講談社児童文学新人賞を受賞したデビュー作『ルドルフとイッパイアッテナ』がシリーズ累計100万部超、幼年童話「おばけずかん」シリーズは累計200万部超。
2026年で作家デビュー40周年となる児童文学作家・斉藤洋(さいとう・ひろし)先生が、初めて「文章の書き方」を指南する著書『人生がちょっとよくなる文章術』が刊行されました。この記事では、本書の中の一部を抜粋し、「つまらない文章をおもしろくする方法」についてお伝えします。
『人生がちょっとよくなる文章術』
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そのまま書いてもおもしろくない
〈吉祥寺駅から夕方、ちょっとこんでいる電車に乗り、ドアのそばに立っていたら、まわりの乗客たちが、ひとり残らずスマホをいじっていた。
わたしのとなりでドアによりかかっている若い男は、指をさかんに動かしている。何をしているのかと、男のスマホ画面をそっとのぞいてみると、ゲームをやっていたのである。〉
という文章があります。さて、この文章がおもしろいでしょうか。
まったくおもしろくない! では、文章ではなく、この文章が書かれている状況は? これまた、まるでおもしろくなく、読んでいて、我が国の将来が心配にすらなります。
書かれている状況がつまらないから、その状況を表現している文章もつまらないのです。つまり、おもしろくもない現実をそのまま書いているから自分が読んでも、人が読んでも、つまらない文章なのです。
それでは、こうしてみましょう。
〈吉祥寺駅から夕方、ちょっとこんでいる電車に乗り、ドアのそばに立っていたら、まわりの乗客たちが、ひとり残らずスマホをいじっていた。わたしのとなりでドアによりかかっている若い男は、指をさかんに動かしている。
何をしているのかと、男のスマホ画面をそっとのぞいてみようとして、気がついた。その若い男の耳がみょうに長いのだ。長いだけではない。長くたれさがったその耳は、うす茶色の短い毛でおおわれている。
男がスマホの液晶画面から顔をあげ、わたしを見返してきた。すばやく動かしていた指が止まった。わたしは息をのんだ。その男の顔は……。〉
はい。これでこの文章は終わりです。
どうなるの?と興味がわくか
その男の顔はどうだったんだよ? 〈わたし〉が息をのむほどかわった顔をしているんだろ? それに、男の耳は長くたれさがっていて、うす茶色の短い毛でおおわれているっていうじゃないか。そいつ、何者だったんだよ?
……って、そんな気持ちになりませんでしたか? そういう気持ちになられたら、わたしのもくろみは成功したということになります。
わたしにはこの男の顔がどんなふうなのか、イメージがあります。そのイメージは、読んでいるかたにも、部分的には伝わったはずです。すくなくとも、男がふつうの人間ではないということは、おわかりいただけたと思います。
それで、この先、この話がどうなっていくかというと、わたしは今のところ、それについて、まるで考えていません。だから、この先、どうなるんだよときかれても、すぐには答えられません。
男の正体が何者で、これから何をしようとしているのかは、いってみれば、今のところ、どうでもいいのです。
問題は、みなさんがこの先どうなるのだろうと興味がわいたかどうかであって、もし、先を読みたくなったとしたら、それはどうしてかを考えてみましょう。
















































































