子どもにも親にも【12選】日本被団協「ノーベル平和賞」受賞の今こそ読みたい「戦争と平和」を知る本 

大人向けから子ども向けまでコクリコ編集部が厳選

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日本被団協の活動

日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)は、47都道府県のそれぞれにある被爆者団体の協議会。広島・長崎で原爆の被害を受けた被害者の生存者である「被爆者」の全国組織です。

原爆の被害者たちが自ら立ち上がり「日本被団協」を結成した経緯と、そのあゆみを知ることができるのが『被爆者からあなたに: いま伝えたいこと』(日本原水爆被害者団体協議会/編 岩波書店刊)。

『被爆者からあなたに: いま伝えたいこと』日本原水爆被害者団体協議会/編

ふたたび被爆者をつくらないために、被害の真実を訴え、原爆投下の責任を問い続けてきた被爆者たちによる、次世代へのメッセージが込められています。

被爆者・梶本淑子さんの体験

被爆者の体験した衝撃と苦しみは計り知れないものです。

『14歳のヒロシマ 被爆者が伝える戦争と平和のはなし』(梶本淑子/著 河出書房新社刊)は、広島で被爆した梶本淑子さんが伝える「戦争の真実と平和への想い」をつづった作品。

梶本淑子さんは被爆体験証言者として長年活動し、2019年には、広島県を訪れたローマ教皇へ被爆者を代表して証言を行ったことなどでも知られています。

『14歳のヒロシマ: 被爆者が伝える戦争と平和のはなし』梶本淑子/著

原爆投下の日から、生き残った苦しみ、「一生語りたくなかった」記憶を伝えるために70歳にして証言者になった決意──梶本淑子さんによる平和のバトンをつなぐメッセージが、今の若い世代に向けて語られています。

谷川俊太郎による反戦の詩

2024年11月に、92歳で惜しまれつつもこの世を去った詩人・谷川俊太郎さん。谷川さんは戦時下に少年時代を過ごし、空襲や疎開も経験しました。

そんな谷川さんが戦争への思いをつづったのが、絵本『せんそうしない』(谷川俊太郎/文、えがしらみちこ/絵 講談社刊)です。

『せんそうしない』谷川俊太郎/文、えがしらみちこ/絵

「ちょうちょと ちょうちょは せんそうしない/きんぎょと きんぎょも せんそうしない/くじらと くじらは せんそうしない/まつのき かしのき せんそうしない」

「ちきゅうに いきる いきものの なかで/せんそうを はじめるのは にんげんだけ/それも おとなだけ」(『せんそうしない』より)

詩人・谷川俊太郎さんの言葉で語られる戦争への思いと、絵本作家・えがしらみちこさんによる透明な生命力のあふれた絵が融合した作品。人間の知恵はどこにあるのかを、静かに問いかける一冊です。

黒柳徹子・戦時下の少女時代

日本の戦後最大のベストセラー『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子/著 講談社刊)。

読んだことがなくても、「トモエ学園」「電車の教室」や、「君は、ほんとうは、いい子なんだよ」といったセリフは聞いたことがある、という人が多いのでは。

でも、この作品が〈戦争をえがいた本〉だということは、意外にもあまり知られていません。

『窓ぎわのトットちゃん』(新装版)黒柳徹子/著

『窓ぎわのトットちゃん』は、黒柳徹子さんが自身の幼少期とトモエ学園で学んだ日々を描いた自伝的物語。ユニークな授業、友だちとの交流など、楽しく感動的なエピソードがつづられています。

戦争の足音が聞こえてくるのは、物語の後半です。

学校からの帰り、トットちゃんはキャラメルの自動販売機にお金を入れますが、キャラメルは出てきません。物資が少なくなっていたからです。また、ある日家に帰ると、飼い犬のロッキーがいなくなっていました。

ロッキーはシェパード。そのとき、トットちゃんはロッキーがいなくなった理由がわかりませんでした。そして物語の結末は──。

戦中の子どもだったトットちゃん。その生活も、静かに描かれています。

新聞社が追った原爆被害の実態

広島に本社を置く中国新聞社。『ヒロシマの空白 被爆75年』(中国新聞社/著 中国新聞社刊)は、朝刊に連載され多くの反響を呼び、新聞協会賞(2020年度)を受賞した『ヒロシマの空白』を書籍化したもの。

『ヒロシマの空白 被爆75年』中国新聞社/著

公的記録に記されていない一人一人の死者の存在や、戦後数十年を経てもなお未解決の問題を独自取材で解き明かし、戦前戦後の貴重な写真とともに〈原爆被害の実態〉を伝える一冊です。

原爆投下後の広島で生きた子どもたち

原爆投下後、印刷機能を失った中国新聞社がニュースを口伝えで知らせる「口伝隊」を組織したという事実をもとに、小説家・劇作家の井上ひさしさんが書いた朗読劇「少年口伝隊一九四五」。

2008年の初演から、2010年に井上さんが亡くなったのちも、令和の今に至るまで繰り返し公演されています。

この台本に、描きおろしイラストを添えて、小学生から読める戦争の物語として書籍化したのが『少年口伝隊一九四五』(井上ひさし/著 講談社刊)です。

『少年口伝隊一九四五』井上ひさし/著

原爆投下直後、国民学校6年生の英彦、正夫、勝利の少年3人は、中国新聞社が急きょ組織した口伝隊に雇われ、ニュースを口頭で市民たちに伝えますが……。

広島の惨状と、その中で懸命に生き、死んでいく少年たちの姿が胸を打つ物語です。

ズッコケ三人組の作者が描いた原爆の真実

那須正幹さんは「ズッコケ三人組」シリーズの著者として広く知られています。

エンターテイメント色豊かな児童文学作品を数多く手がけた作家ですが、広島で生まれ3歳で被爆した経験から、『屋根裏の遠い旅』や『折鶴の子どもたち』など、戦争をテーマにした作品も遺しています。

ここでは、小学生から読める科学絵本『広島の原爆』(那須正幹/文、西村繁男/絵 福音館書店 刊)を紹介します。

『広島の原爆』那須正幹/文、西村繁男/絵

『広島の原爆』は、生存者の証言をもとに、当時の広島の町や人々の暮らし、原爆の被害、そして、原爆開発から投下までの歴史的背景を解説した科学絵本。

核兵器の原理・放射線障害など、原爆にまつわる事柄を多角的にとりあげ、画家・西村繁男さんによる克明な絵によって、子どもにもわかりやすく伝える作品です。

水木しげるの壮絶な戦争体験

『ゲゲゲの鬼太郎』の水木しげるさんが、太平洋戦争に従軍した実体験を元に描いた戦記漫画が『総員玉砕せよ!』(水木しげる/著 講談社刊)です。

現在は文庫形式の新装版で手に取ることができます。

『総員玉砕せよ! 新装完全版』水木しげる/著

太平洋戦争末期、南方戦線ニューブリテン島バイエンでアメリカによる猛攻を受けた日本軍。圧倒的劣勢の中、日本軍将校は、玉砕を決断し──。

著者自らの実体験を元に、戦争の恐ろしさ、無意味さ、悲惨さを描いた傑作として、漫画ファンのみならず、幅広い世代に読み継がれている作品です。

かこさとしが目撃した戦争の悲惨

絵本作家のレジェンドとして、たくさんの子どもたちに親しまれてきた、かこさとしさん。

その著作は、『だるまちゃんとてんぐちゃん』『からすのパンやさん』をはじめ、『かわ』『宇宙』などの科学絵本も含め、600作以上に及びます。

そんなかこさんが、「戦争」をテーマにえがいた作品が『秋』(かこさとし/作 講談社刊)です。

『秋』かこさとし/作

『秋』は、太平洋戦争のとき、かこさんが体験した実話をえがいたもの。

当時、高校生だったかこさんが目撃したある出来事をとおして、戦争の悲惨さ、怒りと悲しみを、いつまでも忘れないよう子どもたちへ伝えようとした作品です。

『秋』の原型は1957年に紙芝居としてえがかれていましたが、書籍として刊行するため、かこさん自身が加筆や改訂を施していたものの、生前には出版が叶いませんでした。かこさんは2018年に惜しまれつつも亡くなり、その後2021年に、絵本として刊行されたのがこの絵本なのです。

平和を願うかこさんの強い思いが、文章と絵によって、美しく悲しく表現された一冊です。

アンパンマンの作者が見た戦争

日本中の子どもたちに愛と勇気を届けるヒーロー、『アンパンマン』の作者・やなせたかしさん。

やなせさんが自らの戦争体験を綴った本が、『新装版 ぼくは戦争は大きらい ~やなせたかしの平和への思い~』(やなせたかし/著 小学館刊)です。

『新装版 ぼくは戦争は大きらい ~やなせたかしの平和への思い~』やなせたかし/著

1915年に召集を受て、小倉の野戦銃砲部隊に入隊したやなせさん。中国戦線に派遣され、上海郊外で終戦をむかえました。戦争中には、特攻に志願した弟との別れなど、辛く悲しい思い出もありました。

「大きらい」と語る戦争のことをあまり話したがらなかったやなせさんですが、90歳を超え、未来を生きる世代へ戦争の体験を語り継ごうと考えたそうです。

やなせさんが亡くなる直前まで語った最後のメッセージが、この一冊に込められています。

子どもの本の作家たちが語る「戦争の真実」

戦争の体験は、子どもの本の作家19人のその後の人生に大きな影響を与えました。

『子どもたちへ、今こそ伝える戦争 子どもの本の作家たち19人の真実』(講談社編)は、絵本や児童文学など「子どもの本」の作家たちによる、自らの戦争体験を1冊に編んだアンソロジー。

収録されている作品は、長新太さん、和歌山静子さんをはじめとした、広く長く子どもたちに愛される名作をてがけた作家たちによるものです。

『子どもたちへ、今こそ伝える戦争 子どもの本の作家たち19人の真実』長新太、和歌山静子、那須正幹、長野ヒデ子、おぼまこと、立原えりか、田島征三、山下明生、いわむらかずお、三木卓、間所ひさこ、今江祥智、杉浦範茂、那須田稔、井上洋介、森山京、かこさとし、岡野薫子、田畑精一/著、柳田邦男/解説、講談社/編

子どもに物語を伝えることを仕事としている作家たちによる「自分自身の話」は、戦争の話をはじめて読むお子さんにも伝わりやすいことでしょう。ひとりずつのお話は短く、イラストも入り、読み進めやすくなっています。

この本は、子どもから子どもへのメッセージです。戦争を日常とした当時の子どもたちから、現代の子どもたちへ、その暮らしと思いが19人それぞれの視点で描かれています。

家族に戦争体験者がいない子どもが多くなった今こそ、戦争体験を語り継ぐためにも、ぜひ手に取ってほしい一冊です。

「ノーベル賞」はなぜできた? ノーベルの人生を知る

誰もが知っている「ノーベル賞」ですが、ノーベルの人生もまた広く知られています。

最後の一冊は、子どもも手に取りやすい新書サイズの伝記文庫で刊行されている『ノーベル』( 大野進/文、藤原カムイ/絵 講談社刊)を紹介します。

『ノーベル』 大野進/文、藤原カムイ/絵

ノーベルは1833年にスウェーデンに生まれた科学者・起業家です。

機雷を実用化した父に似て発明好きだった少年は、アメリカで物理・化学を学びます。1853年に始まったクリミア戦争のさなかに、強大な爆発力をもつ液体「ニトログリセリン」と出会い、ダイナマイトを発明しました。

ダイナマイトは鉄道や運河の開発に使われ、産業の発展に大いに役立ちました。しかし、戦争が起こると、恐ろしい武器へと姿を変えることになったのです。

大富豪になったノーベルは、自分の財産を、人類のために力をつくす人々に分けようと考えました。そして世界平和への願いを未来にたくし、「ノーベル賞」ができたのです。

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この記事で紹介する作品は以上ですが、「戦争と平和」をテーマにした作品はまだまだたくさんあります。ノーベル賞をきっかけに、あなたもぜひ本を手に取って、「戦争と平和」について考えてみませんか。

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