離婚・再婚家庭の“明るい“子どもたち! 在イタリア35年の作家が見た幸せ子育て

在イタリア35年の作家が見てきたイタリア流幸せ子育て

児童文学作家:佐藤 まどか

自分の幸せが、子どもの幸せにつながる

このように、知っている子どもたちの親の多くが離婚、再婚していますが、皆明るく育ちました。また、離婚協議中のママやパパは、次のパートナーを見つけるのが早いです。自分が幸せになることが、子どもにとっても幸せであるという考え方があるようです。
日本では家庭崩壊や複雑な家庭という言い方があるように、複雑な家庭の子どもが非行に走ったり、問題を抱えるようになることがあると考えられがちですが、イタリアでは違うようです。そこで、前述したような子どもたちがなぜ寂しそうでないのか、考えてみました。

モンタルチーノのカフェ(著者撮影)

いつも褒めまくりのイタリア家族

家族愛の強いイタリアでは、親が離婚していても、双方が子どもに注ぐ愛情は並々ならぬものです。いつも褒めまくり、愛していると伝え、ぎゅっとハグします。最初はその家族関係が濃すぎて面食らったのですが、何十人と見てきた離婚家庭の子どもたちが幸せそうに育っているのを見て、納得しました。子どもが心の問題を抱えるようになる原因は、親の離婚そのものではないのです。その後、親から愛されていると実感できたかどうかです。子どもにとって、親に愛されていないと感じることほど辛いことはありません。
自分が愛されていると実感できれば、ハードルを乗り越えていけるのではないでしょうか。もし両親がいないのなら、祖父母でも、養父母でもいいから、子どもに愛情表現をしてあげることが大切なんだろうなと思います。これは、甘やかすこととは違います。躾は厳しくしても、「愛情はたっぷり」と。

大人にも子どもにも相手の良いところを見つけて褒める!

イタリア人は褒め上手です。自分の子どもやパートナーに対してだけでなく、他人に対してもそうです。病院で指示通りにすると医師や看護師から、またお店でお釣りが出ないようにピッタリ出す度に、「ブラーヴァ!」「ブラヴィッシマ!(ブラーヴァの最上級)」と褒められます。小さなことでも他人を褒め称えるのですから、自分の子どもは勿論褒めちぎります。それを見て、褒め合うことが毎日の暮らしをどれほど幸せにするか、学びました。

我が家では娘が2歳ぐらいの時にレストランに連れて行き、「静かにしていなさい」ではなく、「大人みたいにカッコよく座って食べられるかな?」と聞きました。そして本当にちゃんとマナーよくできたら、「ブラヴィッシマ!」と褒めました。どこの給仕係にも褒められ、デザートまでプレゼントしてもらっていました。こうやって、また次もマナーよく食べようと、子どもなりに理解していくのです。

娘が3歳の時に描いた絵(当時褒めちぎった)。猫らしいですが、ベール的なものを被っているので、お嫁さんなのか。本人も覚えていないそうです。笑。(著者撮影)

ブラヴィッシモ、私の小さな天才ちゃん!

イタリアでは、子どもが部屋をきれいに整理したら、「まあ素晴らしい!ブラーヴォ!」。学校のテストで良い点数を取ったら、「ブラヴィッシモ、私の小さな天才ちゃん!」。洋服が似合う時は、「ベッリッシマ(とてもきれいよ)!」「ベッリッシモ(カッコいい)!」。バスで高齢者に席を譲れば、「ブラーヴァ、優しい子ね!」「ブラーヴォ、ジェントルマンね!」。

こうして、親からも他人からも褒められるのです。学校は日本以上に厳しい(中学校以上は落第がある)ので、先生からは批判されることがあるとしても、家に帰れば親が良いところを見つけてくれ、褒めてくれます。そしてぎゅっとハグしたり、頰ににキスをしたり。

相手の良いところを見つけて褒めること。愛を伝えること。自分も幸せになること
これが離婚・再婚家庭の家族全員が幸せになるためのルールなのかなと思います。

長年住んでいて知らなかった、川沿いのお散歩コース(著者撮影)

自分の居場所がないと感じていた子ども時代

私の母は、1970年代前半にすでに離婚し、ウーマンリブ運動に関わっていました。当時まわりには離婚家庭がありませんでしたから、複雑な心境でした。そして病弱な兄ではなく、私だけが札幌に単身赴任した父に「お試し」で引き取られました。が、育児能力のない父とうまくいかず、東京に戻ってきました。

その後、現在でいうパワハラ担任から「片親」であることを揶揄され、ついに家事全般をやる良い子を演じるのはやめて反抗的になり、登校拒否までしました。優等生から問題児になるのは、あっという間でした。母が再婚した相手には、重い病気を抱えるお嬢さんがいました。学校にはパワハラ教師が、母の頭には兄が、遠い父の頭には再婚相手が、また義父の頭には義姉しかおらず、自分の居場所はどこにもないと感じていたのです。

子どもたち、そしてご両親へ

こういった自分の子ども時代、そしてイタリアでの経験が、作品『雨の日が好きな人』を書くきっかけになりました。家族とは、歩みよらないとなれないもの。養父母や血の繋がらない兄妹と家族になっていくことの意味。雨の日に傘をさして外に出られる幸せを噛み締めること。

やがて出る虹を待つように、闇にいる子にほんの少しでも光が見えてくる物語を描きたいと思いました。子どもたちだけでなく、今、子育てをしているご両親にも読んでいただけたら幸いです。どうか世界中の子どもたちが、誰かに愛されていると実感できますように。

『雨の日が好きな人』佐藤まどか

『雨の日が好きな人』
佐藤まどか:著


──小学6年生の七海は、お母さんが再婚し、あたらしいお父さんとあたらしいおねえちゃんができて、大喜びした。でも、家族になるのは、そんなに簡単なことではなかった。会ったことのないおねえちゃんに嫉妬し、七海はもがく。
入院中のおねえちゃんは、泣き言を言わないし、弱音もはかず、まわりのことを気遣ってばかりだ。七海はだんだん自分が恥ずかしくなっていくが……
複雑な家庭の中で揺れる少女の心を描いた、うつのみや子ども賞&日本児童文学者協会章受賞作家の感涙小説。

佐藤まどか
『水色の足ひれ』(第22回ニッサン童話と絵本のグランプリ童話大賞受賞・BL出版)で作家デビュー。主な著書に『スーパーキッズ 最低で最高のボクたち』(第28回うつのみやこども賞受賞)『ぼくのネコがロボットになった』『リジェクション 心臓と死体と時速200km』(以上、講談社)、『セイギのミカタ』(フレーベル館)、『つくられた心』(ポプラ社)、『一〇五度』(第64回青少年読書感想文全国コンクール中学生部門課題図書)『アドリブ』(第60回日本児童文学者協会賞受賞)『世界とキレル』(いずれも、あすなろ書房)など。イタリア在住。日本児童文学者協会会員。季節風同人。

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さとう まどか

佐藤 まどか

Madoka Sato
児童文学作家

佐藤まどか 『水色の足ひれ』(第22回ニッサン童話と絵本のグランプリ童話大賞受賞・BL出版)で作家デビュー。主な著書に『スーパーキッズ 最低で最高のボクたち』(第28回うつのみやこども賞受賞)『ぼくのネコがロボットになった』『リジェクション 心臓と死体と時速200km』(以上、講談社)、『セイギのミカタ』(フレーベル館)、『つくられた心』(ポプラ社)、『一〇五度』(第64回青少年読書感想文全国コンクール中学生部門課題図書)『アドリブ』(第60回日本児童文学者協会賞受賞)『世界とキレル』(いずれも、あすなろ書房)など。イタリア在住。日本児童文学者協会会員。季節風同人。

佐藤まどか 『水色の足ひれ』(第22回ニッサン童話と絵本のグランプリ童話大賞受賞・BL出版)で作家デビュー。主な著書に『スーパーキッズ 最低で最高のボクたち』(第28回うつのみやこども賞受賞)『ぼくのネコがロボットになった』『リジェクション 心臓と死体と時速200km』(以上、講談社)、『セイギのミカタ』(フレーベル館)、『つくられた心』(ポプラ社)、『一〇五度』(第64回青少年読書感想文全国コンクール中学生部門課題図書)『アドリブ』(第60回日本児童文学者協会賞受賞)『世界とキレル』(いずれも、あすなろ書房)など。イタリア在住。日本児童文学者協会会員。季節風同人。