「不登校の子も安心できたら歩みだす」夢パーク設立20年でスタッフが得た確信とは

シリーズ「地域をつなぐ みんなで育つ」#2‐3 どろんこプレーパーク「川崎市子ども夢パーク」の居場所(神奈川県川崎市)

ライター:太田 美由紀

ご飯を一緒に食べていると「一人じゃない」って思える

毎日お昼過ぎ、13時から13時30分ごろになると、「えんめし」が始まります。子どもたちと一緒に作ることも少なくないのですが、食事は「えん」のスペースの一角にあるキッチンで作るので、準備をしているときからおいしそうな匂いが漂ってくるのです。

子どもたちがかわるがわる、今日のメニューをのぞきにきます。

「お腹すいたなあ」

「朝ごはん何も食べてこなかった。早く食べたいな」

「はいはい。もうちょっと待っててね」

今日はチャーシューの混ぜご飯とフリッター、そこに温かいたまごのあんかけをたっぷりかけて。大根の浅漬けも。  撮影:太田美由紀

完成すると、「えんめしだよ~」とえんめしコール。えんめしは1食250円。子どもたちもスタッフも、えんめしの人も、お弁当を持ってくる人も、みんな一緒にいただきます。

コロナ対策の手作りパーテーションが少しジャマですが、顔を見て話をしながら食べています。

「みんなで一緒に美味しいものを食べると楽しいじゃない。一緒に作って食べるとなお、おいしい。中には、家でご飯を作ってもらえない子もいますし、家ではいつも買ってきたお弁当という子もいる。

だから、出来立てのご飯をみんなで食べる。ご飯を一緒に食べていると、一人じゃないって思える。だから、僕たちは食べることを大事にしています」(西野さん)

最初は背を向けて一人でカップラーメンを食べていた子も、みんながワイワイおいしそうに食べていると、いつの間にか、えんめしを食べるようになっていくといいます。

今日のえんめしは全部で40食。おかわりもできる。  撮影:太田美由紀

NPO法人フリースペースたまりばは、1991年に多摩川のほとりにオープンしたフリースペースからスタートしました。みんなで一緒に食事を作って食べる慣習は、そのころ自然に始まったものです。以来、32年間、食事作りは続いています。

「おかわり!」

「またおかわり? じゃあ、ちょっとだけにしようか。4回目だよ?」

「だって、おいしいんだもん!」

次回は、夢パークを運営するNPO法人フリースペースたまりばの、地域をつなげる「まちづくり」についてご紹介します。ひきこもり傾向の若者が自立に向けて利用する「ブリュッケ」、人と人をつなぐまちづくりの拠点「えんくる」とは、どんなところなのでしょうか。

〈教育学者・汐見稔幸先生から〉

地域にはいろいろなプロがたくさんいます。木工を教えてくれるおじいさん、書道の得意な人、将棋を教えてくれる人もきっといます。

モーター付きの車を作りたい!と思いついた子どもがいたら、地域の何軒かの自動車工場の人に聞けば、誰か一人は喜んで教えてくれるのではないでしょうか。長年、仕事や趣味で腕を磨いてきた人たちが、地域には眠っているはずです。

夢パークではそんな人たちを発掘し、さまざまな講座が開かれているようですね。子どもたちにとって、遊びは学び。やりたいと思って自分で参加した講座は、とてもいい学びのチャンスになると思います。

そして、講座をする側の人にとっても、知識やスキルを活かせる貴重な場になっています。仕事や趣味で身につけてきたことを、また別の形で子どもたちや若者に伝えられることは、喜びでもあるでしょう。

昔から、地域には、地域の子どもたちに目をかけ声をかけ、少し心配な子どもの面倒を見たり、自分の技術を教えてくれる大人たちがいました。

地縁血縁でつながっていた社会が崩壊して無縁社会となってしまった今、その代わりに人と人をつないでいく、夢パークのような拠点が必要となっていることは間違いありません。

これもまた、これからの学校のモデルになっていくと思います。

取材・文/太田美由紀

汐見稔幸(しおみ・としゆき)PROFILE
1947年、大阪府生まれ。教育・保育評論家。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。東京大学名誉教授、エコビレッジ「ぐうたら村」村長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所理事、『エデュカーレ』編集長。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。著書に『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)、『これからのこども・子育て支援』(風鳴舎)、『「天才」は学校では育たない』(ポプラ新書)など多数。

太田美由紀(おおた・みゆき)PROFILE
1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。

保育所、認知症デイホーム、地域の寄り合い所といった3つの機能をあわせ持つ施設「地域の寄り合い所 また明日」が一冊に。幼い子どもと認知症の高齢者が共に暮らす“強み”とは。『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(著:太田美由紀/風鳴舎)。
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おおた みゆき

太田 美由紀

編集者・ライター

1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。 2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。 初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。 ●『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』公式HP

1971年大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌編集部を経て独立。育児、教育、福祉を中心に、誕生から死まで「生きる」を軸に多数の雑誌、書籍に関わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』の番組制作やテキスト制作に関わる(2020年まで)。 2011年より新宿区教育委員会・家庭教育ワークシートプロジェクトメンバー。2017年保育士免許取得。子育てコーディネーターとして相談現場でも活動。「人間とは何か」に迫るため取材・執筆を続けている。 初の自著『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』(風鳴舎)重版出来、好評発売中。 ●『新しい時代の共生のカタチ~地域の寄り合い所 また明日』公式HP

しおみ としゆき

汐見 稔幸

教育・保育評論家

1947年、大阪府生まれ。教育・保育評論家。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。東京大学名誉教授、エコビレッジ「ぐうたら村」村長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所理事、『エデュカーレ』編集長。 専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。著書に『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)、『これからのこども・子育て支援』(風鳴舎)、『「天才」は学校では育たない』(ポプラ新書)など多数。

1947年、大阪府生まれ。教育・保育評論家。専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。東京大学名誉教授、エコビレッジ「ぐうたら村」村長、一般社団法人家族・保育デザイン研究所理事、『エデュカーレ』編集長。 専門は教育学、教育人間学、保育学、育児学。著書に『教えから学びへ 教育にとって一番大切なこと』(河出新書)、『これからのこども・子育て支援』(風鳴舎)、『「天才」は学校では育たない』(ポプラ新書)など多数。