「しつもんの授業」が小中高で大人気! 正解なき時代に答えを見出す子どもに育つワケ

質問家・河田真誠さんインタビュー#2 ~「しつもんの授業」風景~

質問家:河田 真誠

子どもたちに「しつもんの授業」を行う質問家・河田さん。そのおもしろい授業の中身とは?  写真提供:河田真誠

全国の小中高校を無料で回り、「質問」の授業をする、質問家の河田真誠(かわだ・しんせい)さん。

「自分の人生で自分が主役でいるためには、質問が必須」だと話す河田さんは、2024年4月に書き込み式ワークブック『君を一生ささえる「自信」をつくる本』(アスコム)を出版しました。

河田さんの「しつもんの授業」は、実にユニーク。何にもとらわれない自由な答えが飛び交います。質問が持つ力と、子どもたちへの授業の様子を伺いました。

河田真誠(かわだ・しんせい)PROFILE
企業コンサルタント、作家。2010年から「質問家」としての活動を開始。質問を通して解決に導く「質問の専門家」として、企業研修や小中高校での授業を多数行い話題に。近著に『君を一生ささえる「自信」をつくる本』(アスコム)。

※2回目/全3回(#1#3)を読む 公開日までリンク無効

何でも叶うなら何になりたい?

河田真誠さんの「しつもんの授業」の対象は、小学校4年生以上の子どもたち。子どもたちはペアになって、河田さんの出す質問に答え合うワークを行います。

「子どもたちに紙を配って、1回の授業でだいたい4つぐらい、質問をします。子どもたちは自分の答えを書いて、人の答えを聞く。ただそれだけです」(河田さん)

質問を投げかけた後は、子どもたちの間を回りながら、河田さんが考え方のヒントをつぶやきます。

「僕の出した質問に対して、最初は『どう答えたらいいんだろう』『なんて答えるのが正解なんだろう』って、子どもたちは周りをキョロキョロします。特に、先生や保護者の顔色は気になるみたい(笑)。

僕は『これが正解ってものはないから、自由に答えてみて』と言います。ただ、そう言っても子どもたちはなかなかすぐに頭を切り替えられません。

だから『僕の友達でおもしろいやつが2人いてさ、1人はこういうやつで、もう1人はこういうやつなんだけど、みんなはどっちが幸せだと思う?』みたいに、少し考えるためのヒントを出したりするんです」(河田さん)

自分の考えを自由に発表していいことがわかると、子どもたちは途端に楽しそうになります。ここからが、質問授業の真骨頂です。

子どもたちの答えの裏にある思い

2011年の東日本大震災後に訪れた小学校では、こんなエピソードがありました。

「なんでも叶うなら何になりたいかという質問に『半魚人になりたい』って答えた男の子がいたんですね。その子の回答を見た先生は、『ふざけないで真面目に考えなさい』って𠮟ったわけです」(河田さん)

その横を通った河田さんは、すかさず「いいね~。でも、なんで半魚人なの?」と質問。

「そうしたらその子、こう言ったんです。『東北の震災があってさ、すぐに電気とか止まるでしょ。そしたらすっごく暑いから、水の中で生活できたら、クーラーがいらないじゃん』って。確かにそうなんですよね(笑)」

半魚人になって、水の中に住めばみんなクーラーはいらないし、電気も使わなくていいだろう。子どもの答えは真剣なものでした。

「その子は『これから日本には地震がたくさん来るっていうから、みんな半分魚になったら、快適に過ごせると思うんだよね~』って。『じゃ、どうやったら半魚人になれるかね?』って質問を重ねたら、ちょっと考えて『……僕、今日から風呂の中で呼吸する練習するわ』、『いいね、頑張れよ!』って(笑)」(河田さん)

こんなやりとりが、質問授業の醍醐味です。

「子どもたちはちゃんと物事を見ているし、問題意識も持っている。でも、それを解決するための答えが、現実と非現実を行き来している年代だとあいまいで、とってもおもしろい。

子どもたちの答えを聞いていると、もしかしたらできるかもしれない、と本気で思いますよ。半魚人を目指していた彼は、将来、水の中でエネルギーを交換しながら生活するツールを発明するかもしれない。きっと、飛行機を作ったライト兄弟も、最初はこんな感じで始まったと思うんです」(河田さん)

世界を壊したい女子高生の気持ち

質問の授業では「子どもたちの出した答えの先へ、もう一歩突っ込んで質問していくというのが大事なところ」と河田さん。

相手が高校生だと、すでに大人の感覚もあったり、社会への反発心があったりとさまざま。あるやんちゃな金髪の女子高生は「どんな世界にしたい?」という質問に、「一度全部ぶっ壊したい」と回答。

「お、これはと思って、『どうしてそう思うの?』って聞いたら、『こんな不平等な社会、1回壊して平等にしたほうがいいんだよ!』と言うんです。表現の仕方、言葉の使い方はそれぞれだけど、みんな自分で考えて、自分の言葉で答えている。それが素晴らしいことだと思いますね」(河田さん)

子どもたちに何になりたいかを問うと、だいたいはパン屋さんになりたいとか、サッカー選手になりたいとか、犬と喋りたいとか、そういう感じの子どもらしい回答が多い、と河田さん。「もちろんそれも大いにありです」と笑います。

「答えなんて何でもいいし、みんな正解。だって、自分で自分の答えを見つけてきたわけですから」(河田さん)

自分で答えを出せば納得できる

河田さんには、ソウタ君という甥っ子がいます。

「ソウタは、小さいときは全く勉強しない、あまり勉強に興味がない子で。彼は恐竜が大好きだったので、あるとき図鑑を買ってあげて、たくさん質問をしながら読んでいたんです」(河田さん)

すると、ソウタ君が「真誠おじちゃん、僕、恐竜を飼いたいんだけどどうしたらいいと思う?」と聞いてきました。

「よしきた、と思いましたね。『ソウタはなんの恐竜が飼いたい? ティラノサウルスかぁ、それってどこで育てるの? エサはどうする?』と質問をし続けると、彼は『僕んちの前に駐車場あるから、そこに鉄で囲いを作ってその中に入れるわ』『エサは裏山でヤギを飼って、それを食べさせたらいいと思う』とか一生懸命考えながら答えてくるわけです」(河田さん)

延々と続くラリーのように、質問を続けます。

「飼育の構想が固まったところで、『ところでさ、どこでそのティラノサウルスを捕まえてくるの?』って聞いたら、『この本にはアフリカのほうにいるって書いてあるから、アフリカに捕まえに行かないとな』って。

『でもさ、一体どうやって捕まえる?』って聞くと『巨大な檻の中に羊を置いといて、それを恐竜が食べたらガバッて檻が閉じる、そんな機械を作ったらいいかな』とかね」(河田さん)

恐竜を捕まえる罠の設計図を書いていたソウタ君は、ふと「僕、勉強するわ~」とポツリ。

「僕が子どもの答えや思いに『いいね』と言い続けるのは、賛成しているんじゃなくて、承認しているんです。子どもが自分で答えを出し続けられるように。

いいねって言いながら『でもそんな(恐竜を捕まえるための)機械は誰も作ったことないだろうから、誰かに教えてもらうってわけにもいかんやろうなぁ』なんて言ったら火がついたみたいですね。きっかけを自分で見つけてきた子は、しっかりと歩み始めます」(河田さん)

日々、子どもたちに問いかけることがとても楽しい、と河田さん。

「学校だと、正解があるじゃないですか。1足す1は2で、1足す1が5だと許されない世界だから、『いや、それは違うよ』って言われてしまう。

でも、社会に出た途端に、世界って正解のない問いがあふれているわけです。だからもっと、子どものうちから正解のない問いに向かい合って、自分で答えを探していくっていう経験をしてほしいなと思っている。

あとは、無駄を楽しむことも大事。無駄な想像力から、次の世界が作られていくと思うから」(河田さん)

質問力の鍛練によって、どこまでも広がっていく子どもたちの世界。

「誰かにこうしろ、ああしろと言われるんではなくて、自分で答えを導き出す。自分で答えを見つけることができた子どもたちは、物事への納得感や理解度が違います。

親は間違っていてもいいし、何を答えたっていいという雰囲気を作って、とにかく質問をし続けてほしいです」(河田さん)

───◆─◆─◆───

次回は、子育てに役立つ、子どもたちへの質問の実践編。どんなことを聞いたらいい? 質問への返しはどうしたらいいの? 間違えがちなポイントもお聞きしました。

取材・文/遠藤るりこ

全国の小中高校で行っている「しつもんの授業」を書籍化した『君を一生ささえる「自信」をつくる本』(アスコム)。子どもが直接記入できる「書き込みシート」付きで、質問に答えていくうちに、「自信」と「考える力」が身につくと評判だ。

詩で問いかける「編集部おすすめ絵本」

国語の教科書(学校図書)にも掲載されている、詩人・長田弘氏の代表作の詩「最初の質問」を、人気画家・絵本作家のいせひでこ氏が絵本に。大人も世界観に魅了され、ギフトにもぴったり。『最初の質問』(詩:長田弘、絵:いせひでこ/講談社)

※質問家・河田真誠さんに聞く「質問の話」は全3回(公開日までリンク無効)
#1
#3

かわだ しんせい

河田 真誠

Shinsei Kawada
質問家

企業コンサルタント、作家。2010年から「質問家」としての活動を開始。現在は、生き方や考え方、働き方などの悩みや問題を、質問を通して解決に導く「質問の専門家」として、企業研修や小中高校での授業を行っている。 主な著書に『革新的な会社の質問力』(日経BP社)、『私らしくわがままに本当の幸せに出逢う100の質問』(A‐works)、『人生、このままでいいの?』(A‐works)、『悩みが武器になる働き方』(徳間書店)など。 近著には『君を一生ささえる「自信」をつくる本』(アスコム)がある。現在は仏教を学ぶべく、大学に通いながら活動を続けている。 公式HP 河田真誠inc

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企業コンサルタント、作家。2010年から「質問家」としての活動を開始。現在は、生き方や考え方、働き方などの悩みや問題を、質問を通して解決に導く「質問の専門家」として、企業研修や小中高校での授業を行っている。 主な著書に『革新的な会社の質問力』(日経BP社)、『私らしくわがままに本当の幸せに出逢う100の質問』(A‐works)、『人生、このままでいいの?』(A‐works)、『悩みが武器になる働き方』(徳間書店)など。 近著には『君を一生ささえる「自信」をつくる本』(アスコム)がある。現在は仏教を学ぶべく、大学に通いながら活動を続けている。 公式HP 河田真誠inc

えんどう るりこ

遠藤 るりこ

ライター

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe