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『きりのなかで』全ページ無料公開!【「あらしのよるに」全7巻 全ページ試し読み】380万部の国民的ベストセラー 20年ぶり“奇跡“の新シリーズが3月12日スタート!
「あらしのよるに」シリーズより『きりのなかで』を全ページ無料公開!
2025.03.02
オオカミのガブとヤギのメイが「食う・食われる」の関係を超えて友情を育む物語、『あらしのよるに』。
「ともだちだけど、おいしそう」のキャッチコピーで親しまれる本作は、1994年の初刊行以来、多くの読者に愛され続けています。
そしてこのたび、20年ぶりとなる新刊『新あらしのよるにシリーズ(1) あいことばはあらしのよるに』が3月12日(水)に発売されます!
新刊の発売を記念し、『あらしのよるに』シリーズ全7巻の期間限定無料公開が決定!
本記事では、本シリーズ2作目となる『きりのなかで』を全文公開いたします。
バクバク谷で、ガブのなかまに狙われてしまったメイ。
メイのことを大切に思っているガブは、はたしてどんな行動をとるのでしょうか。
「あらしのよるに」シリーズ第4章『きりのなかで』
作:きむらゆういち 絵:あべ弘士
※全ページ公開は4月10日(木)をもって、終了いたします。
むらさきいろの そらに、はいいろの くもが ゆっくりと ひろがりはじめた。
しめった かぜが こだちの あいだを、ひんやりと おりてくる。
おかの うえに つづく いっぽんみちを、だれかが のぼってきた。
「おや、あっちの おかで、うまそうな ヤギたちが おひるねしてるでやんすね。
まるで くってくれと いわんばかりじゃないっすか。」
そいつは あしを とめると、がけから みを のりだした。
「どれ、よりみちして、ちょっと はらごしらえでも……。」
と、そこまで つぶやいて、そいつは きゅうに くびを、プルプルと ふった。
「ああ、おいら、なんてこと いってるんだ。
いくら だいこうぶつでも、もうにどと ヤギは くわないって メイと やくそくしたのに。」
じぶんの あたまを ポカポカと たたくと、そいつは また おかを のぼりはじめた。
そいつは バクバクだにに すむ、ガブと いう オオカミだった。
どうやら メイと いう ヤギと、そんな やくそくを したらしい。
二ひきは、あらしの よるに、まっくらな こやで であい、
あいてが だれだか わからないまま、かたりあった。
そして とうとう、ともだちに なってしまったのだ。
「ちぇっ、せっかく きょうは メイとの やくそくの ひなのに。」
おかを みあげて、ガブが したうちを した。
くろぐろと した いわはだを、しろい きりが うっすらと
おおいはじめたからだ。
ゆうひに てらされた とおくの やまやまも、ぼんやりと かすんで みえる。
そのころ、ヤギの メイも、おかの はんたいがわの いっぽんみちを
のぼっていた。
「ふう~。こんなところ、はじめて きましたよ。
ポロポロがおかと いっても いわばかりだし、バクバクだににも ちかいし、
オオカミには きを つけないとね……。」
そうつぶやいた メイは、はっとして あしを とめた。
きりに けむる いっぽんみちの むこうから、だれかが のしのしと
ちかづいてきたのだ。
「あれは ガブかな。でも、もし、ガブじゃなかったら……。
あ、どんどん こっちに くる。どうしよう。」
しかし、そのころ、ガブは のんきに いわに こしかけて、メイのことを かんがえていた。
「でも、うれしいじゃないっすか、メイの やつ。
ヤギのくせに、オオカミの おいらを しんじて、こんなところまで きてくれるんすから。
それも おいらが、『すこし あぶない ところで やんすよ。』って、いったのに、
『だいじょうぶですよ。わたしは、ガブが いてくれれば あんしんです。』なーんて いいやがってさ。
ブフ、ちょっと ふとってて、すごく おいしそ……
いや、すごく かわいい やつなんすよね、あいつ。ブフフフフ。」
ガブが うれしそうに わらったときだ。
「おう、ガブじゃないか。なに わらってるんだ、こんなところで。」
とつぜん、きりの なかから、まっくろの おおきな オオカミが あらわれた。
「うわっ、こ、こ、これは バリーさん。バリーさんこそ、ど、どうして こんなところに。」
「ヘッヘッヘッ、それがよう。いま、うまい えものを しとめてな。」
「ええ!? ど、どこで。」
「えーと、この おかの はんたいがわかな。」
「ど、どんな えもので?」
「ん~、そうねえ。しろくて、ちょっと ふとってて、
ほら、おまえが いつも だいこうぶつだって いってる にくだよ。」
「えっ、おいらの すきな、しろくて、ちょっと ふとってる にくと いえば……。」
ガブの めの まえが まっくらに なる。
「ああ、な、なんて ひどい。そ、そんな、そんなことって……うう。」
くずれるように ガブは じめんに すわりこんだ。
「おいおい、そんなに がっかりするなよ。
おれが ふとった アヒルを いちわ くったくらいでよ。」
「えっ!? アヒル?」
「ああ、ヨチヨチ ふとってる アヒルさ。
うまかったぞー。」
ガブが “ふう~”と ためいきを つく。
ちょうど そのころ。
メイも ためいきを ついていた。
「ふう~、だれかと おもったら、イノシシさんでしたか。あー、びっくりした。」
「やあ、ヤギさん。あんたも まよったのかい?」
「え? ええ、まあ……。」
「この おかは、くさも きのみも ほとんど ないし、ま、どうぶつの くるところじゃないね。
そのうえ、こんな てんきだ。
あんたも、はやく かえったほうがいいよ。」
そういえば、きりが どんどん こく なってきている。
メイは イノシシを みおくりながら、だんだん しんぱいに なってきた。
「ガブに ちゃんと あえるだろうか。この きりじゃ、ちかくに いても きが つかないことだって……そうだ! ちょっと、よんでみますか。」
メイは ちかくの いわに のぼると、おおごえで さけんだ。
「ガブーー!! おーい、ガブやーーい! おーい。」
メイは、はっとして、くちを おさえた。
そのこえを べつの オオカミにきかれるのを おそれたからだ。
メイは あたりを みわたしながら、ガブの ことばを おもいだした。
「なにかあったら、すぐに おいらが たすけに いきやすからね。
こうみえても おいら、ちょっとしたものでね。
こわい かおで すごめば、ほかの やつらなんて みーんな ふるえあがるんす。
ほらね、こんなふうに……。」
そういって、とくいに なって こわい かおを してみせたのだ。
「あのときの ガブの かおったら、クフフ。」