「不登校の子も安心できたら歩みだす」夢パーク設立20年でスタッフが得た確信とは
シリーズ「地域をつなぐ みんなで育つ」#2‐3 どろんこプレーパーク「川崎市子ども夢パーク」の居場所(神奈川県川崎市)
2023.03.12
ライター:太田 美由紀
「川崎市子ども夢パーク(以下夢パーク)」は、東京都にほど近い神奈川県川崎市にある子どもや若者のための居場所。今年、2023年7月末には設立20周年を迎えます。
夢パークの中には、学校や家庭、地域の中に居場所を見出せない子ども・若者の居場所、「フリースペースえん」もあります。
いつきても、いつ帰ってもいい居場所。いろんな企画があっても、参加してもしなくてもいい。全部自分で決められます。
「学びたい」「知りたい」という気持ちは、ありのままの自分が安心して失敗できるところから生まれる──。そのことを、子どもたちが教えてくれる場所です。
この取り組みについて、最後に教育学者・汐見稔幸先生にもご意見をいただきました。
京都の染色家と地域の人たちで豪快に楽しむ「野染め」
「おっちゃんな、染料作ってきたからな。これあっちの木のところに持ってって。おっちゃん35年染めてるけど、今日はこれまでで一番長い布を染めるぞ! 36メートルや」
毎年1回、京都から夢パークにやってくる染色家の齋藤洋(さいとう・ひろし)さん。夢パークの運営を担う認定NPO法人フリースペースたまりば理事長の西野博之(にしの・ひろゆき)さんとは夢パークができる以前から交流があり、子どもたちとの野染めは25年以上も続いています。
コロナで2年間は中止となってしまったため、今日は3年ぶりの野染めの日です。夢パーク内にある「フリースペースえん」からも、希望者が参加しました。
齋藤さんが用意した染料に加え、夢パークでもたくさんの草木を煮出してこの日を心待ちにしていました。山形の紅花(べにばな)、藍(あい)、よもぎ、中南米のログウッド、飛鳥時代からある刈安(かりやす)、マリーゴールド──。
山形のラベンダーから作った染料をのぞき込んだ子は、思わず「うわあ、いいにおい!」
これまでは18メートルの布を染めていましたが、今日は地面が少しぬかるんでいるため、2本の布をあわせ、36メートルに。敷地の端から端までピンと張って染めることになりました。
長い真っ白な布をみんなで持って、まずは布の準備から。大人も子どもも若者もごちゃ混ぜで、一生懸命その準備に参加している人もいれば、遠巻きに様子を見ている人も。子どもたちはもちろん、長い布に触りたい。
「しんし」という道具を使って大きな凧のようにピーンと張って、木に結びつけ、布の準備ができるといよいよ染色。齋藤さんのやり方をみんなで見てから開始です。
「みんなはどんどん走り回って、色と色が重なる旅をするんだよー! 5・4・3・2・1、スタート!」
子どもたちは染料の入ったバケツを持って走り出します。大人の表情も真剣そのもの。真っ白な布に、子どもたちが大きく振ったハケの軌跡が色づいていきました。
安心できる環境なら子どもたちは自分で歩き出す
「えん」は日本でも珍しい公設民営のフリースペース。利用には登録が必要で、現在の登録者数は、小中高生を中心に20代以上の人も含め145人(2021年度)。
毎日来る人もいれば来ない人もいて、決められたカリキュラムもありません。自分のペースで毎日を安心して楽しく過ごすことが一番の目的です。
「野染め」のような夢パーク全体の企画以外にも、「えん」の中でもさまざまな講座が行われています。
俳優の演劇講座、南アフリカの太鼓ジャンベの演奏、フォルクローレ演奏、アートやジャズダンス、おもしろ科学講座、イタリアンパスタ講座、パン作りなどもある。畑づくり、着付けや茶道──、そして、学習支援の時間も。
これらの講座への参加も自由。好きなものだけ参加してもいい。
読書をして過ごしても、ゲームをしてもいい。楽器を弾いている子もいます。プレーパークで、どろだらけで遊んでも、仲間とスポーツを楽しんでもいい。気の合う仲間とおしゃべりしたり、スタッフとじっくり家庭のことを話し込む日もあります。
子どもたちは時間に追われず、何かを強いられることもなく、ゆっくりと過ごしながら自分の時間を取り戻していくことができます。「えん」では、人と比べられたり、評価されたりすることはありません。
「えん」と夢パークの運営を担う認定NPO法人フリースペースたまりば理事長の西野博之(にしの・ひろゆき)さんは、自分の時間を取り戻すことができれば、好きなこと、得意なことが必ず動き出すはずだと確信を持っています。
「今、不登校が24万人を超え、過去最多になっています(2022年10月文科省)。学校に行っていない子も学校に行きたくない訳じゃない。
学校が安全安心で楽しく学べるところであれば、学校に行きたい子は多い。行きたいと思っているけれど、自分でも理由がわからず、行けなくなって悩んでいる子も少なくない。
それに、学校に行っている子も、かなりのストレスをため込んでいるはずです。近年は、小学校低学年でいじめが急増し、学校のシステムに馴染めないという子どもたちも増えています。
大人が先回りして道を作らなくても、安心できる環境を用意すれば、『えん』の子どもたちは自分で考えて歩き出します。
好きなことを突き詰めて職人を目指す子もいれば、科学の研究者を目指す子もいる。地域で働く場を見つける子もいます。
人に『やらされる』のではなく自分で『やる』のが大事。そして、自分で決めて『やらない』ことも大事。
子どもも若者もみんな、生きているだけですごいんだ。それだけで誰もが祝福される。そんな場をみんなで作りたいと思ってやってきました」(西野さん)
本来、子どもたちが集う学校や家庭こそ、そのような場所であってほしい。西野さんの言葉にはそんなメッセージも込められているように感じられました。