人気絵本作家・たしろちさとさん「アストラ国際絵本原作コンテスト受賞作」を絵本化〔絵本づくりの舞台裏 大公開〕
#1 絵本づくりの最初は観察とスケッチから【たしろちさとさんの絵本づくり】
2024.10.23
第2回アストラ国際絵本原作コンテストで講談社賞を受賞した作品「頭にのったタコ」(仮タイトル、ジェニー・ギヨーム/作)の絵本化が始まりました! 手がけるのは、2003年『ぼくはカメレオン』で世界7ヵ国語同時デビューをした絵本作家のたしろちさとさん。たしろさんは、日本絵本賞を受賞した『5ひきのすてきなねずみ ひっこしだいさくせん』(ほるぷ出版)をはじめ、『ぼく うまれるよ』(アリス館)、『クリスマスの おかいもの』(講談社)、『すずめくん どこで ごはん たべるの?』(福音館書店)ほかたくさんの著書がある絵本作家さんです。
アストラ国際絵本原作コンテストでは、世界各国から絵本のテキストを募集。今回、講談社賞を受賞した作品は、フランス語の作品でした。たしろさんが「頭にのったタコ」の内容をどのようにして絵本の形に仕上げていくのか、制作過程をレポートさせていただくことにしました。絵本作家をめざす方、絵本が好きな方は必見の連載です。
【受賞作:頭にのったタコ(原題Un poulpe sur la tête)】はこんなお話
ひとりの男の子が海水浴へ行って海にもぐったら、出てきたときには頭にタコがのっていた! タコは頭の上でどんどん大きくなり、男の子はタコを頭にのせて学校へ。先生に怒られたり、友だちに避けられたり、困ったことばかり……。でも、授業中タコのおかげで正解を答えられたり、いやなことをする友だちにスミをはいてくれたりして、男の子はだんだんタコに気持ちを寄せるようになっていく。タコはお風呂と本の読み聞かせが好きなんだ。そして、次の夏、主人公は海で……。
受賞作の感想
──これから、絵本制作の取材、よろしくお願いします! まずは受賞作をご覧になった感想はいかがでしたか?
たしろちさとさん(以下たしろさん):夢中で読んで、いろいろな思いと一緒にいろいろな絵や映像が浮かんできて、頭の中が色でいっぱいに。“ああ、このお話に絵を描きたいなあ!”と思いました。
──「色」が浮かぶというのは、作家さんならではですね。原稿をお送りしたお返事に、「くすっと笑ってしまいながら最後はじわーっとこみあげました。わたしも頭にタコをのせてみたい」といただきました(笑)。
観察とスケッチから始めるわけ
──制作の第一歩として、しながわ水族館へスケッチにいらっしゃったとのこと。いつも生き物を登場させるときは、実際の生き物を見て、描かれるのですか?
たしろさん:はい。できるだけ、実際に会うところから始めたいと思っています。生き物には生き物の都合があり、ときには会えないこともありますが、最初はじーっと見て、またじーっと見て、ずずーっと見て……スケッチできるタイミングがあればスケッチします。
スケッチブックを持って動物園に行くことも多いですが、我が家に来てもらったり、実際に育ててみたりして、観察することもあります。『じめんのしたの小さなむし』を描いたときは、ハナムグリの幼虫を育てました。うまくガラスの飼育ケースの端で虫がまゆを作ってくれて、まゆを作るところを観察できたんです! 感激しました。ダンゴムシの絵本のときは、ダンゴムシを飼ったのですが、私の手の上でダンゴムシが孵化し、赤ちゃんダンゴムシがワーッと出てきて、びっくりしました。
──そ、それはすごい体験ですね! 必ず実際の生き物を見るというのは、絵本を作るうえで、どのような意味があるのでしょうか?
たしろさん:そうですね……正しいカタチを描くために見るということ以上の意味が、わたしにはあります。わたしは、どんなものを描くときも、最初は、“描けるはずがない”と思います。でも、実際に描く生き物に会って、存在を感じて、観察していくうちに、どこかの時点で“あ、もしかしたら描けるかもしれない?”と思う瞬間があるのです。生き物の一瞬のきらめきを目にしたときだったり、運良く出会えた忘れられない瞬間だったり、その一匹の個性に気づいたときだったり……。
絵本づくりを進めていくなかで、生き物との宝物の時間を心に持っていることが、ひと筋流れる川のようになって、長い絵本づくりのいろいろな場面でわたしたちを助けてくれるものだと思っています。
描くものに近づいていく感覚
──今回もタコをたくさんスケッチされましたが、スケッチしていていかがでしたか?
たしろさん:楽しかったです! タコは、じっとしていてくれないので……たえず動き続ける8本の足のスケッチがたいへんでした。8本目を描き終わるころには1本目は全然別のところにあって。
そして、なんだかじーっとタコを見ていると、タコもわたしを見ている気がして……親近感が湧きました。もしかしたらアクリル板のあっちとこっちでお互いに観察し合っていたのかしら……。
──タコの目は見た目が人間の目に似ていますよね。好奇心も旺盛だといいます。もしかしたら、ほんとうに見ていたのかも。
たしろさん:何回も通ったら覚えてくれるかも? また会いに行きたいです。
──これからこのスケッチを生かしてキャラクターを作っていくとうかがいました。スケッチをすることでキャラクターづくりにどんな影響があるのでしょうか?
たしろさん:スケッチした方が絶対いい絵本づくりができるかというと、そこはわかりません。わたしにとっては、いい方法だと思っています。観察したりスケッチしたりすることによって、描くものに近づいていける感じがするからです。見ることによって新しく気がつくこともたくさんあります。こういうときはこういう仕草をするのか……とか、わあ、すごい! とかとか、人間でもこういう(仕草の)人がいるなあ……とか。キャラクターづくりに生きてくるのではないかなあと思っています。
次はタコのキャラクターづくり、あっちこっちの紙やらお菓子の空き箱やらメモ帳にタコを描きながら、カタチが生まれてくるのを待っています。どんなタコが生まれるんでしょう。まだ見えません。
──ほかでは聞けないような絵本づくりのお話をありがとうございました。……「描くものに近づいていく」たしろさんの丁寧な絵本づくりが見えてくるお話でした。次は、キャラクターづくりについて、またレポートさせてください!
クレジットのない写真はすべて 撮影/たしろちさと
たしろちさとさんの絵本
絵本作家をめざす方へ
講談社では毎年「講談社絵本新人賞」を実施しています。絵本作家をめざす多くの方のご応募をお待ちしています。
たしろ ちさと
東京都生まれ。大学で経済学を学んだ後、4年間の会社勤めを経て、絵本の制作を始める。『ぼくはカメレオン』で世界7ヵ国語同時デビュー。おもな著書に、日本絵本賞を受賞した『5ひきのすてきなねずみ ひっこしだいさくせん』(ほるぷ出版)『クリスマスの おかいもの』(講談社)『すずめくん どこで ごはん たべるの?』(福音館書店)『くんくん、いいにおい』(グランまま社)『ぼく うまれるよ』(アリス館)ほか多数。
東京都生まれ。大学で経済学を学んだ後、4年間の会社勤めを経て、絵本の制作を始める。『ぼくはカメレオン』で世界7ヵ国語同時デビュー。おもな著書に、日本絵本賞を受賞した『5ひきのすてきなねずみ ひっこしだいさくせん』(ほるぷ出版)『クリスマスの おかいもの』(講談社)『すずめくん どこで ごはん たべるの?』(福音館書店)『くんくん、いいにおい』(グランまま社)『ぼく うまれるよ』(アリス館)ほか多数。