「漫画」を読むのは「劣った読書」? 「子どもに安心して渡せる漫画」を話題の〔出版ジャーナリスト〕が徹底解説

出版ジャーナリスト・飯田一史が児童書ファンのための漫画サイト「ビブリオシリウス」を分析

出版ジャーナリスト・ライター:飯田 一史

子どもに安心して手渡せる「児童文庫・児童文学のマンガ版」

もちろんそうはいっても、大人としては
「安心して子どもに与えられるマンガがどれなのかわからない」
「どうせならちゃんとしたものを読んでほしい」

という心配や想いがあるだろう。書店で児童書や学習参考書の棚は行き慣れていても、子どもを連れてコミックの棚には行かないという親御さんも多いと思う。ただ実は、最近ではそのあたりのニーズに応えるべく、小学生が読める、児童文庫のコミカライズなどが少し出てきている。

講談社も“児童書ファンのためのマンガサイト”と銘打った「ビブリオシリウス」を立ち上げてウェブで連載マンガが読める。

また、2025年7月にはコミックス第1弾として『ひなたとひかり』と『竜が呼んだ娘』を刊行した。

『ひなたとひかり』は講談社青い鳥文庫で非常に人気の高い「双子の姉妹の入れ替わりもの」の作品。

『竜が呼んだ娘』は、青い鳥文庫の名作『雲のむこうのふしぎな町』を手がけた柏葉幸子による異世界ファンタジーの児童文学だ。

『ひなたとひかり』1巻 漫画:べあろ/原作:高杉六花/キャラクター原案:万冬しま(講談社)
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『竜が呼んだ娘』1巻 漫画:浅井連次/原作:柏葉幸子/キャラクター原案:佐竹美保(講談社)

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どちらのタイトルも非常に丁寧にコミカライズされているし、「小学生が読む」という前提で表現に配慮してつくられている。

「児童文庫はまだちょっとむずかしい」「児童文学の長編だと読み切れない」という子でもすんなり読めるだろう(もちろん総ルビ)。

マンガを気に入ったら原作を手渡して読み比べてもらうのもいいと思うし、「マンガのほうが好き」という子もいるかもしれないが、それはそれでいい。

両作品ともに作画のクオリティも高く、じっくり何度も見る価値のある絵だ。キャラクターの表情ひとつとっても、そこから読み取れる情報量は多い。字からイメージをふくらませるのが読書だが、描かれた表情から、文字にはなっていない人物のきもちを汲み取るのもある種の読解だ。

原作にはない「マンガ」という表現媒体ならではの部分からも、読者にたくさんのことを感じさせてくれる。

「絵が多い本」を読むことは、「字が多い本」と比べて決して「劣った読書」ではない。別の豊かさのある読書体験として、いまの子どもたちにマンガもぜひ選択肢に入れてみてもらいたいと願っている。

文/飯田一史

●連載『出版ジャーナリスト・飯田一史のこの本おススメ!』

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いいだ いちし

飯田 一史

Ichishi Iida
出版ジャーナリスト・ライター

青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA)。 出版社にてカルチャー誌や小説の編集に携わったのち、独立。国内外の出版産業、読書、子どもの本、マンガ、ウェブカルチャー等について取材、調査、執筆している。 JPIC読書アドバイザー養成講座講師。 電子出版制作・流通協議会 「電流協アワード」選考委員。インプレス総研『電子書籍ビジネス調査報告書』共著者。 主な著書に 『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』 『「若者の読書離れ」というウソ』 (平凡社)『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社)『ウェブ小説30年史』(講談社)ほか。 ichiiida.theletter.jp

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青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA)。 出版社にてカルチャー誌や小説の編集に携わったのち、独立。国内外の出版産業、読書、子どもの本、マンガ、ウェブカルチャー等について取材、調査、執筆している。 JPIC読書アドバイザー養成講座講師。 電子出版制作・流通協議会 「電流協アワード」選考委員。インプレス総研『電子書籍ビジネス調査報告書』共著者。 主な著書に 『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』 『「若者の読書離れ」というウソ』 (平凡社)『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社)『ウェブ小説30年史』(講談社)ほか。 ichiiida.theletter.jp