは、お腹の中で立派に子どもを育てているお母さんなんです。この子にはちゃんと産まれてくる力があるし、あなたにも産める力があるんですよ』ということ。もし悩んでいる方がいるなら、ぜひ自分自身と子どもの力を信じてみてください」(杉浦代表)

ママたちに「両手を広げてあなたを待っている人がいる」ことを伝えたい

コロナ禍のなか妊娠・出産・育児をしているママたち。こんな状況におかれている以上、不安に思うことがたくさんあって当然だといえるでしょう。

「出口が見えない気持ちを抱えているかもしれませんが、必ずそんな方々を受け入れてくれる場所はあります。私たちが提供しているサービスだけでなく、自治体や地域の助産師、ネットのサービス上に、つながれる人がいっぱいいる。一人で妊娠・出産・子育てをしていると思っている方も、決して一人ではないんです。困っているママには、『手を広げてあなたを待っている人』の存在を、ぜひ知ってもらいたいですね」(杉浦代表)

杉浦さんのオンライン相談を通じて、鬱状態だったママが救われたケースがあります。

「知り合いの助産師さんに、『以前、じょさんしONLINEを利用したことがあるママが、出産後にオンラインで相談できなかったら、今ごろ私はここに座っていなかったかもしれないと言っていましたよ。当時は毎日つらくてつらくて、ベランダから下を見ていたんですって』と教えてもらったのです。どんなにつらくても、勇気を出して一歩踏み出せば、最悪の行動を思いとどまることができる。きっと、一人じゃないことがわかるはずです」(杉浦代表)

国内外や国籍問わず女性のあらゆる悩みに寄り添えるサービスを目指して

コロナ禍の世の中になるまで、自分たちのサービスがここまで求められるとは、正直思ってもいなかったと杉浦さん。けれどもコロナ禍が治まった後も、ニーズはなくならないと確信しています。

「『子育て支援対策等に関する調査』(※三菱UFJリサーチ&コンサルティングによる)では、『子育ての悩みを相談できる人がいる』というママは2003年の73.8%から、2014年には43.8%と激減したと指摘しています。コロナ禍の現在では、さらに増えているでしょう。

また世界中どこにいても、平等にサービスが受けられるのがオンラインの魅力。現在、海外での出産に不安をもつ日本人だけでなく、日本での出産に心細さを覚えている外国人ママもサポートしています。利用された方々に『毎日、楽しく過ごせるようになりました』と言っていただけると、このサービスを立ち上げて本当によかった、と心から思えるのです」(杉浦代表)

杉浦さんたちが目指しているのは、「ママたちが不安に思ったら、その都度解消できる世の中」にすること。そのうえで、自分でさまざまな選択をすることができ、周囲がそれを尊重できる社会にしていきたいと考えています。

「妊娠・出産・育児だけに関わらず、いろいろなことに対して『これって合ってる?』『誰かに迷惑をかけていないかな?』と、立ち止まってしまう人が多いと思うのです。けれども、自分の人生なのだから、何を選んでも自由のはず。それを尊重できる寛容さや優しさが、うまく循環する社会になっていけると理想的ですよね」(杉浦代表)

女性の身体は、妊娠・出産・育児のみならず思春期、更年期とさまざまに変化していきます。女性とその周囲が「今、女性の身体に何がおこっているのか」を知ることが、とても重要なのです。

「今後は妊娠・出産・育児期の女性だけでなく、幼児期や思春期の性教育や月経・女性疾患のケア、更年期症状のケアなどに対して、私たちだからこそできる方法でアプローチしていきたい。ゆくゆくは女性があらゆるシーンで相談できる、総合的なサービスを提供したいと考えています」(杉浦代表)

“孤育て”が問題視されている昨今、まさに多くのママが求めている情報を発信し、アドバイスを続けている「じょさんしONLINE」。妊娠・出産・育児のみならず、さまざまな女性の悩みに対応する予定です。レディースクリニックに敷居の高さを感じている女性にも、まさにぴったりのサービスだといえるでしょう。

助産師として、女性のホルモンバランスの変化に寄り添ったサービスを提供していきたいと杉浦さん。同時に法人の健康経営をサポートすることで、女性が働く時代に心がけやすい環境の整備を進めている。
写真提供:じょさんしONLINE

PROFILE
杉浦加菜子(すぎうらかなこ)

助産師として都内産科病院の産婦人科とNICU(新生児治療室)に勤務後、夫のオランダ赴任に帯同。海外での妊娠・出産・育児経験から、2019年にじょさんしONLINEを立ち上げる。2020年4月、コロナ禍のなか2週間にわたって「オンラオイン両親学級&児童館」を開催。2020年10月、ICTビジネスデザイン発見&発表会全国大会「女性起業家大賞」受賞、日経ソーシャルビジネスコンテストのファイナリストに選出される。現在、助産師によるオンラインでの妊産婦ケアの第一人者として活躍中。
じょさんしONLINE https://josanshi-cafe.com/

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はぎわら はるな

萩原 はるな

ライター

情報誌『TOKYO★1週間』の創刊スタッフとして参加後、フリーのエディター・ライターとなる。現在は書籍とムックの編集及び執筆、女性誌やグルメ誌などで、グルメ、恋愛&結婚、美容、生活実用、インタビュー記事のライティング、ノベライズなどを手がける。主な著作は『50回目のファーストキス』『ハピゴラッキョ!』など。長女(2009年生まれ)、長男(2012年生まれ)のママ。

情報誌『TOKYO★1週間』の創刊スタッフとして参加後、フリーのエディター・ライターとなる。現在は書籍とムックの編集及び執筆、女性誌やグルメ誌などで、グルメ、恋愛&結婚、美容、生活実用、インタビュー記事のライティング、ノベライズなどを手がける。主な著作は『50回目のファーストキス』『ハピゴラッキョ!』など。長女(2009年生まれ)、長男(2012年生まれ)のママ。