児童養護施設出身モデル・田中れいか 内閣官房の有識者会議に参加する理由
児童養護施設出身モデル・田中れいかさんに聞く「なりたい自分になる」 #4~いま思うこと編~
2022.11.28
モデル:田中 れいか
「社会的養護を知るためのハードルを下げたい」との思いで、精力的に情報発信を続ける児童養護施設出身のモデルの田中れいかさん(26)。
心の強さの源や社会的養護への思い、今後の夢について伺いました。
田中れいかPROFILE
7歳から18歳までの11年間、東京都世田谷区の児童養護施設で暮らす。短期大学卒業後、モデルの道に。ミス・ユニバース2018茨城県大会準グランプリ・特別賞受賞。モデル業のかたわら、自らの経験をもとに、親元を離れて暮らす「社会的養護」の子どもたちへの理解の輪を広げる講演活動や情報発信をしている。
「自分は裏切らない」強く生きる糧は“自分”
児童養護施設で育ったルーツを生かし、活動を広げるモデルの田中れいかさん(26)。YouTubeで児童養護施設などの暮らしや仕組みについて分かりやすく情報発信し、人気動画の再生回数は19万回を突破しています。
書籍の出版、施設の若者を支援する一般社団法人「ゆめさぽ」の立ち上げなど、当事者目線を生かした手の届く支援を展開中です。
第一線で活躍する田中さんですが、強さの源(みなもと)をたずねると意外な答えが返ってきました。
「心の奥底でどうせこの人たちもいつかは消えていくんだ、というさみしさみたいなものは今も常にあります。心の奥底から許せる人が全然いないんです。
だからそういう自分を受け入れつつ、いろんな素晴らしい人に出会い、『結局は自分』という軸を大切にしています。
これまでに、かっこいい大人にもかっこよくない大人にも出会ってきました。そういう出会いを大切にしながら『夢ノート』を書いてます。コーチングで教わった手法で、6年間続けているんです。
本当はどうなりたいか、自分のいいところ、悪いところ、ほめられたところを書き出しています。そのノートを必要なときに見直すんです。希望が叶ったら、叶った日付もメモします。こうやって自分の内側を見るクセがついているんです。
結局は自分しかいません。行動するのも、何かやりたいと考えるのも、成功も失敗も自分にかかっています。奥底の思いはありますが、助けてもらうところは助けてもらい、自分を形作っています。
もし決断を他人に委(ゆだ)ねてしまったら、またあのとき(施設のころ)に戻る! って思うんですよ。みんなの顔色をうかがって合わせたり、同調したり。それって人生の舵を他人に委ねていることと一緒なので。やっぱり『自分しかいない』と思っているんです」
広がる活動は内閣官房の有識者会議にも参加
力強く突き進む田中さんの活動は行政にも認められ、現在は東京都児童福祉審議会の専門部会や内閣官房の有識者会議に参加するなど、さらに一歩進んだ関わり方もしています。当事者として心がけていることがあるそうです。
「当事者としての経験は8年も前のことです。自分自身の経験が求められている部分もありますが、いま施設にいる子どもたちや運営者から話を聞くようにしています。現場の情報を聞いたうえで参加するようにしています」
児童福祉法改正に思う課題解決の難しさ
2022年、3年ぶりに改正された児童福祉法も、当事者として思うことがあるといいます。この改正で注目されたのは、いわゆる「18歳の壁」の撤廃でした。
原則18歳までとされていた自立支援の年齢上限が撤廃されたのは、田中さんが経験したように、施設退所後の18歳で直面する孤立や困窮といった困難をなくすためです。
18歳のころ、やはり経済的にも精神的にも大変な思いをした田中さんですが、今回の法改正による年齢制限撤廃について「これで課題が解決するとは思っていない」と話します。
「高校卒業後も施設に残れるのであれば、それなりに孤独感は減るかもしれません。愚痴をこぼせる人もいますから。でも自立の課題と考えると、何をもって自立というのか分からなくなりますよね」
施設内の混乱も心配だそうです。
「施設の職員さんも話していますが、年齢制限が撤廃になったとき、18歳以上でも残る若者が現れることになります。そうなると施設の子どもたちが疑問を抱くことになると思うんです。
多くの施設では高校卒業するとみんなでお祝いします。そのあと退所する子もいれば、残る子もいる。残ると『なんでまだ残ってるの?』と子どもたちから聞かれる可能性は大いにあります。
その声に本人が耐えられるか。施設としてどうフォローするのか。というのが課題になってくるのではないでしょうか。
さらに言うと、18歳以上をみんな残していくとしたら、施設の経済的な問題もあります」