【子育ての悩み】「やりたいこと」が見つからない…受験・進学・就職・将来の夢に趣味「人生は行動で決まる」哲学的アドバイス
「こども哲学」佐藤邦政先生インタビュー #2
2024.06.18
ライター:中村 美奈子
「やりたいこと」と聞かれてもわからないし、見つける方法もわからない。そんなときに助けになるのが「哲学」です。哲学は、心の内を思考や対話で解きほぐし、人に考えを伝える適切な「言葉」を見つける学問。
教えてくれるのは、哲学研究者で書籍『こども哲学』の監修もつとめる佐藤邦政先生(茨城大学大学院講師)。自分の感情を言葉にしながら深掘りしていくと、ちょっぴり心がスッキリします!
【ギモン】「将来の夢」を聞かれると、正直答えに困ります。自分が「やりたいこと」もよくわからないのですが、みんなはどうやって見つけているのでしょうか?
【ヒント①】とりあえず目の前のことをやってみる
佐藤先生:目標や夢がすぐに見つからなくても、時間が経つとわかってきたり、なにかの出来事がキッカケで突然見つかるということもありますので、「待ってみる」のも良いと思います。
ただ、何もしないで待つのではなく、とりあえず目の前にあることをこなしたり、頭に浮かんでいることをためしていきましょう。そうやってジタバタしているうちに、自分が「これは譲れない」と思うことが出てくるようになります。
例えば、学校のグループ学習活動は、自分の考えの傾向がよく出ます。「人前でしゃべるのが苦手だから、ひとりで調べたい」とか、「しゃべるのは得意だけど、資料を作るのは面倒くさいから嫌だ」とか。その時点で、自分のやれること、やりたいことがちゃんと見つかっていますよね。
でも、人生のなかには、自分のやれること、やりたいことがまだ自分で見つけられていないことも多いのです。私たちは、常に決断しながら生活しています。「遅刻するからそろそろ起きないと」といった些細なものもあれば、「どの学校に通うか」「どこに就職するか」といった、人生を左右するものもあります。
日常的に行う小さな決断の積み重ねが、より大きな決断へとつながっていく場合もあります。たとえば、学校の家庭科で裁縫を習ったらおもしろくて手芸が趣味になったり、友達に勧められた漫画を読んだらハマって絵を描くようになったりする可能性もある、というわけです。
実は私も、受験を前に「大学でなにをするのか?」とすごく悩み、浪人した過去があります。ストレートに大学へ進学する周囲の人たちを横目に、「なぜ大学に行くのか」を自分で考えて納得できなければ、進学の必要はないんじゃないかと。しかし悩んだ末に、あるときに「自分の答えは大学に入ってから考えればいいんだ」と思えるようになりました。
そこで学校を探し始めたら、行きたいと思う大学が見つかりました。私は考えるのが大好きでしたが、それが「哲学」のようなことだったと気づいたのは、ずいぶん後です。もし「大学に進学する理由がわからないと、大学に行く意味はない」と思い続けていたら、今の人生を歩んでいなかったかもしれません。
肝心なのは、「自分が譲れること、譲れないことは何だろうか」を考えながらいろんなお試しの行動をすること。そして、すぐに答えを出そうと焦らないことだと思います。
【ヒント②】人と話してみる
佐藤先生:もうひとつの方法は、人と話してみることです。私もそうですが、人と話したり逆に人の話を聞いているうちに、「自分はこういうことを考えていたんだ」と気づくことがあるんです。
誰かに質問をされて、それに答えているうちに、自分の考えが自然に口から出てきたり、「なるほど、他の人には自分の話がこんな風に聞こえるんだ、こういう部分を面白いと思ってくれるんだ」ということがわかってきたりもします。
【ヒント①】のグループ学習を例にすると、同じ役を巡って意見が対立することもあるでしょう。「私はこういう理由でこの役はやりたくない」とお互いに理由を話すうちに、「これならやってもいい」と思えることが出てくることもあるでしょう。また「あなたは字がきれいだから、発表資料を書いて」と頼まれるかもしれません。そんなふうに、他人が自分ではわかっていなかった長所を見つけて、認めてくれることも。
考えは人それぞれで違うので、「他の人の視点」に気づくことで、自分の魅力に気づかされる可能性も十分あります。
【結論】「自分が譲れること、譲れないこと」を考えながらいろんな行動をしたり、人と話したりしよう
まずは、日々の生活の中でやってくるさまざまな「決断ポイント」で、「これならやってもいい」「これはやりたくない」と自分の行動を考えながら決めてみましょう。とりあえずやってみて、良さそうなら続ける、ダメなら違う行動をするというふうに、次のアクションに繫げていくとよいですね!
【今回の哲学のヒント】#変容の経験 #ローリー・アン・ポール
撮影/市谷明美
子育てがちょっとラクになる「こども哲学」連載
「心のモヤモヤ」を哲学で考える〔こども哲学・第1回〕
「親ガチャ」外れたと言われたら〔こども哲学・第3回〕
「登校しぶり」を支える親のケア〔こども哲学・第4回〕
「対応」へのモヤモヤどうする?〔こども哲学・第5回〕
「我慢しない」人付き合いのヒケツ〔こども哲学・第6回〕
こども哲学
\一生モノの教養が身につく!/
人に自慢し、明日から使いたくなる学問図鑑。これ1冊にこどもから大人まで、正解のない時代に役立つ哲学の知識が盛りだくさん。
有名な哲学者やテーマが短い文章とくすりと笑えるイラストで楽しく学べる。生き方は自由に選べる? 新しいものってどう作る? 世界のすべてがわかる? これからの時代に大事なのは自分で考える力だ!
〈小学上級・中学から・すべての漢字にふりがなつき〉
中村 美奈子
漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を書いているライター。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験。
漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を書いているライター。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験。
佐藤 邦政
茨城大学教育学部社会科教育(倫理学)講師。博士(文学)。研究内容は、不正義の複雑なありようと人間の多面的なあり方を一つひとつ紐解いていくこと。たとえば、私の父は社会的立場の弱い若手同僚や子どもにめっぽう優しく、会社で権力に抵抗を示す正義感がある人でしたが、家では母に厳しく接するときがありました。そんな矜持のあった父の姿が、人間を「こういう人だ」と単純化せず、じっくりと考えつづける今の私の研究関心を形作っています。家では4歳の娘と共働きの妻との3人暮らし。普段、娘に怒られてばかりいますが、そんな喜怒哀楽を表現してくれる娘を誇らしく思っています。
茨城大学教育学部社会科教育(倫理学)講師。博士(文学)。研究内容は、不正義の複雑なありようと人間の多面的なあり方を一つひとつ紐解いていくこと。たとえば、私の父は社会的立場の弱い若手同僚や子どもにめっぽう優しく、会社で権力に抵抗を示す正義感がある人でしたが、家では母に厳しく接するときがありました。そんな矜持のあった父の姿が、人間を「こういう人だ」と単純化せず、じっくりと考えつづける今の私の研究関心を形作っています。家では4歳の娘と共働きの妻との3人暮らし。普段、娘に怒られてばかりいますが、そんな喜怒哀楽を表現してくれる娘を誇らしく思っています。