自分で人生を切り拓く子に育つ“問いかけ子育て”メソッドを専門家が伝授

質問家・河田真誠さんインタビュー#3 ~質問・実践編~

質問家:河田 真誠

これまで「しつもんの授業」をするために訪れた小中高校は100校以上! たくさんの子どもたちを相手してきた河田さんに、質問の極意を聞いた。  写真提供:河田真誠

質問には「自分を見つける力」と「他人を理解する力」があると語るのは、質問の専門家として、全国の小中高校で出張授業を行っている河田真誠(かわだ・しんせい)さん。

質問に答えることで、気持ちや物事を「自分ごと」として整理し、人に伝える力を培うことができると言います。また、いろいろな人の意見を知ることで、多様性の理解へもつながるのです。

質問は、親と子の双方向でできるもっとも簡単なコミュニケーション。でも、日々の中でついつい子どもたちとの会話をおろそかにしがちなのも事実。

そこで、「子どもへの質問でしてはいけないこと」、「子どもからの質問でしてはいけないこと」、そして、日々の生活に質問を取り入れられるヒントを伺いました。

河田真誠(かわだ・しんせい)PROFILE
企業コンサルタント、作家。2010年から「質問家」としての活動を開始。質問を通して解決に導く「質問の専門家」として、企業研修や小中高校での授業を多数行い話題に。近著に『君を一生ささえる「自信」をつくる本』(アスコム)。

※3回目/全3回(#1#2)を読む 公開日までリンク無効

子どもへの質問でしてはいけないこと

小学校から高校まで全国の学校をまわり、質問の授業を行う河田真誠さん。河田さんから出される質問に対して、多くの子どもたちはまず周りの様子をうかがうと言います。

「子どもたちは答える前に、先生や保護者の顔を見ます。友だちが気になる子もいますね。『これにはどう答えるのが“正解”なんだろう』『間違えると恥ずかしい』という気持ちがあるからです」(河田さん)

まずはそんな固定概念を取っ払うのが、河田さんの仕事。

「子どもたちには、『僕の出す質問に“正解”はない』と根気強く伝えます。今日は、僕の持ってきた答え、先生や親が望む答えが正しくて、それを教えてあげましょうという授業ではないと。何を考えて何を答えてもいい、と、まずは子どもの回答をなんでも受け入れる姿勢を示すんです」(河田さん)

子どもたちの回答に「それは良くない」「それは違う」などと否定をするのは絶対にNG。「こっちのほうが良いんじゃない?」なんて誘導もしてはいけない、と河田さんは言います。

「子どもたちは大人の顔色を気にします。そんなことしないで、本音で答えたらいい。『何でも叶うなら、朝まで寝ないでゲームしたい!』なんて、最高な答えなんですよ。

『それもいいね。俺の友達は有名なゲーム会社に勤めていて、朝から晩まで会社でゲームをしてお金を稼いでいる奴がいるよ!』なんて話すと子どもたちは大盛り上がりですね」(河田さん)

あとは、考えている時間をジャマしないこと。

「すごく慎重な子だと、質問後ピクリとも動かずにずっと考えていることがある。答えたくない、答えられないんじゃなくて、考えているんです。それってすごくいい時間だと思うから、そのままでいい。答えを急ぐ必要なんて、どこにもないんですから」(河田さん)

子どもからの質問にどう答えればよい?

質問の方向は、大人→子どもだけではありません。子どもたちからも、日々たくさんの質問をされることがあります。

「子どもって素朴な、本当にどうでもいい小さな質問をたくさんしてきますよね。お父さんもお母さんも日々忙しいのはわかりますが、一番やってはいけないのが『うるさい、ちょっと黙ってて』です。

その次にダメなのが、すぐ正解を言っちゃうこと。せっかく疑問に感じることがあって、興味の入り口に立った子どもの、考える機会を奪っていることになるからです」(河田さん)

そしてついついやってしまいがちな、「自分で調べてみなさい」も、NGワードだと河田さん。

「子どもにうまく指導している気になって、実は何もしてないのが『調べなさい』ですね。今ってインターネットで即座に何でもわかる時代。わからないことを瞬時に、労力をかけずに解決できるので、これも考えるというきっかけを失う残念な言葉です」(河田さん)

だったら、どう答えるのがベストなのでしょうか。

「たとえば、『どうして空は青いの?』と聞かれたら、『なんでだろうね? あなたはなんでだと思う?』と聞き返してみる。それから、自分の意見や考えも添えてみるんです。『お父さん(お母さん)は、こうだからだと思う』って」(河田さん)

一緒になって「なんでだろう?」と頭をひねること。子どもから質問されると、ついつい正解に向かって一直線になってしまいがちですが、物事を考える良い機会なのでゆっくり向き合うこと。

「子どもから質問されたらチャンスなんです。小さな質問から、会話と考察を広げていきましょう」(河田さん)

日々に質問を取り入れるフィンランドのヒント

世界幸福度ランキングや子育てがしやすい国ランキングで常にTOP3に入る北欧・フィンランド。河田さんは、フィンランドを訪れた際に見た母子のやりとりを振り返ってこう話します。

「フィンランドでは日常的に、お母さんが子どもに『ミクシィ?』と話しかけます。ミクシィはフィンランド語で、『なぜ』とか『どうして』という意味です。

絵本を読み聞かせながらも『ミクシィ? ミクシィ?』と聞くんですね。たとえば桃太郎なら『みんなで鬼を倒しにいくことにしました。ミクシィ?(なんでだと思う?)』っていう具合に。随所で、小さな質問をするんです。そうすることで、思考力のトレーニングになっているんだなと思います」(河田さん)

日々の中で質問が大事だからと言って、「なにも膝を突き合わせて、大人が用意した質問を子どもに投げかける必要はない」と河田さん。一緒にテレビを見ていたり、ゲームをしていたりしても、質問はできます。

「ニュースを見ながら『これってどういうことだろうね?』、アニメやドラマを見て『この人はなんでこんなことしたんだろうね?』。

なかには『わかんない』『知らない』などと答える子も多いでしょう。正解は出さなくて良いので、そのままでいい。でも、そんな問いを日常にナチュラルにちりばめることで、家族の会話を広げ、考える習慣になります」(河田さん)

そして河田さんは、自身の育ってきた環境を振り返り、こう話します。

「うちの母親は、僕が学校から家に帰るといつも、『今日はどんな良いことがあった?』って質問をしてきていた。ちゃんと答えないとおやつをもらえないんです(笑)。

『学校どうだった?』『今日は何があったの?』なんて漠然と聞かれても答えづらいけれど、今日あった良いことなら答えやすい。毎日のように母親からその質問をされることがわかるから、下校中、今日あった良いことを考えながら帰るんです。

嫌なことがあったり、なんとなく変わりばえのない日だったりしても、『良いこと』を意識的に探すことで、幸せでいられる感覚を育ててくれたんだな、と思います」(河田さん)

河田さんの著書のなかには、子どもたちが自分を理解し、ありのままの自分を好きでいるために自信をつける、さまざまな質問があります。

河田さんの「しつもんの授業」を書籍化した『君を一生ささえる「自信」をつくる本』(アスコム)。想像力を引き出すたくさんの質問に子どもが直接書き込める。親子で考えても楽しい。  写真提供:アスコム

「質問に答えることで自分の好きや嫌いを見つけて、自分と向き合える。自分の軸を持てると、他人を受け入れられるようになるんです。たくさんの回答を知ることで、『自分はこう考えるけど、他の人はこうなんだ』という視点が持てるようになります。

自分の出した答えなら、自分を信じることができる。誰かの言いなりになったり、誰かのせいにする人生を送ることなく、自分の人生の主語が『自分』になります。人生は質問でできているとつくづく思います」(河田さん)

───◆─◆─◆───

子育ては選択の連続。自分の子の幸せを願うあまり、親は“正解”を求めがちですが、子どもたちは自らの中にすでに答えを持っています。

大きなアクションで、子どもの興味や人生へ関わっていこうなんて気負わなくってもいい。日々小さな質問のラリーを続けることで、子どもは「自分が主役の人生」を見つけることができるんだ、と感じました。

取材・文/遠藤るりこ

全国の小中高校で行っている「しつもんの授業」を書籍化した『君を一生ささえる「自信」をつくる本』(アスコム)。子どもが直接記入できる「書き込みシート」付きで、質問に答えていくうちに、「自信」と「考える力」が身につくと評判だ。

詩で問いかける「編集部おすすめ絵本」

国語の教科書(学校図書)にも掲載されている、詩人・長田弘氏の代表作の詩「最初の質問」を、人気画家・絵本作家のいせひでこ氏が絵本に。大人も世界観に魅了され、ギフトにもぴったり。『最初の質問』(詩:長田弘、絵:いせひでこ/講談社)

※質問家・河田真誠さんに聞く「質問の話」は全3回(公開日までリンク無効)
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かわだ しんせい

河田 真誠

Shinsei Kawada
質問家

企業コンサルタント、作家。2010年から「質問家」としての活動を開始。現在は、生き方や考え方、働き方などの悩みや問題を、質問を通して解決に導く「質問の専門家」として、企業研修や小中高校での授業を行っている。 主な著書に『革新的な会社の質問力』(日経BP社)、『私らしくわがままに本当の幸せに出逢う100の質問』(A‐works)、『人生、このままでいいの?』(A‐works)、『悩みが武器になる働き方』(徳間書店)など。 近著には『君を一生ささえる「自信」をつくる本』(アスコム)がある。現在は仏教を学ぶべく、大学に通いながら活動を続けている。 公式HP 河田真誠inc

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企業コンサルタント、作家。2010年から「質問家」としての活動を開始。現在は、生き方や考え方、働き方などの悩みや問題を、質問を通して解決に導く「質問の専門家」として、企業研修や小中高校での授業を行っている。 主な著書に『革新的な会社の質問力』(日経BP社)、『私らしくわがままに本当の幸せに出逢う100の質問』(A‐works)、『人生、このままでいいの?』(A‐works)、『悩みが武器になる働き方』(徳間書店)など。 近著には『君を一生ささえる「自信」をつくる本』(アスコム)がある。現在は仏教を学ぶべく、大学に通いながら活動を続けている。 公式HP 河田真誠inc

えんどう るりこ

遠藤 るりこ

ライター

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe