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『きりのなかで』全ページ無料公開!【「あらしのよるに」全7巻 全ページ試し読み】380万部の国民的ベストセラー 20年ぶり“奇跡“の新シリーズが3月12日スタート!
「あらしのよるに」シリーズより『きりのなかで』を全ページ無料公開!
2025.03.02
メイが そういって わらったころ、バリーも おおごえで わらっていた。
「ハハハ、おい、ガブ。おまえ、どうしちゃったんだよ。
そんな かお して、よっぽど はら へってんのか。
それなら、いいことを おしえてやろう。
もっと すごい えものを みつけたんだよ。」
「は?」
「ヤギだよ、ヤギ。ちょっと ふとってて うまそうな ヤギ。
ギロと いっしょに つかまえようと おもったけどな、この きりだろ。
みうしなっちゃったのよ。」
「ええ? じゃ、あの かたみみの ギロさんも、この おかに きてるんで?」
「ああ、だから いま、あいつと てわけして、その ヤギを さがしてるってわけよ。
みつけたら ウオーッて、三かい、さけぶことに なってる。
おまえも みつけたら、その あいずを わすれんなよ。
おれたち、すぐに かけつけるからよ。
みんなで、うまい ヤギを くおうぜ。」
「へ、へえ。」
「もし、おまえが うまく みつけられたらよ、おれたちの なかまに いれてやるぜ。
そのかわり、ひとりじめするなよ。いうことを きかねえと、ただじゃおかねえぞ。」
「わ、わかったす、バリーさん。」
こわい かおで すごむ バリーに、ガブが ふるえあがって こたえる。
かたを ゆすって さっていく バリーを みおくりながら、ガブは あたまを かかえた。
バリーは、でっかい ウシを ひとりで バリバリ たべてしまうくらいの おおぐらいで、
かたみみの ギロのほうは、ヤギと みれば とても ざんこくな たべかたを するからだ。
むかし、ヤギを おそったとき、ひっしで ていこうする ヤギに
みみを くいちぎられたらしい。
「ど、どうしよう。まさか、あいつらが この おかに きていたなんて。
とにかく、あいつらより さきに メイを みつけないと。」
ガブは きりの なかを はしりだした。
「その ヤギは ともだちでやんすって いっても、どうせ わらわれるだけだろうし。
ああ、こんなことなら、いくら つきが きれいだからって、このおかに メイを よばなければ よかった。」
みちの むこうの きりが、ほんの すこし はれた。
ぼんやりと だれかが みえる。
それを みて、ガブは おもわず さけんだ。
「ああ、あそこに いるのは!」
そのとき、メイも さけんでいた。
「ああ、あそこに いるのは、オオカミだ。
よかった。きっと、ガブだ。おーい、ガブー!
あ、ちがう。あれは ガブじゃない。かたみみだ。かたみみの オオカミだあ。」
ギロは、きりの なかで、 しんちょうに みみを そばだてた。
「いま、たしかに ヤギの こえが きこえたぞ。
かざむきの せいで、においが わからねえが、たぶん こっちのほうからだ。」
いっぽ、いっぽ、ギロが ちかづいてくる。
「この あたりかな。」
ギロの てが まるく なって、いきを ひそめている メイの せなかに のびた、そのとき、
「ギ、ギロさんじゃないっすか。」
ガブが さけぶように こえを かけた。
「おお、ガブ。なんだ、おまえだったのか。」
「そうでやす。また ギロさんは、ヤギか なんかだと おもったんでしょ。」
「ああ、うまそうな やつを みつけてな。」
「バリーさんから ききやしたよ。」
「そういや、おまえも だいこうぶつだったよな。」
「へえ、もちろんすよ。ヤギの にくは、やわらかいのに はごたえも いい。」
「その やわらかそうな おなかを ガブリと くうときって、さいこうだよな。」
「そうそう、くちの なかに うまみが じわ~っと ひろがって。」
「たまんねえぜ。」
ガブは、この はなしが メイに きこえていたらと おもうと、ちくちくと むねが いたんだ。
「それより ガブ。おまえ、こんなところで なに してるんだ。」
「ヘッヘッ、だから その ヤギを みかけたんで、いそいで ギロさんに しらせに きたんでやんす。」
「な、なに、ほんとか。」
「もちろんす。さあ、あっちのほうでやんす。」
ガブは、ギロの せなかを おすように おかを のぼる。
「あの おかの むこうで、のんびり ねころがってやしたよ。
じゃ、おいらは こっちから まわりやすから。」
「わかった。じゃ、おれは そっちから まわって はさみうちだ。」
ギロが いわかげに きえるのを みとどけると、ガブは メイのところに いそいだ。
いつの まにか きりが はれて、あたりが みわたせる。
いわの かげから したを みおろした ガブは、おもわず いきを のんだ。
あの おおぐらいの バリーが、いまにも メイに おそいかかろうと しているのだ。
あまりの おそろしさに、メイの あしは うごかない。
「ああ、もう、まに あわない。」
ガブが なきそうな こえを あげた。
「グワオーーーーーー!!」
バリーの するどい きばが、しずみかけた ゆうひに ひかった。