オードリー・タンの「聞く力」が凄い!  「様子見社会」日本に差し込む光とは

(対談)石崎洋司×近藤弥生子

オードリー・タン(唐鳳)/提供 オードリー・タン(唐鳳)

オードリー・タンさんは、台湾のデジタル担当政務委員。

<デジタル技術を人間のために使い><市民とともに仕事をする>大臣として知られ、世界で初めてトランスジェンダーであることを公表した閣僚でもあります。

そんなオードリーさんが主導した、台湾の新しい教育「素養教育」や、デジタル民主主義とはどんなものなのか?

伝記『「オードリー・タン」の誕生 だれも取り残さない台湾の天才IT相』(講談社刊)を刊行した、児童文学作家の石崎洋司さんと台湾在住で、オードリー・タンさんの著書も多い、近藤弥生子さんと、にお話しいただきました。

オードリー・タン(唐鳳):1981年台湾・台北市出身。生後間もなく重い心臓病を患う。小学校になじめず8歳で不登校に。複数の学校を経て、ドイツで学んだのち、中学に上がるのを機に「台湾の教育を変えたい」と台湾に戻る。14歳でいっさいの学校に通うのをやめることを決意。以降、プログラミングとITビジネスの分野でめざましい活躍を続け、Appleの顧問などを歴任。「ITの神さま」と称される。33歳でビジネスからの引退を宣言。2016年に発足した蔡英文政権に、史上最年少の35歳で入閣。デジタル担当政務委員(日本の大臣にあたる)として迅速な新型コロナ対策で世界的に有名になる。

台湾ではじまっている教育改革「素養教育」

石崎洋司(いしざきひろし)さん/撮影 講談社

石崎洋司(以下、石崎):オードリーさんと台湾の教育改革のことを伺いたいと思います。

オードリーさんは、いじめや体罰、競争をあおり、自分が学びたいことを学べない教育システムに絶望して、8歳にして不登校になった

その経験から、オードリー・タンさんのお母さんが教育実験校の「種の学苑(今の種の親子実験小学校)」を設立されたのが、1994年。

オードリーさん自身が学習指導要領の大改訂に携わって、「変化に対応する力」と自発的な学びに主眼をおいた「素養教育」が始まったのが2015年。

近藤さんも二人のお子さんを台湾で育ててらっしゃいますが、具体的にどんなことが変わってきたと感じてますか?

近藤弥生子(こんどうやえこ)さん/提供 近藤弥生子

近藤弥生子(以下、近藤):私立だけでなく、公立の教育実験校が増えてきましたね

友だちがお子さんを行かせようとしている中学校は、公立なんですが、そこのカフェの運営を、子どもたちがしているんだそうです

台湾では、ギフテッドクラスは昔から公立でもふつうにあります。ついて行けない科目を教える、補習クラスもあります。

全部の授業を分けるんじゃなくて、数学とかアートとか特別な才能のある子は、その授業だけ少人数のギフテッドクラスにいく。

サポートが必要な子は、その子のニーズに応じて補習クラスでフォローする。

それとは別にアート系などの実験校もできてきました。選択肢がとても増えたと思います。

石崎:まさに『教室では、なぜみんなが同じことを学ばないといけないのだろう』という、オードリーさんが小学校に入ったときに感じた疑問を解消しつつありますね。

台湾では、良い中学や高校から、良い大学というエリートコース信仰は無くなったんでしょうか? 

近藤:いえ、それは厳然としてあります。

親の世代はまだ古い教育で育っていますから。日本と同じか、むしろ強いぐらいに名門大学志向はあります。いろんな価値観が併存している感じですね。

石崎:日本にも民間を中心に、さまざまな教育実験校、オルタナティブスクールがあるんですが、いじわるな見方をする人もいます。

子どもの頃は良いけど、社会に出たら苦労するよね」と言われたりします。台湾ではそういう反応はないですか?

近藤:そういう意見は、台湾でもあります。

ちょうど先日、オードリーさんのお母さんが作った「種の親子実験小学校」の学校説明会に行ってきました。

そこで卒業生の方が仰っていたのは、「この学校の良いところは、いい大学に行けるとかいうことではありません。

この学校では子どもの頃から、今日何を学ぶのか、自分で決める。その中で、決断すること、自分で責任をもって判断する訓練をさせてもらった」ということでした。

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