園や学校で、先生の対応が子どもによって違うのを目にするとモヤモヤする。そんなとき、どうしたらよいのかを「哲学」の観点から考えます。
哲学は、心の内を思考や対話で解きほぐし、人に考えを伝える適切な「言葉」を見つける学問です。教えてくれるのは哲学研究者で書籍『こども哲学』の監修もつとめる佐藤邦政先生(茨城大学大学院講師)。自分の感情を言葉にしながら深掘りしていくと、ちょっぴり心がスッキリします!
目次
【ギモン】園や学校で、自分の子よりも他の子のほうが手厚いケアを受けている印象があり、モヤモヤしてしまいます。我が子にも同じように対応してほしいと思うのは、わがままでしょうか?
【ヒント①】「同じような対応」とはどんな対応かを突きつめる
佐藤先生:まず、この質問にはいろいろな側面があります。自分と他者とのつながりやコミュニティの中での自分の立場など、自分と他人との違いや差を感じるモヤモヤポイントが多い。その中で「我が子にも同じように対応してほしい」という言葉に注目して、「フェアである」ことを願う気持ちが根本にあると仮定して考えてみましょう。
言葉の意味についての話になりますが、哲学的な意味での「フェア」を日本語で表現するときには、みんな同じ扱いという意味の「平等」ではなく、それぞれの人に見合った正当な扱いという意味の「公正」を使います。実は「フェア」が何を意味するかは、文脈や状況に依存します。
例えば外国にルーツを持つ子どもが、日本で小学校に入学したとします。日本語の読み書きがうまくできない場合は、先生が何らかの補講や支援を行うこともありますが、これを「ずるい」「特別扱い」と感じる人はあまりいないでしょう。多くの場合、日本語にハンディキャップがある子どもたちには公正な「必要なサポート」として捉えられると思います。
【ヒント②】考えても解決しなかったらアクションを起こす
佐藤先生:改めてギモンに戻って、「同じような対応」について考えてみましょう。
「自分の子よりも他の子のほうが、手厚いケアを受けている」と感じたシチュエーションですが、なぜ他の子は手厚いケアを受けていたのでしょうか。
同じことをしたときに、自分の子どもはサポートなしでもちゃんとできたけれど、他の子はサポートがないとできなかったかもしれません。先生の目的が「みんなが同じことをできるようにする」ことだったら、できない子のサポートが必要だと考えての行動だったでしょう。であればそれは「公正」であると言えるのではないでしょうか?
そう考えると、ある一場面を見かけただけでは、自分の子への対応が〝いつも〟手薄だと判断するのは早合点です。自分の子が目をかけられていないと感じる場面を見たら、悲しかったり怒りがわいたりするのは当然ですが、そこで一歩立ち止まって考えたり、周りの人と話してみると、必要以上にモヤモヤしなくてもすむかもしれません。
それともうひとつ、自分だけで考えてもモヤモヤが消えなかったら、自分の声を誰かに受けとめてもらうのが良いと思います。子どもと話してもいいし、可能なら先生と直接話す。先生の説明で納得できたらモヤモヤは晴れますし、納得できなかったら、今度は、同じクラスの他の保護者さんと話してモヤモヤを共有していく。
自分の考えだけで留まっていると疑問は解決しませんので、ある程度考えたら、勇気を持ってアクションを起こしてみるのはどうでしょうか。
【結論】「不公平さ」を訴える前に立ち止まって考える。その上で解決するためにアクションを起こす
「公平」「平等」「公正」の違いって本当に難しいですね。自分や自分の子だけを見るのではなく、クラス全体はどうか、学校全体はどうか、地域全体ではどうかなど、もう少し「大きな範囲」で物事を見てみると、違う視点で考えることができるかもしれません。一歩立ち止まって「視野を広げる」ことを意識してみましょう。
【今回の哲学のヒント】#公正 #ジョン・ロールズ
撮影/市谷明美
子育てがちょっとラクになる「こども哲学」連載
「心のモヤモヤ」を哲学で考える〔こども哲学・第1回〕
「やりたいこと」が見つからない?〔こども哲学・第2回〕
「親ガチャ」外れたと言われたら〔こども哲学・第3回〕
「登校しぶり」を支える親のケア〔こども哲学・第4回〕
「我慢しない」人付き合いのヒケツ〔こども哲学・第6回〕
こども哲学
\一生モノの教養が身につく!/
人に自慢し、明日から使いたくなる学問図鑑。これ1冊にこどもから大人まで、正解のない時代に役立つ哲学の知識が盛りだくさん。
有名な哲学者やテーマが短い文章とくすりと笑えるイラストで楽しく学べる。生き方は自由に選べる? 新しいものってどう作る? 世界のすべてがわかる? これからの時代に大事なのは自分で考える力だ!
〈小学上級・中学から・すべての漢字にふりがなつき〉
中村 美奈子
漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を書いているライター。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験。
漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を書いているライター。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験。
佐藤 邦政
茨城大学教育学部社会科教育(倫理学)講師。博士(文学)。研究内容は、不正義の複雑なありようと人間の多面的なあり方を一つひとつ紐解いていくこと。たとえば、私の父は社会的立場の弱い若手同僚や子どもにめっぽう優しく、会社で権力に抵抗を示す正義感がある人でしたが、家では母に厳しく接するときがありました。そんな矜持のあった父の姿が、人間を「こういう人だ」と単純化せず、じっくりと考えつづける今の私の研究関心を形作っています。家では4歳の娘と共働きの妻との3人暮らし。普段、娘に怒られてばかりいますが、そんな喜怒哀楽を表現してくれる娘を誇らしく思っています。
茨城大学教育学部社会科教育(倫理学)講師。博士(文学)。研究内容は、不正義の複雑なありようと人間の多面的なあり方を一つひとつ紐解いていくこと。たとえば、私の父は社会的立場の弱い若手同僚や子どもにめっぽう優しく、会社で権力に抵抗を示す正義感がある人でしたが、家では母に厳しく接するときがありました。そんな矜持のあった父の姿が、人間を「こういう人だ」と単純化せず、じっくりと考えつづける今の私の研究関心を形作っています。家では4歳の娘と共働きの妻との3人暮らし。普段、娘に怒られてばかりいますが、そんな喜怒哀楽を表現してくれる娘を誇らしく思っています。