大切な人を失ったあなたへ 悲しみに寄りそう絵本3冊専門家が厳選

大人に効く絵本〔16〕『おじいちゃんのたびじたく』『なみのいちにち』『あかいてぶくろ』がおすすめ

絵本コーディネーター:東條 知美

悲しみと幸せを知る大人のための一冊

続いてご紹介するのは、『あかいてぶくろ』(作:いりやまさとし)です。

長年連れ添った奥さまを亡くされた、絵本作家のいりやまさとしさん。この先、もう二度と奥さまに会えない現実を受け止められず、今の気持ちを本にして、この先どう暮らしていけるかを考えてみようと思われたそうです。

この物語は、そんな作者の切実な思いから生まれた作品です。

冬の寒い日、赤いてぶくろがもう片方のてぶくろを探しに出かける『あかいてぶくろ』(作:いりやまさとし/講談社)。

モチーフに選ばれたのは、道端に落ちた片方のてぶくろ。クリスマスも間近の寒い冬の日です。待っていれば戻ってくるかもしれないと、その場でもう片方のてぶくろを待ち続けますが、いつまで経っても戻ってきません。

このまま雪に埋もれてしまってはダメだと立ち上がるてぶくろの姿に、読み手はまずほっとして、胸をなでおろすでしょう。

片割れを探して、歩き出すてぶくろ。街はにぎやかで、みんな幸せそうです。周りが幸せそうに見える風景の中で、自分自身の孤独が際立った経験、みなさんにもきっとあるのではないでしょうか。

雑踏の中にもショウウィンドウにも、歩道橋から見下ろしても、あかいてぶくろは見つかりません。ふと、そっくりなてぶくろを見かけ、必死で走って追いつきますが、残念なことに人違い。

疲れきって公園のベンチに座るてぶくろは、ベンチの古釘(ふるくぎ)に毛糸がからまっていることにも気づきません。片割れとの幸せな日々を思い出しながら、再びあてもなく歩き出すと、ひと目ずつ毛糸がほどけてしまいます。

すると、ひと目ずつよみがえってくる、片割れとのあたたかな思い出。これが、てぶくろの心を立て直すきっかけとなります。記憶の中のあの人が、あのときが、生きる力を与えるのです。

そして、てぶくろのそばには、ほどけた赤い毛糸を巻きなおしてくれる第三者が現れます。ほどけた毛糸は、新しく編み直すこともできるのです。てぶくろが、また周りの人たちと歩んでいこうと決意する象徴的なシーンではないでしょうか。

生きていれば、誰もが『片っぽだけの手袋』になることがある。「この絵本がそんな人に届いてほしい」と、いりやまさんは語っています。

『あかいてぶくろ』は、喪失と再生を描く、悲しみと幸せを知る大人のための絵本だと思います。ぜひ手にとって読んでいただきたいです。

取材・文/星野早百合

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とうじょう ともみ

東條 知美

絵本コーディネーター

絵本コーディネーター、講師、コラムニスト。1973年新潟県上越市生まれ。白百合女子大学児童文化学科卒業。在学中は桑原三郎氏(児童文学研...

ほしの さゆり

星野 早百合

ライター

編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名...