イヤな相手から「距離を取る」べき理由「我慢しない」人付き合いのヒント 学歴・年齢・外見などの「偏見」と向き合う方法を解説

「こども哲学」佐藤邦政先生インタビュー #6

ライター:中村 美奈子

▲思い込みや偏見で接してくる相手とは「距離を取る」べき!?(写真:アフロ)
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見た目や学歴・立場などで一方的に判断する人との付き合い方を「哲学」で考えてみたら、悩む必要がなくなる!?

哲学は、心の内を思考や対話で解きほぐし、人に考えを伝える適切な「言葉」を見つける学問です。教えてくれるのは哲学研究者で書籍『こども哲学』の監修もつとめる佐藤邦政先生(茨城大学大学院講師)。自分の感情を言葉にしながら深掘りしていくと、ちょっぴり心がスッキリします!

佐藤 邦政(さとう・くにまさ)茨城大学大学院教育学研究科、教育学部講師。博士(哲学)。専門は認識的不正義と変容的経験論。

【ギモン】「あなたみたいなタイプはこうでしょ」と決めつけられて、きちんと話を聞いてくれない人に対して、イライラします。どうやって付き合えばいいでしょうか?

【ヒント①】対等な者同士の出来事であれば、距離を置く

他人の意見を無視する人には、偏見や思い込みがあるかも。どうしたら偏見や思い込みがなくなるのかな?(画像:書籍「こども哲学」より)

佐藤先生:この疑問が、子ども同士や大人同士など、対等な者同士での出来事だと仮定しましょう。

世の中には、聞いていて気分がよくないことを、面と向かって言ってくる人がいます。このような行為を行う人を哲学的には「悪徳」と言いますが、悪徳な人の心無い言葉に影響を受けやすい人もいます。

また、悪徳な人に狙われやすい人は、相手から「この人ならなにを言っても平気」と思われているかもしれません。残念ながらそういった悪徳な人の性格や思い込みは根深く、本人が気づいて自覚的に直さない限り、なかなか変わるものではありません。

被害を受けたあなたは「こんなふうに言われてしまう、私が悪いのかも」と考えてしまうかもしれませんが、あなたはちっとも悪くありません。ですから、嫌な思いをしてまで悪徳な人と付き合わなくてもいいと思います。

次に嫌なことを言われたら、ちょっと強気な態度で「やめて」と自分の意志を伝えるか、それも危険だと感じたら、相手がなにを言おうと気にせず、距離を置くのが一番です。

【ヒント②】無意識に上下関係を作っている可能性がある

佐藤先生:【ヒント①】は対等な者同士の対処法でしたが、これが親子など「上下関係」での出来事になると、また違う問題になります。

子どもがなにかしてほしいと訴えてきたときに、「子どもなのに」とか「子どものくせに」と、一方的に話を終わらせてしまうことがありませんか?

それは無意識のうちに、「子どもは親の言うことを聞いて当たり前」、「世間知らずな子どもなのに、大人に意見するなんてまだ早い」というふうに、気づかないうちに子どもを自分より劣る存在と見なしているのかもしれません。

人は、無意識のうちに上下関係を作ってしまう性質があるので、偏見があること自体はしかたがないことかもしれません。ですから、「子どもの話をさえぎっちゃったかな」「まずかったかな」と後からでもモヤモヤを感じ
たら、そのモヤモヤを包み隠さずに伝えると、こどもは意外とわかってくれるはず。できる限り子どもを対等に扱うように意識して行動すると、親子関係も少しずつ変わっていくと思います。

実は、相手をステレオタイプに当てはめて考えること自体は、そんなに悪いことでもないんですよ。

例えば短い時間の中で、相手とコミュニケーションを取らなくてはいけない場合、見た目や話し方、現在の職業などから、ある程度「こんな人かも」と当たりをつけて話すシーンもあると思います。相手についてじっくり考えることができない場面では、それでコミュニケーションがスムーズに行く場合もあります。そう言う意味では、相手を子ども扱いするのも、時と場合によってしかたないことかもしれません。

ですが、子どもが真剣に訴えている場合は、きちんと耳を傾けるなど、できる範囲で実行する。それができないときには「あとでゆっくりお話を聞くね」と誠実に伝えてあげます。そう心がけることが大切ではないでしょうか。

【結論】嫌な人とは距離を置く。親子など互いの立場が違う場合は「偏見」が生じやすいことを意識する

誰もが、偏見や思い込みを持っている可能性があります。自分にとっての「当たり前」が、人にとっては「当たり前」で済ませられないことも。日々の生活の中で「当たり前」だと思っていることが、自分たちの勝手な思い込みになっていないか疑い、考えることが大切です。

【今回の哲学のヒント】#認識の不正義 #ミランダ・フリッカー

なにかがおかしいと思ったり嫌な目に遭っていると思ったら、反対の声をあげるのが重要。黙って我慢してしまうと、自分だけが辛くなってしまいます。(画像:書籍『こども哲学』より)

撮影/市谷明美

子育てがちょっとラクになる「こども哲学」連載

「心のモヤモヤ」を哲学で考える〔こども哲学・第1回〕

「やりたいこと」が見つからない?〔こども哲学・第2回〕

「親ガチャ」外れたと言われたら〔こども哲学・第3回〕

「登校しぶり」を支える親のケア〔こども哲学・第4回〕

「対応」へのモヤモヤどうする?〔こども哲学・第5回〕

こども哲学

イラスト学問図鑑 こども哲学(監修:佐藤邦政)

\一生モノの教養が身につく!/
人に自慢し、明日から使いたくなる学問図鑑。これ1冊にこどもから大人まで、正解のない時代に役立つ哲学の知識が盛りだくさん。

有名な哲学者やテーマが短い文章とくすりと笑えるイラストで楽しく学べる。生き方は自由に選べる? 新しいものってどう作る? 世界のすべてがわかる? これからの時代に大事なのは自分で考える力だ!

〈小学上級・中学から・すべての漢字にふりがなつき〉

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さとう くにまさ

佐藤 邦政

Kunimasa Sto
哲学者

茨城大学教育学部社会科教育(倫理学)講師。博士(文学)。研究内容は、不正義の複雑なありようと人間の多面的なあり方を一つひとつ紐解いていくこと。たとえば、私の父は社会的立場の弱い若手同僚や子どもにめっぽう優しく、会社で権力に抵抗を示す正義感がある人でしたが、家では母に厳しく接するときがありました。そんな矜持のあった父の姿が、人間を「こういう人だ」と単純化せず、じっくりと考えつづける今の私の研究関心を形作っています。家では4歳の娘と共働きの妻との3人暮らし。普段、娘に怒られてばかりいますが、そんな喜怒哀楽を表現してくれる娘を誇らしく思っています。

茨城大学教育学部社会科教育(倫理学)講師。博士(文学)。研究内容は、不正義の複雑なありようと人間の多面的なあり方を一つひとつ紐解いていくこと。たとえば、私の父は社会的立場の弱い若手同僚や子どもにめっぽう優しく、会社で権力に抵抗を示す正義感がある人でしたが、家では母に厳しく接するときがありました。そんな矜持のあった父の姿が、人間を「こういう人だ」と単純化せず、じっくりと考えつづける今の私の研究関心を形作っています。家では4歳の娘と共働きの妻との3人暮らし。普段、娘に怒られてばかりいますが、そんな喜怒哀楽を表現してくれる娘を誇らしく思っています。

なかむら みなこ

中村 美奈子

Minako Nakamura
ライター

絵本サイトの運営に関わり、絵本作家への取材も多数。また漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を執筆。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験している。

絵本サイトの運営に関わり、絵本作家への取材も多数。また漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を執筆。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験している。