「子育てしている人」や「日中働いている人」も身近な施設に! 沖縄「繁多川公民館」のスゴい中身

シリーズ「地域をつなぐ みんなで育つ」#3‐2 「繁多川公民館」【2/2】(沖縄県那覇市)

ライター:太田 美由紀

この取材をするまで、筆者は公民館にあまりいいイメージを持っていませんでした。まさに「スペースを貸してくれるだけの場所」という認識で、子育てしている人や日中働いている人にはあまり縁のないところだと思っていました。

しかし実は、公民館は「社会教育を行う場所」で、「社会教育とは学校教育以外の教育活動」のこと。人が集い、共に学び、社会をつくる場所でした。社会教育法の第20条、公民館の目的には、こう記されています。

公民館は市町村その他の一定区域内の住民のために、実際生活に即する教育、学術及び文化に関する各種の事業を行い、もって住民の教養向上、健康の増進、情操の純化を図り、生活文化の振興、社会福祉の増進に寄与することを目的とする。

少し難しいので、南さんにわかりやすく説明していただきました。

「公民館は、戦後の民主化が始まったとき、自分たちで自分たちの地域をより良くしていく拠点としてできた仕組みです。

自分たちの考えや発言を、誰かの力を借りながら実現できる場所、地域の未来をつくる最初の一歩を踏み出す場所、民主的な社会をつくる拠点として全国に広がりました。

高齢者、子育て世代、子どもたち、障がいのある人ない人など、さまざまな人たちが分断されてしまっている今、公民館は、地域に住む誰もが目的もなくふらりと立ち寄って、いろんな人と顔見知りになり、違いを認め、語り合ったり、世代を超えて何かを学んだりできる場所──街のリビングになると思っています」

公民館のロビーはまさに街のリビング。その場にたまたま居合わせた人たちが世代を超えて一緒に楽しむ様子も見られる。  写真提供:繁多川公民館
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本来は、サービスをする側、される側という境界線もないと南さんは言います。新しい人と出会い、ともに学びあうことで、自分たちで地域たちの住む街をよくしていくことができる。しかも、これだけ全国各地にくまなく設置され、安価で使えるスペースを活用しない手はありません。

「本当は公民館の職員からも住民の皆さんに働きかけてほしいのですが、ぜひ、住民の皆さんの活動に、公民館の職員をうまく巻き込んでほしいと思います。

『今度こんなことをやろうと思っているんですがどう思いますか?』『誰か手伝ってくれる人とつなげてくれませんか?』と声をかけたり、公民館主催のイベントに行って『おもしろいですね。今度こんなアイデアがあるんですけど』などと声をかけたりしてもらえれば、公民館のネットワークや予算を使い、何か共催ができるかもしれません」

公民館でも何か講座を開きたいけれど、どんなニーズがあるかをつかみかねているかもしれません。そうであれば住民からのアプローチは参考になるはずです。

例えば子育てサークルで集まっているなら、スペースを借りるだけでなく、「保育園の先生にお話を聞きたい」「子育ての専門家の人とつながりたい」などと相談すれば、力を貸してくれるはずです。

公民館の数は全国に1万3798館(令和3年度社会教育調査より)。地域によって、生涯学習センター、交流館、地域交流センター、地域センター、コミュニティセンター、区民・市民センターなどと呼び方が異なる場合もあります。

まずは、家の近くの公民館に出かけて、そこのスタッフや職員に話しかけ、信頼関係をつくることから始めてみませんか。いろんな世代の、誰もがふらりと立ち寄れる居心地のいい街のリビング、すでにある公民館の中に、意外と簡単につくることができるかもしれません。

第3回は、同じく那覇市の若狭公民館についてお伝えします。場所は同じ那覇市内ですが、少し違う地域性です。さまざまなアートを取り入れ、クリエイティブな思考を育み、イノベーションを引き起こす公民館のお話です。


取材・文/太田 美由紀

【関連リンク】
那覇市繁多川公民館
特定非営利活動法人 1万人井戸端会議
公民館のしあさって

子どもが「自ら学ぶ力」を存分に発揮できる学校とは? 先進的な実践をする全国の学校を取材。教育学者の汐見稔幸(東京大学名誉教授)とライター太田美由紀の共著『学校とは何か 子どもの学びにとって一番大切なこと』(河出書房新書)
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おおた みゆき

太田 美由紀

編集者・ライター

1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。 2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。 自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)、近著として学校取材を担当した『学校とは何か 子どもの学びにとって一番大切なこと』(編著/汐見稔幸・河出新書)がある。 ●『新しい時代の共生のカタチー地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)

1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。 2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。 自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)、近著として学校取材を担当した『学校とは何か 子どもの学びにとって一番大切なこと』(編著/汐見稔幸・河出新書)がある。 ●『新しい時代の共生のカタチー地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)