勉強嫌いや友達トラブルに対処 小児脳科学者の育児法「ペアレンティング・トレーニング」事例集

事例でわかる! 勉強嫌いやいじめにも対応! ペアレンティング・トレーニング#3

いじめを受けているうちの子を救ってあげたいときのペアレンティング・トレーニング

子どもにかかわる心配事といえば、勉強の次にいじめがくるでしょう。いじめに対しては、どのようなペアレンティング・トレーニングが可能なのでしょうか。

ケース3)泥で汚れて帰ってくる我が子が心配でならない家庭の話

これは小学校中学年の男児のお話です。その学校では集団下校があり、その子は同じグループのAくんに溝に落とされたり、きつい言葉でいじめられたりしていたそうです。汚れて帰ってきて、もう学校に行きたくないという我が子がかわいそうで、親御さんはとても胸を痛めていました。

いじめを受けている場合は、まずは家庭の中に巣食っている不安を安心に変えることから始めます。このケースも、親御さんが抱いた心配や不安な心が負の連鎖を生み出していたので、子どもが泥まみれで帰ってきたとしても過剰な不安顔を見せないことをアドバイスしました。

助言に沿って、親御さんは子どもが泥をつけて帰宅してときに「ドロドロになっちゃったね。じゃあ、お風呂に入ってサッパリしたら、ホットケーキ焼いてあげるから食べよっか」と子どもに笑顔で伝えたそうです。

すると、ホットケーキを食べているときに「実はAくんに溝に落とされる前、僕がAくんにいろんなこといったんだ。だからA君、怒ったんだよ」と語り始めたといいます。実は一方的な暴力ではなく、自分の子どもにきっかけがあったことがわかったそうです。

この例では、親側が不安顔をやめることで「⑤親子が楽しめるポジティブな家庭の雰囲気を作る」ことにつなげました。

親のポジティブな態度に安心すると子どもは「おりこうさんの脳」を駆使して自分から経緯を話し始めたので、親はそれに続いて「④怒りやストレスに対する、適切な対処法を共有する」にならって、「次も同じことが起こったら、どうすればいいと思う?」と対処法を子どもに聞きました。

子どもは「こころの脳」である前頭葉を使って自分が取るべき行動を考えて、「Aくんに何かいいたくなったらうしろを向くとか、離れて歩こうかな」と自分からアイデアを出し、実際にそれを実行して穏やかな気持ちで帰ってくるようになったといいます。

親は子どもがつらい状況になったときには不安に陥るよりも、まずは「どうしたら子どもの不安を減らせるか」を考えることが大切です。親がポジティブに対応することが子どもの余裕につながって、ネガティブな状況を乗り越えていける脳に鍛えていきます。

いじめやネガティブな出来事に対しては、子どもの不安を取り除いてあげる言葉と行動が大切です。写真:アフロ

ケース4)スマホ買って攻撃に困った! 我慢を教えたい家庭の話

事例の最後は我が家の例を紹介しましょう。小学校高学年以上になると、スマホを欲しがる子が増えます。我が家の娘も欲しがった時期がありましたが、成田家では当時、買い与えるのは今ではないと判断したときがありました。

私が使ったのは「⑥親がブレない軸を持つ」です。成田家は「夜8時に子どもは寝る!」「自分より弱い者が優先となる」「死なない! 死なせない!」という3本の軸がありましたから、そのうちの「自分より弱い者が~」を使って今はスマホは買ってあげられないことを伝えました。

高額なスマホを買うことでペットのエサ代がなくなるため、あなたより弱い立場の犬の生活が危ぶまれると伝えたのです。

詭弁と受け取る方もいますが、我が家では3本の軸に反することは絶対にしないため、娘は文句をいいながらもスマホを我慢することができました。

また、それと同時に自分のお小遣いを貯めるという別の理論を組み立てました。自分でできることを考え、対応方法を確立できるのは「こころの脳」のなせる技です。

ペアレンティング・トレーニングから卒業できるのはいつ?

「卒業の時期をあえていうなら、生活リズムが体に染み込んでいることと、『からだの脳』『おりこうさんの脳』『こころの脳』が順番にしっかりと積み上がって、『こころの脳』で物事に対応できることが条件です。

例えば小学校からトレーニングを積み重ねていけば、中学校2~3年生で子どもに手がかからなくなったと思えるときがくるでしょう。感覚としてはそのころです。

子育ては心配と信頼が合わせて100です。赤ちゃんのときは心配が100で、信頼は0ですが、子どもが成長して信頼の割合がほぼ100になればトレーニングも終盤です。

子どもがペアレンティング・トレーニングの影響でスムーズに生活ができ、自分で考えて勉強やスポーツに立ち向かっていたなら、どうか一緒に喜んであげてください。あるいは感動するのもおすすめです。褒めるのも悪くはありませんが、ペアレンティング・トレーニングでは『認める』ことが卒業への近道となります。

また、子どもが高学年なら、脳の育ちについて親から話すのもいいでしょう。論理的なことに興味を持つ子であれば、自分の状態を理解しながら自分自身を高めることができます」(成田先生)

パパママは子どもの勉強や態度が心配になると悪い部分のみに目がいって、そこだけを正そうとします。しかし、脳科学からアプローチすると、実は生活そのものを見直していったほうが有効に働きます。

また、子どもが変わることを期待するのではなく、まずは親側が子育ての意識や行動を変えて、子どもにはそれにならってもらうほうがベターです。

生活が変わり、家族関係も変わり、そして子どもも変わるというペアレンティング・トレーニングは、つらい状況から抜け出せなくなった親子を救ってくれるひとつの糸口になるはずです。

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成田 奈緒子
小児科医。医学博士。小児脳科学者。公認心理師。文教大学教育学部教授。子育て科学アクシス代表。大学にて小児保健学などを学生に教える傍ら、小児科医と小児脳科学者の観点から「ペアレンティング・トレーニング」という独自の子育て支援メソッドを確立。その理論を育児に役立ててもらう場として〈子育て科学アクシス〉を立ち上げ、ワークショップや個別相談などを行いながら親子をサポートしている。

【主な著書や監修書】
『子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング』(合同出版)
『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(講談社+α新書)など


取材・文/梶原知恵

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なりた なおこ

成田 奈緒子

Naoko Narita
小児科医・医学博士・発達脳科学者

小児科医・医学博士・発達脳科学者。公認心理師。子育て科学アクシス代表。1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究をする。2009年より文教大学教育学部教授。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。 『誤解だらけの子育て』(扶桑社新書)、『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(SBクリエイティブ)、『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)など著書多数。 ●子育て科学アクシス

小児科医・医学博士・発達脳科学者。公認心理師。子育て科学アクシス代表。1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究をする。2009年より文教大学教育学部教授。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。 『誤解だらけの子育て』(扶桑社新書)、『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(SBクリエイティブ)、『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)など著書多数。 ●子育て科学アクシス

かじわら ちえ

梶原 知恵

KAJIWARA CHIE
企画・編集・ライター

大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。

大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。