福木「体型に悩む女の子の葛藤をラップで表現した」
──次に『ピーチとチョコレート』について語り合いましょう。五十嵐さんは、この作品を読まれて、いかがでしたか。
五十嵐:中学生の女の子の考え方や行動の、解像度の高さに驚かされました。『ピーチとチョコレート』は、自身の体型に悩んでいる主人公の萌々(もも)が、ヒップホップに出会って、自信や希望を見出していく物語です。萌々が自分の学生生活を守るため、友達からグループではぶかれないために、明るいキャラを演じるという設定が、とてもリアルだと感じました。
福木:子どものころにクラスメイトから「母子家庭はみんなヤンキーになると思っていた」と言われたことがありました。私自身、母子家庭育ちですが、当時はまだ、めずらしかったんですよね。たしかにそのころ、物語でも映像作品でも、たいてい母子家庭の子どもは不良として描かれていて。創作が固定観念を植え付けてしまい、当事者が生きづらくなることがあると思うので、マイノリティを描く際はとくに、多様な描き方を心がけています。『ピーチとチョコレート』では、自身の体型を生かし、面白くてムードメーカーだとしても、望んでやっている子ばかりではないことや、陰ではいろいろな葛藤や苦悩があることを伝えたいと考えました。
五十嵐:萌々だけでなく、黒人とのミックスで、萌々と同じヒップホップ教室に通う女の子の莉愛(りあ)や、萌々と同じグループの女友達も、どのシーンも女子中学生のリアルな姿が描かれていて、心に残っています。さらに素晴らしいのは、ラップの歌詞ですよね。福木さんはどこかでラップの勉強をされたんですか。
福木:実はこのお話を書くまで、ヒップホップはあまり詳しくありませんでした。ただ、悩んでいる子が想いを吐露する方法が、ラップだったら面白いなと考えたんです。ヒップホップの歴史から、歌詞のつくり方まで勉強しました。沖縄育ちなこともあって、アメリカンなお店に行くとヒップホップが流れていたり、同級生でラッパーデビューした子がいたりと、知らず知らずのうちにヒップホップが身近な存在だったことも、背中を押してくれました。あと、安室奈美恵さんや浜崎あゆみさん、宇多田ヒカルさんの世代なので、子どものころから歌詞を書いてましたね。
五十嵐:そうそう、舞台となっている沖縄の描写も素敵で沖縄に行ってみたくなりました。児童文学でありながら、キュンとするところや、最後にはスカッとくるカタルシスもあり、読んでいて楽しい物語でした。あまりネタバレになるので言えませんが、萌々が最後にラップをするシーンは、文字から音楽が聞こえてくるような爽快感がありました!
福木:嬉しいです! 歌詞を書いているときは、ターンテーブルを回すみたいにパソコンを叩いて、ノリノリで(笑)。五十嵐さんが書いた『15歳の昆虫図鑑』は、傷ついた子の隣に座って、そっと心に寄り添ってくれる物語、私が書いた『ピーチとチョコレート』は、悩んでいる子の肩を抱いて、一緒に伴走するような物語なのかなと思っています。読み終わったあとに元気が湧いてくるエンパワーメント小説を、これからも書いていきたいです。
『ピーチとチョコレート』 著:福木 はる
「美しい 醜い 誰が決めた 作者不詳の詠み人知らず
それなら 穴掘り 捨てろ 埋めろ
いまここに ルッキズムの墓たてろ!」
第64回講談社児童文学新人賞佳作入選作!
●主な内容
体型を気にしながらも、明るいキャラで渡り歩いてきた、萌々、中2。幼なじみの由快からは自分らしくないことを見透かされているが、彼みたいな人気者にはこの苦しさは分かるまい。ある日コンビニで出会った派手な大人から無理矢理すすめられたヒップホップクラスに顔を出してみると、クラスメイトから恐れられているフードを被った孤高の存在・莉愛がいて!? ラップに触れていく中で、萌々の心が少しずつ変わりだす――。
「すべてはイメージ すべて虚構 いまここにいる わたしだけがリアル
Big Up! Big Up! わたしはわたしのままで この人生を謳歌してみせる」
ヒップホップ×友情。明るくてやさしい風が、ここで吹いています!
写真/安田光優(講談社写真映像部)
山口 真央
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。