「育てにくい子」なんていない。ある芸術家の小学生時代の親がすごい。

講談社絵本新人賞選考委員・ボローニャ国際児童図書賞受賞作家が、独自の絵心を育てた60年を語る

児童図書編集チーム

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北見葉胡さんのアトリエの机の上。新刊『花ぬりえ絵本 不思議な国への旅』や、色鉛筆のほかにも、アクリル絵の具、筆などさまざまな画材がならんでいる。写真提供:北見葉胡

絵本作家の子ども時代はおもしろい

絵本作家の北見葉胡(きたみ・ようこ)さんに、はじめてのぬりえ絵本『花ぬりえ絵本 不思議な国への旅』の刊行にあたって、絵本作家になるまでのお話をうかがいました。

北見葉胡さん(以下北見さん)は、絵本『ルウとリンデン 旅とおするばん』で、優れた児童文学作品におくられる世界的な児童文学賞、ボローニャ国際児童図書賞を受賞しています。

『マッチ箱のカーニャ』、「はりねずみのルーチカ」シリーズや「りりかさんのぬいぐるみ診療所」シリーズなど、たくさんの作品を精力的に刊行し、優しくあたたかい絵で、子どもから大人まで人気があります。現在は、講談社の絵本新人賞の選考委員を務め、新人発掘のお仕事もしています。

北見さんの創作への気持ちはいつからあったのでしょうか。どうやって、自分のセンスを開花させていったのか、これから伺っていきます。

北見さんは、幼少期から、「増殖していく絵」への探求心がありました。興味は紙の上だけにとどまらず、壁一面に描くこともありました。そして、絵心は家の庭にもおよび、創作の手が伸びていくのでした。

北見葉胡さんのアトリエのアリスちゃん。パリのクリニャンクールで一目惚れで連れて帰ってきたそうです。アリスちゃんは『花ぬりえ絵本不思議な国への旅』の妖精「はなのこ」のモデルになりました。写真提供:北見葉胡

家の庭に穴を掘って「わたしの家」をつくる

──家の庭に「じぶんの家」をつくったとききましたが、どんな家だったのでしょか?

小学生のときに、自分のイメージしたものを形にしたいという願望がありました。なので、ときどき、庭に大きな穴を1人で掘りました。それが何かというと穴のかたちの「わたしの家」なのです。

わたしは夜寝るとき、計画を練りました。どこに「家」を作るかをです。最初、花壇の真ん中に穴を掘りました。帰ってくると一生懸命に穴を掘りました。計画では、ある程度掘ったところで、横穴にするつもりでした。部屋もいくつか必要ね、などといろいろ想像しながら、どんどん掘るわけです。でも実際には、自分がしゃがんで隠れるくらいまでしか掘れないのです。

それでも、わくわくしてどこからか板など持ち出し、穴の中にしゃがんで天井のつもりで持ってきた板を被せると、小さいながら家が出来上がります。そのたび母に穴を埋められてしまいますが、こりずに、次の穴にのぞむ日々でした。

北見葉胡さんの仕事場にある飾り棚は、アンティークなものたちで溢れている。創作のきっかけになることも。提供:北見葉胡

高校受験の合格発表で、自分の番号を見つけられない

高校受験は都立が第一志望で、たぶん合格するだろうと思いながら確認するだけの気楽な気持ちで、高校の合格発表の会場に行きました。高校にいくと、合格者の番号がずらっと並んでいて、自分の番号があるかどうか、自分の目でたしかめます。しかし、わたしの受験番号がいくら探してもないのです。答えを書く欄間違えたのかな、それとも名前を書くのを忘れたのかな、などと思いをめぐらせながら帰宅しました。

すると、青ざめた母が「高校から、合格したのに書類を取りに来ない生徒がいる、と中学に問い合わせがあったって今電話がきた」と言うのです。もちろんそれはわたしのことでした。つまり、私は自分の受験番号を探せなかったんです。

わたしを信用できないと思った母は、わたしの代わりに高校に出向き、入学書類を無事受け取って帰宅しました。母は、どうやったらわざわざ見落とせるのか謎、と呆れはてていました。わたしの受験番号は真ん中に堂々と掲げられていたそうです。中学の先生は、受験の季節が近づくと、この話をして受験生に注意を促していると聞きます。自分の失敗談がだれかのためになったのなら嬉しいです。

『花ぬりえ不思議な国への旅』北見葉胡/講談社「やわらかな風にのって」より引用。提供:北見葉胡

自宅を半焼! 燃やしたのはわたし……。

18才の大学生の夏休み、母と弟は親戚の家に外泊、父は会社で働いていて、ひとりでうちにいたときのことです。

1階でのんびりテレビをみていると、2階で「みしみし」とか「がたがた」とか音がするのです。……もしかしたらどろぼうかもしれないと思って階段のところまで様子を見に行きました。

2階は階段をあがってすぐ横に襖があってそこが開けっぱなしになっていました。そこからぼうぼうと真っ赤な火が出ているのです。「これは消さなくちゃ」と全速力で階段登って、部屋の中をのぞきました。なかはまるで映画のように火が踊っています。火ってこんなふうに部屋を舐めるように広がっていくのかと見つめました

次の瞬間、われにかえり、これはひとりで消すのは無理だと思いました。階段をのぼる前に気づきたいところですよね、っていまなら思います。あわてて庭に飛び出して「火事~‼」と叫ぶと、速攻で近所の人たちが駆けつけてくれました。
そのあとはもう生まれてから見たこともない数の消防車に囲まれて大騒ぎになりました。

結局、家は半分燃えてしまって、戻ってきた両親は変わりはてた自宅を見上げて言葉もありません。燃えた原因をつくったのは、わたしです。2階で蚊取り線香をつけたまま忘れて降りてきて、開けていた窓のカーテンに蚊取り線香の火が燃えうつったことによる火災でした。みなさんも気をつけてください。

そんなこんなの失敗はもう少し先まで続きますが、25歳を過ぎたころから霧が晴れたように、まるでカメラのピントが少しずつ合っていくような感覚で世の中が見えてきて、じょじょに、おおむね普通の人として過ごせるようになりました。

母に「あなたのような子でもそれなりに育つのね」と言われたのは30歳くらいのことだったように記憶しています。

『花ぬりえ不思議な国への旅』北見葉胡/講談社「やわらかにうつろう水の森」より引用。提供:北見葉胡

個展開催が、絵本作家デビューにみちびいてくれた

大学でも、卒業後もマイペースにたくさんの絵を描き続けていました。

ギャラリーの方にお貸ししていた絵物語を、たまたま講談社の編集者さんがご覧になり興味を持ってくださいました。それでお会いしてみると、「この絵物語は面白いけど、斬新すぎて流石に絵本にできないけれど、他になにかありますか?」と言われました。

そこで新たにラフ(絵本の下書き)を描いて持っていったのが「さぼてん」で、気に入ってくださって絵本の処女作として出版していただくことになりました。絵本『さぼてん』は、スペイン語版も刊行され、南アメリカのスペイン語圏で販売されました。

『さぼてん』北見葉胡/講談社 提供:講談社児童図書編集チーム
『さぼてん』北見葉胡/講談社 スペイン語版『CACTUS』提供:北見葉胡さん

ちょうど同じころ、別のギャラリーに置いてあったわたしのポストカードを見た偕成社の編集者さんが、児童書の表紙と挿絵をご依頼くださいました。そのあと『おやゆびひめ』(偕成社)の絵本を描かせていただきましたので、たまたまが重なった2人の編集者さんとの出会いが、絵本の仕事をしていくきっかけになったと思います。

編集者の目にとまった北見葉胡さんのポストカード「部屋の中を小さな風が動いている」
『おやゆびひめ』北見葉胡/偕成社 10月9日まで、軽井沢絵本の森美術館で原画展「童話のなかのアンデルセン展」開催中。『おやゆびひめ」のカバー絵原画を見ることができます。

北見葉胡さんのお話をうかがって、小さいころから自分のつくりたい世界を描きつづけていたことがわかりました。そして、家の壁一面に絵を描いても、家の庭に大きな穴をほっても、お母さんや家族が見守ってくれていたことが、絵本作家という才能の開花につながったのだと感じました。

北見葉胡さんがこだわりつづけている「増殖する絵」は、新刊『花ぬりえ絵本 不思議な国への旅』でもたくさん見ることができます。

『花ぬりえ絵本 不思議な国への旅』北見葉胡/講談社

『花ぬりえ絵本 不思議な国への旅』北見葉胡/講談社

●匂い立つような花々や森、不思議な町や妖精たちの塗り絵を楽しみながら、ひみつの世界への旅に出かけたような気持ちになれる、大人むけの塗り絵BOOKです。「妖精探し」のストーリーがあり、「妖精を見つける」楽しみもあります。

●「Fairy不思議な子を探す」「Time時空をこえる」「Village小さい人たちの家」「Forest森に暮らす」の4章構成。作家の緻密なカラーお手本掲載付き。本書掲載のQRコードを読み取っていただけたら、作家自身による、詳細レクチャーも御覧いただけます。塗り絵初心者から、上級者まで楽しめるつくりになっています。

●絵が上手くなる、全く新しい塗り絵と話題! 鉛筆で描いている絵なので、自分の鉛筆や色鉛筆で自由に描き足してオリジナル作品にできます。(塗っていくうちに、私も上手になりました!担当編集)

●順天堂大学医学部教授 小林弘幸さん、推薦! 「ぬりえをしていると、心が穏やかになります。体が元気になって、気持ちが明るくなります。」

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『花ぬりえ絵本 不思議な国への旅』好評につき、投稿コンテストを開催!

入賞者1名様には、豪華なホルベインアーチスト24色色鉛筆セットをプレゼント!


【応募方法】

1 Instagramで「北見葉胡『花ぬりえ絵本』オフィシャル」アカウント@kitami_yokoをフォロー。
2 ハッシュタグ「#花ぬりえ絵本コンテスト」をつけて、ぬりえ作品をInstagramに投稿。

ぬるだけでなく、自由に花や妖精や自然や好きなものを、空いているスペースに「塗り足し」「描き足し」して、よりあなただけの作品にしても!

※応募は「花ぬりえ絵本」に掲載されているぬりえに色をつけている作品に限ります。作品にまつわる思いがありましたら、ぜひ記載してください。

※受賞の方には北見葉胡「花ぬりえ絵本」オフィシャルInstagramアカウントよりダイレクトメッセージをお送りします。ダイレクトメッセージに記載されている手続きを行っていただき次第、受賞確定とさせていただきます。当選通知に記載されている日時までご返答いただけなかった場合、当選権利の取り消しとなりますので、ご注意ください。

※受賞作品は、講談社サイトやInstagramで紹介させていただきます。ご了承いただけない場合は、応募をお控えください。

【応募期間】2023年8月20日(日)~11月30日(木)※当選のご連絡は、2023年12月下旬を予定しております。

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きたみ ようこ

北見 葉胡

Yoko Kitami
画家

神奈川県生まれ。武蔵野美術短期大学卒業。児童書に、「はりねずみのルーチカ」シリーズ、「りりかさんのぬいぐるみ診療所」シリーズ(ともに作・かんのゆうこ/講談社)、絵本に『マーシカちゃん』(アリス館)、『マッチ箱のカーニャ』(白泉社)、『小学生になる日』(新日本出版社)など。書籍挿画に「安房直子コレクション」(全7巻/偕成社)、ぬりえブックに『花ぬりえ絵本 不思議な国への旅』(講談社)がある。2005年、2015年に、ボローニャ国際絵本原画展入選、2009年『ルウとリンデン 旅とおるすばん』(作・小手鞠るい/講談社)が、ボローニャ国際児童図書賞受賞。

神奈川県生まれ。武蔵野美術短期大学卒業。児童書に、「はりねずみのルーチカ」シリーズ、「りりかさんのぬいぐるみ診療所」シリーズ(ともに作・かんのゆうこ/講談社)、絵本に『マーシカちゃん』(アリス館)、『マッチ箱のカーニャ』(白泉社)、『小学生になる日』(新日本出版社)など。書籍挿画に「安房直子コレクション」(全7巻/偕成社)、ぬりえブックに『花ぬりえ絵本 不思議な国への旅』(講談社)がある。2005年、2015年に、ボローニャ国際絵本原画展入選、2009年『ルウとリンデン 旅とおるすばん』(作・小手鞠るい/講談社)が、ボローニャ国際児童図書賞受賞。