ゴスペラーズ北山が教える面接で「失敗」しない方法 慶應大教授と意気投合する「スゴい」体のしくみ

ゴスペラーズ 北山陽一×慶應大教授 川原繁人 『絵本 うたうからだのふしぎ』刊行記念スペシャル対談

ライター:山口 真央

生きて帰ってこられたら30点 「加点法」で幸せになる

ゴスペラーズの北山陽一さんが大事にしている「失敗」しない考え方は、北山さんの経験から、独自に編み出された方法でした。(写真/GRACIAS)
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──『絵本 うたうからだのふしぎ』は物語を楽しみながら、声が出るしくみも勉強できる、新しい絵本なのですね。最後に、これから受験シーズンが本格的にはじまりますが「声を出す」シーンで緊張しない方法を教えていただけますか。

北山:よく「本番は練習どおりに」という言葉を耳にしますが、僕は違うやり方を提案したい。歌手の場合を想像してみてください。お客さんが3歳のお子さんのときと80歳のおじいちゃん、おばあちゃんのとき、同じ歌でも、どう伝えたいかが変わるはずです。実際の客席はそれほど極端ではないですが、その都度歌い方や、歌を通して伝えたいことは変わるのが自然だと思っています。

そのために練習では、自分にどういう引き出しがあるのか、「正解」を捨てて試してほしいです。練習は引き出しを増やす営みです。できるだけ小さな声で話したり、怒鳴ってみたり。寒い場所や大勢の人前でなど、環境を変えてみるのもよいかもしれません。

川原:引き出しを増やすには、声優の山寺宏一さんが唱える「ガンダム理論」を試してほしい。山寺さんは、キャラクターのいろいろなモビルスーツに乗って、それぞれに命を吹き込むように演じていると話していました。いろんな性格やキャラになりきって練習しておくと、本番に強くなりそうです。

北山:それは楽しい練習になりそうですね。練習どおりに本番をやろうとすると、環境に反応した自然な変更も「失敗」になってしまう。本番の環境が練習と同じなんてことは、僕の経験上ありえないことです。

僕は舞台に出て、生きて帰ってこられたら30点をもらえることにしています。その30点だけ持って本番に臨みます。トレーニングやリハーサルをしているから、「たまたま」できたことが少しずつ加点されて、最終的に70点で終わったとしましょう。このときもし「練習通り」もしくは「理想通り」を前提に100点を持って舞台に出ていたら、30点分失敗して失ったことになります。30点から40点加点された70点と、100点から30点減点された70点とでは、気持ちが全然ちがいます。年間の舞台の数を考えると、人生にも大きく関わってくると感じています。

川原:僕はこの考え方が大好きなんです。北山さんに教えてもらってから、娘には「100点をとらなくていいよ」と伝えています。娘の力を信じていないのではなく、100点を目指していると、95点をとれたとしても、そんな自分を愛せなくなるから。

北山:気持ちが楽になりますよね。「今日は失敗します、ごめんね!」ぐらいに自分の期待を手放せると、とっても幸せなページが待っています。肩の力を抜く方法の一つとして、ぜひ試してほしいです。

北山陽一(きたやまよういち)
ミュージシャン、慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授。1992年慶應義塾大学環境情報学部に入学、1994 年早稲田大学のアカペラサークル「Street Corner Symphony」の門を叩き、「ゴスペラーズ」に加入。同年12月にメジャーデビューを果たし、「永遠(とわ)に」「ひとり」「星屑の街」「ミモザ」など、数々のヒット曲を送り出す。2012 年から教壇に立ちつつ、2021年より慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科に在学。

川原繁人(かわはらしげと)
慶應義塾大学言語文化研究所教授。2007年マサチューセッツ大学より博士号(言語学)。ジョージア大学、ラトガーズ大学にて教鞭を執った後、現職。専門は言語学、音声学。「ことばを話せることって、とってもすごいこと!」という想いを伝えるため、幅広い読者に向けて本を執筆している。代表的な著書として『音とことばのふしぎな世界』(岩波科学ライブラリー)、『音声学者、娘とことばの不思議に飛び込む』(朝日出版社)、『なぜ、おかしの名前はパピプペポが多いのか?言語学者、小学生の質問に本気で答える』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『言語学的ラップの世界』(東京書籍)がある。義塾賞(2022)、日本音声学会学術研究奨励賞(2016、2023)を受賞。

声優の山寺宏一さんも絶賛! 『絵本 うたうからだのふしぎ』が発売

作/川原繁人、北山陽一(ゴスペラーズ) まんが/牧村久実

歌うとき、体のなかでどんなしくみが働いているかを、わかりやすく解説した絵本が登場!

肺から声帯に空気が送られるとき、どんな筋肉が働いている? 高い音と低い音を使い分けるとき、体の中で何が起こってる?

「空気」が歌になるまでの様子を、まんが形式で楽しく教えてくれます。

慶應義塾大学教授・川原繁人氏の丁寧な解説つき! 子どもだけでなく、アナウンサーや声優など、声を仕事にしている人にも読んでいただきたい絵本です。

*紙の本だけの豪華特典*
本を読み進めながら、内容に合わせて、北山陽一さん作詞作曲の『うたうからだのふしぎ』を聴くことができます。
(楽曲を聴くための二次元コードが掲載されているのは紙の本のみとなります) 

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やまぐち まお

山口 真央

編集者・ライター

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。