子どもが「海外小説」も好きになる読書法! 「映像化作品」や「短い作品」から入るのがコツ

出版ジャーナリスト・飯田一史のこの本おススメ! 第9回 「海外の絵本・児童文学」 (3/3) 1ページ目に戻る

出版ジャーナリスト:飯田 一史

⑤『水平線のかなたに 真珠湾とヒロシマ』

ロイス・ローリーは、1937年にハワイに生まれ、11歳のときには東京に住んでいたこともあります。彼女には『水平線のかなたに 真珠湾とヒロシマ』という80ページくらいの短い作品があります。

『水平線のかなたに 真珠湾とヒロシマ』
著:ロイス・ローリー/画:ケナード・パーク/訳:田中奈津子(講談社)

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この本は、
・真珠湾攻撃の際に、突如襲撃を受けたアメリカ海軍の若者たちの物語
・原爆が落とされた8月6日に山口や広島にいた子どもたちの物語
・ハワイから東京に来た少女と広島から東京に来た少年が1948年にニアミスする物語

の3つで構成されています。

そして1948年の東京でニアミスしていた少女と少年こそ、1994年にニューベリー賞の授賞式で再会することになるロイス・ローリーと絵本作家アレン・セイ(コウイチ・セイ)だった、というお話です。

二人は授賞式で初めて会ったのだと思っていたのですが、お互いの来歴を話しているうちに、同じ時期に渋谷にいたことがわかり「え? そのとき緑の自転車に乗っていたのは私」と、学校の校庭で柵をはさんで対面していたことに気づいたのです。この本は、それがきっかけで生まれた物語です。

毎年8月になると、「アジア・太平洋戦争に関する本を読もう」というイベントなどが各地で行われますが、日本人以外の視点から見た真珠湾攻撃や、終戦直後の日本の姿を描いたものを読んだことがある10代は少ないと思います。この本は、ページ数は少ないけれども、身近に感じられて新鮮に感じるのではないでしょうか。

また、海外の児童文学、YA(ティーン向け作品)では、時代や舞台、立場が異なる複数の視点でお話が進み、後半の章で登場人物たちが合流するものがよくあります。そういうスタイルの小説を初めて体験してみるのにも、ちょうどいい長さだと思います。

⑥『ハツカネズミと人間』

アメリカでは、全米図書賞やニューベリー賞などを受賞した作品がロングセラーになっていることが少なくありません。

アメリカでは、世評の高い作品の一部は、何年か経って評価がさらに定着し、内容も古びず現代の社会問題を児童・生徒に学んでもらうのに良いものだと判断されると、国語の授業で採用される課題図書(クラスノベル)になります。

授業時間に丸一冊本を読み進めていく、あるいは本を読みきっているのを前提に、ディスカッションをしたり、エッセイを書いたりすることが生徒に課される本になるのです。それがさらに何十年か続けば、ジャンルの定番作品として「読まないといけない」ような正典(カノン)になります。

例えば、世界恐慌後の大農場を舞台に季節労働者たちの世界を描いたジョン・スタインベック『ハツカネズミと人間』などがクラスノベル、カノンの典型例です。比較的短い作品ですが、読むとずっしり来るタイプの小説です。

『ハツカネズミと人間』
著:ジョン・スタインベック/訳:大浦暁生(新潮文庫)

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日本でも児童文学の賞はいくつかあります。でも、受賞したからといって学校教育に組み込まれる道筋はほぼありません。アメリカのように「受賞したら学校で採用される」ことを前提に、何年も読み継いでもらうという売り方が出版社にはできません。

逆に言うと、アメリカでも評価の高い作品が勝手に口コミで売れ続けている、放っておいても読まれ続けているわけではありません。であれば、日本でも、本を手渡しさえすれば自動的に読むようなものであるはずがないのです。だとしたら、読んでほしい本や、読んでみたい本を「一緒に読む」場を作るのが手っ取り早いのではないでしょうか。

「こういうのも読んだら?」という一方的な提案ではなく「私が読みたいんだけど、一人だと読み切れないかもしれないから少しずつ一緒に読んでくれない?」と。何人かで読書会にしてもいいかもしれませんね。

また、読書会をやるにあたっては、子どもから大人への提案、子ども同士での誘いも歓迎してあげてください。

小中高生側にも「読んで面白かった感動を共有したいけど、近くにそういう人がいない本」や、「受験のことなどを考えると読んだほうがよさそうだけど、一人で読むには億劫な本」がわりとあります。

以上、今回は、
・映像から入る
・身近で短い作品から入る
・一緒に読む
という海外文学の入り方を紹介してきました。海外の児童文学、YA作品を主に扱いましたが、他のジャンルでも有効だと思います。ぜひ参考にしてみてください。

文/飯田一史

【好評連載】出版ジャーナリスト・飯田一史のこの本おススメ! 過去記事はこちら

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いいだ いちし

飯田 一史

Ichishi Iida
出版ジャーナリスト・ライター

青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA)。 出版社にてカルチャー誌や小説の編集に携わったのち、独立。国内外の出版産業、読書、子どもの本、マンガ、ウェブカルチャー等について取材、調査、執筆している。 JPIC読書アドバイザー養成講座講師。 電子出版制作・流通協議会 「電流協アワード」選考委員。インプレス総研『電子書籍ビジネス調査報告書』共著者。 主な著書に 『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』 『「若者の読書離れ」というウソ』 (平凡社)『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社)『ウェブ小説30年史』(講談社)ほか。 ichiiida.theletter.jp

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青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA)。 出版社にてカルチャー誌や小説の編集に携わったのち、独立。国内外の出版産業、読書、子どもの本、マンガ、ウェブカルチャー等について取材、調査、執筆している。 JPIC読書アドバイザー養成講座講師。 電子出版制作・流通協議会 「電流協アワード」選考委員。インプレス総研『電子書籍ビジネス調査報告書』共著者。 主な著書に 『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』 『「若者の読書離れ」というウソ』 (平凡社)『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社)『ウェブ小説30年史』(講談社)ほか。 ichiiida.theletter.jp