東海オンエア虫眼鏡×映画監督・八鍬新之介『窓ぎわのトットちゃん』との出会い・人生を変えたひと言
映画『窓ぎわのトットちゃん』公開記念スペシャル対談! 映画監督/八鍬新之介さん × 動画クリエイター/虫眼鏡さん【東海オンエア】 #1
2023.12.09
現在大ヒット公開中の、映画『窓ぎわのトットちゃん』を手がけた映画監督の八鍬(やくわ)新之介さんと、小学校教諭の経験を持ち、読書家としても知られる大人気動画クリエイター・虫眼鏡さん(東海オンエア)との対談が実現。「窓ぎわのトットちゃん」の魅力について、また、それぞれがクリエイターとして育った背景や、思い出の本についてなど【全3回】でお話いただきます。
第1回では、「窓ぎわのトットちゃん」との出会いや、虫眼鏡さんの「人生を変えたひと言」について教えていただきました。
目次
教育を学ぶ中で出会いましたが それだけではない作品(虫眼鏡さん)
──12月8日よりアニメ映画『窓ぎわのトットちゃん』が公開されています。八鍬監督は2016年からこの作品の映画化を構想されていたそうですが、まずはおふたりと原作の出会いについてから教えてください。
虫眼鏡さん:僕はかつて小学校の教員をしていたので、「窓ぎわのトットちゃん」は必読書と言いますか……当然、読むべき作品として出会いました。「教育にまつわる本」という前提で読んだのですが、実際に読んでみると「そういうわけでもないな」という感想を持ちました。
印象的なエピソードが色々とありますが、僕がいいなと思ったのは、トットちゃんがトモエ学園に入る際、小林校長先生が4時間も話を聞いてくれたというところ。
そんなにも長い時間、人の話を聞くのは本当に大変ですし、校長先生ならばきっとお忙しいという状況もあったかもしれないのに、すごいなと思いました。それだけ出会う子どものことを大切にしたい、そういう教育をしたいと思われていたからこそだと思いますし、理想的ではありますよね。
八鍬監督:あのエピソードは本当にすごいですよね。今、虫眼鏡さんは教育的なきっかけでこの作品を読まれたとおっしゃっていましたが、この作品が注目された1980年代は、学級崩壊や校内暴力といったことが次々と起こって、日本の教育が画一的になりすぎているのではないか、という疑問を多くの人が抱いた時代でもあったと思います。それで、みんながこの作品に何らかのヒントを求めてヒットした……という側面はあるのかなと。
虫眼鏡さん:なるほど。小学校を退学になったトットちゃんが改めて入学したトモエ学園は、使われなくなった電車の車両を教室にしていたり、時間割は自分で決められるなど、ものすごく自由な学校ですよね。
八鍬監督:はい。今でこそ、フリースクールや特別支援学級などは増えましたが、80年も前にそれらを実践されていた、小林校長先生という方はやっぱりすごい方だと思います。ただ、実際に小学校の教員をされていた虫眼鏡さんから見たら、「ちょっと難しいな」と思われることもありますよね?
虫眼鏡さん:それはもう、なかなか難しい話でございまして(笑)。
ひとりひとりに向き合って、時間をかけて……っていうことが当たり前にできたら、もちろんいいのですが、現状、一般的な学級には30人くらい子どもがいます。そのうちのひとりにじっくり時間をかけてしまったら、「残りの29人はどうなるの?」と、なってしまうと思います。
これは、自分がかつて生徒だったときに思ったことなので、強く聞こえてしまったら申し訳ないのですが、クラスにひとり予習してこない子がいるだけでも、僕はストレスを感じていたんです。というのも、先生がその子につきっきりになって、ひたすら待たされてしまうということが起こっていたので……。それを良い教育と呼べるかといったら、やはり難しいのではないかなと。
「他の子と違う」という個性はもちろん尊重されるべきですが、「集団行動ができる子、人と足並みをそろえられる子」というのも、それはそれで同じくらい尊いというか、こちらもまた尊重されるべきじゃないかなとは思います。「どちらも上手に」というのがなかなか難しいですよね(笑)。どうしてもそんなことは考えてしまいます。
八鍬監督:確かにそうですよね。そこは本当に難しいと思います。
子どもがきっかけで、世界情勢や戦争に敏感になりました(八鍬監督)
虫眼鏡さん:八鍬監督と原作との出会いはどのような経緯だったのですか。
八鍬監督:僕の場合は、最初は小学校の教室の隅に「青い鳥文庫」の一冊として並んでいるのを見かけたところから……。読んでいるクラスメイトはたくさんいましたが、僕はそのときは読まなくて。その後、映画化する原作を色々と探している中で、2016年に初めて出会い、読ませていただきました。
恥ずかしながら自分はそのときまで、「窓ぎわのトットちゃん」が、第二次世界大戦直前のお話だということも、ポリオ(小児麻痺)の男の子が出てくるということも知りませんでした。
そういえば、幼い頃に自分の身の回りにもポリオの子がいると聞いたことがあったので、そこで「あぁ!」とつながる部分はあったのですが。それでも、どんな症状があるのかなどということは、今作のために調べものをするまで、まったく知らなかったんですね。
虫眼鏡さん:「トットちゃん」が戦争のことを含んだ作品だということは、僕も読むまで知らなかったです。
八鍬監督:そうですよね。僕は原作を読んだ頃に子どもができて、それをきっかけに、世界の情勢にも目が向くようになった気がします。
当時はシリアの内戦が激化し、ロシアが本格的に介入しだしたことでより複雑化、長期化していった時期です。国内では子どもの虐待事件の報道を頻繁に目にするようになって……これは昔からあったことが表面化しただけ、と言われることもありますが、それでも肌感覚として違和感や不安を感じることが増えていました。
そんなときこの作品に出会って、戦争と平和、思いやりと差別など、さまざまなテーマが子どもの目線から瑞々しく語られていることに驚いて……ぜひ映画化したいと思ったんです。
ただ、それから7年経ってようやく映画が公開される今になっても、あの頃に感じた不安が拭い去られていないどころか、世界情勢が悪化している……というのは、残念なことだと思っています。
虫眼鏡さん:そうですね。ただ、「トットちゃん」は戦争についても書かれていますが、ひたすら「戦争はあかん!」だけを言っているものではないかなと。
なんというか、僕は平成生まれですが、リアルには戦争を知らないし、今この瞬間に危機に直面しているわけではないから、そこばかりを強調されると、きっと共感しにくく感じてしまうと思うんです。この作品は、淡々と「こうだった」という事実を伝えてくれているので、自然に受け止められました。
八鍬監督:確かに、今の時代の人たちに共感を持って見えてもらえることは、大切だと思っています。
虫眼鏡さん:そうですね。僕も、トットちゃんの体験したことは、決して「今」に無関係なことではないという意識を持って受け止めました。
「君は、ほんとうは、いいやつなんだよ」は 大人が大人に言ってもいいと思う(虫眼鏡さん)
──映画『窓ぎわのトットちゃん』は、大人も子ども楽しく見ることができる作品かと思いますが、特に印象的だったシーンはありますか。
虫眼鏡さん:映画の中ではあの有名な、「君は、ほんとうは、いい子なんだよ」という校長先生のセリフも再現されていましたね。黒柳さんのそのときの心情を表現するように、そのシーンでは光がパァッとさして……という演出がされていたと思うんですけど。
子どもが一番頑張るのって、やっぱり褒められたときだと思うんです。僕も子どもだったときがありますから(笑)、本当にそうなんだよなって。あのシーンは印象的でしたが、何か工夫されたことはあったのでしょうか。
八鍬監督:そうですね。有名なシーンですが、過剰に「優しさ」のようなものを演出してしまうとあざとくなってしまうので、そのあたりはカーテンの揺れだったり、別の形で表現しようという意図はありました。
虫眼鏡さん:そうだったんですね。そういえば、僕が教育大学で学んでいたときは、子どものことを注意したり指導したりするときは「まるで褒めているかのように表現すると良い」みたいなことも聞きました。「きみだったら、もっとできると思うけど、どうかな」みたいな。
八鍬監督:確かに、褒められているように感じますね(笑)。
虫眼鏡さん:そう、言葉をちょっと変えるだけなんですけど、同じ意味でも、怒っているより褒めているかのように表現する方が、ずっとポジティブですよね。「褒めて伸ばす」ってもうずっと言われ続けていることではありますが、子どもって本当にそんな単純なメカニズムで動いているんだと思います。
実は僕が動画クリエイターになったのも、まさにそんな「褒められた一言」がきっかけなんです。
ちょっと嫌な言い方になってしまいますが(笑)、僕はもともと勉強ができたので、勉強で褒められることに関してはもう何も感じないというか、当たり前みたいな感覚になっていて。
ところが、僕たちがやっているYouTubeチャンネル「東海オンエア」のリーダー「てつや」があるとき、勉強とは全く関係ないところで僕に、「お前、面白いじゃん!」と言ってくれたんです。「こんなこと思いつくなんて、すごいね」と。22歳くらいのときですね。
虫眼鏡さん:それまでの僕は、自分はただ勉強ができるだけの人間で、「面白いこと」なんて苦手だし、そっちに行く人間ではないと思っていたんですよ。だから、そんなことを言われてびっくりして。
大袈裟に聞こえるかもしれませんが、「僕が予想していた人生じゃない人生を、やってもいいのかな?」って。そこから「第二の人生」が始まった!くらいのインパクトがありました。だからてつやには、「自分が知らなかった自分」を見つけてもらったと思っています。
八鍬監督:まさに人生を変える一言だったんですね。それで、教員か動画クリエイターか二択を迫られたときも、動画クリエイターとしての活動を選ばれたと聞きました。
虫眼鏡さん:そうなんです。勤めていた学校の校長先生に呼ばれ、どっちにするんだって迫られて……それで動画クリエイターのほうを選んだ。それくらい、僕にとっては大きなことだったんです。
だから、褒められて可能性が広がるのはなにも子どもだけじゃないなって。この作品も、「教育のため」という前提で見ると、ついつい「じゃあ“子どもには”そうしてあげよう」っていう大人からの目線になってしまいますけど、今すぐ自分の友だちに「お前は本当はいいやつなんだよ」って言ってもいいと思うんですよ。
八鍬監督:確かに、大人が大人に「お前は本当はいいやつなんだよ」って言うのも、すごくいいですね。「大人になっても褒められたい」というのはもう、僕にも、みんなにもずっとあると思いますから。
【映画『窓ぎわのトットちゃん』を手がけた映画監督の八鍬新之介さんと、小学校教諭の経験を持ち、読書家としても知られる大人気動画クリエイター・虫眼鏡さんとの対談は全3回。『窓ぎわのトットちゃん』との出会いについてお聞きした第1回に続き、第2回では「お二人の子ども時代と個性の伸ばし方」について、第3回ではクリエイターとしてのご活動についてお伺いします。】
Profile
虫眼鏡(むしめがね)【東海オンエア】動画クリエイター:1992年9月29日生まれ。愛知県出身。愛知県岡崎市を拠点に活動する6人組動画クリエイター「東海オンエア」のメンバー。動画内の概要欄をまとめた著書「東海オンエアの動画が6.4倍楽しくなる本」を2018年に出版し、その後同シリーズを立て続けに出版。東海ラジオでのレギュラー番組「東海オンエアラジオ」ではゆめまると共にメインパーソナリティを務めている他、「東海オンエア虫眼鏡・島﨑信⻑ 声YouラジオZ」のレギュラー出演など積極的にラジオ活動も行っている。
取材・文/小川聖子
撮影/水野昭子
映画『窓ぎわのトットちゃん』
全国東宝系にて公開中
出 演:大野りりあな 小栗旬 杏 滝沢カレン / 役所広司 他
監督・脚本:八鍬新之介
共同脚本 :鈴木洋介
キャラクターデザイン:金子志津枝
制 作:シンエイ動画
原 作:「窓ぎわのトットちゃん」(黒柳徹子 著/講談社 刊)
<新しい学校の門をくぐる前に、トットちゃんのママが、なぜ不安なのかを説明すると、それは、トットちゃんが、小学一年生なのにかかわらず、すでに学校を退学になったからだった。一年生で!!>
女優・ユニセフ親善大使である黒柳徹子さんが自分自身の小学生時代をえがいた『窓ぎわのトットちゃん』。徹子さんが子ども時代に出会った、小林宗作先生とトモエ学園での思い出をいきいきと描いた本作は、1981年3月に刊行され、たちまちベストセラーとなりました。
現在までの累計発行部数は日本国内で800万部、全世界で2510万部を突破。20以上の言語で翻訳もされ、日本だけでなく世界中の人々の心を捉え、時代も国境も超えたロングセラーとして、今もなお世代を超えて愛され続けています。
小林宗作先生が作ったトモエ学園のユニークな教育と、そこに学ぶ子どもたちの姿を描いた本書は、「こんな学校に通いたい!」「こんな先生と出会いたい!」と、令和のいまも人々のあこがれの気持ちをかきたてます。
2023年12月8日公開のアニメ映画「窓ぎわのトットちゃん」のストーリーブック。読みやすい文章と約160点のアニメ絵で、映画の内容をたどることができます。すべての漢字にふりがながついていて小学校低学年からひとり読みできるのはもちろん、読み聞かせにも向き、親子で楽しめる構成です。美しい絵を生かしたブックデザインは、映画を見たあとも保存しておきたくなるクオリティ!
<すべての漢字にふりがなつき>
いまや全世代に人気のカリスマ動画クリエイターグループ「東海オンエア」。活動10周年を迎え、700万人に迫る勢いのトップクリエイターの頭脳として活躍する虫眼鏡氏。チャンネル登録者70万人を超える虫眼鏡氏の個人チャンネル「虫眼鏡の放送部」に寄せられた視聴者からのお便りとその回答をまとめたファン待望の1冊。
東海オンエア活動10周年を迎えた心境を語る書き下ろしエッセイも掲載!
小川 聖子
東京都出身。アパレル系企業に勤務したのちライターに。雑誌やWeb系メディアにてファッション関連記事や人物インタビュー、読み物記事の構成や執筆を行う。長男はついに成人、次男は中学生に。1日の終わりに飲むハイボールが毎日の楽しみ。
東京都出身。アパレル系企業に勤務したのちライターに。雑誌やWeb系メディアにてファッション関連記事や人物インタビュー、読み物記事の構成や執筆を行う。長男はついに成人、次男は中学生に。1日の終わりに飲むハイボールが毎日の楽しみ。