発達障害を知ってからの子育て 本当のスタート地点
「子どもが中学生くらいまでは、僕もどこかで『普通』にこだわっていました。でも、親が子どもの特性を受け入れない限り、子どもが自分の力だけで困難に対応していくことは難しいと気づいたのです」
わたしたち親世代は、「苦手は克服しなければ」という感覚を刷り込まれて育ってきました。けれど、もうそれは手放していいと水木さんは続けます。
「困難さを無理に乗り越えさせるより、子どもに合った環境を一緒に考える姿勢が大切だと感じるようになりました」
また、不登校で悩む親子にとっては「孤独にならないこと」が重要だと話します。
「不登校の時期に一番つらかったのは、親子が社会から切り離されてしまうことでした」
「孤独は家族内の衝突やストレスを生みます。親の会に参加したり、子どもの趣味のイベントに一緒に行ったりと、何かしら外の世界との接点を保つと家族内の風通しも良くなる。学校以外で子どもを認めてくれる場所があると、それが親子の心の安定にも繫がります」
子どもと社会を本でつなぐ
子どもが発達障害の診断を受けるまで、「多様性」というテーマを深く意識したことはほとんどなかったという水木さん。
しかし今では、その考えも大きく変わりました。むしろ「発達障害や、様々な困りごとを知ること」こそ、社会を生きやすくする第一歩だと感じるようになったといいます。
水木さんが立ち上げたアノマーツ出版は、「困りごとのある人や家族と社会を、本でつなぐ」というコンセプトを掲げています。
「発達障害の困りごとは、当事者だけが理解していればいいわけではありません。クラスメイトや友だちなど、周りの子が知っているかどうかで、学校生活は大きく変わります。知識があれば、行動も変わる。子どものうちから多様性に触れることは、のちの価値観を豊かにしてくれるはずです」
当事者である水木さんのお子さんも、お父さんの活動を応援しているのだそうです。
水木さんはこれからも、児童書を通じて、さまざまな発達の困りごとを社会に伝えたいと考えています。
【「算数障害」をテーマにアノマーツ出版の代表・水木志朗さんにお話を伺う連載は前後編。我が子が算数障害と診断された体験と、その後の対応についてお聞きした前編に続き、今回の後編では、算数障害の専門家による解説とともに、算数障害をテーマにした絵本について伺いました】
取材・文/中村 藍
写真/柏原 力
【参考】
算数障害とはなにか(日本LD学会)
絵本『すうじのないまち』(濱野京子・文 ユウコアリサ・絵 熊谷恵子 ・解説)
『算数障害がわかる本 解けない理由と支援のしかた(熊谷恵子 ・監修)
「算数障害」について理解する本
すうじのないまち
\“算数障害”がテーマの絵本/
“算数障害”をテーマに描かれた、不思議なまちの少女との出会いの物語。水木志郎さんが立ち上げた児童書の出版社・アノマーツ出版がおくる、困り事のある子どもと社会を繋ぐ絵本です。巻末には算数障害の専門家・熊谷恵子氏(筑波大学名誉教授)による解説が収録されています。
算数障害がわかる本 解けない理由と支援のしかた
\ひと目でわかるイラスト図解/
【ひと目でわかるイラスト図解】算数のどこでつまずくかは、一人ひとり異なり、その子がつまずいている部分に合わせた支援で子どもの困難を減らせることができます。本書では、「算数障害とは何か」からはじまり、つまずきの原因にあった学校・家庭でのサポート法を図解で紹介します。
子どもの特性に寄り添う絵本・児童文学
発達や特性は人によってそれぞれ違い、1人として同じ子どもはいません。多感な時期の子どもに寄り添う、絵本や児童文学作品を紹介します。
となりの火星人
\困りごとを抱えている子どもに寄り添う/
【対象:小学校高学年以上】他人とのコミュニケーションが不得手なかえで。勉強はできないけれど、自然とまわりに人を集めてしまう湊。湊のせいで私立中学の受験に失敗したと思いこんでいる兄の聡。自分の中に「化けもの」が住んでいるからキレやすいんだと思っている和樹。マイナスの感情が心を占めると息ができなくなって叫び声をあげてしまう美咲。みんな、「困った子」なんかじゃない。「困っている子ども」なんだ。
ぼくの色、見つけた!
\色覚障害をテーマにした物語/
トマトを区別できない、肉が焼けたタイミングがわからないことから、色覚障がいが発覚し苦しむ信太朗。母親は悪気なく「かわいそう」といい、試すようなことをしてくるし、症状を知らないクラスメイトから似顔絵のくちびるを茶色に塗ったことを馬鹿にされ、すっかり自信を失ってしまう。眼科の先生は個性のひとつと言ってくれるけれど、まわりがそうはとらえてくれないし…。
学年が上がり、クラス担任が変わり自分自身に向き合ってくれたことで、信太朗は自分の目へのとらえ方がすこしずつ変わっていくことに気が付く。
たぶんみんなは知らないこと
\第60回野間児童文芸賞受賞作/
「ねえねえ。なに話してるの?そんなふうにいえればいいんだけど、わたしはおしゃべりができないから。」特別支援学校で長く現役教師をつとめながら児童文学作家としても活躍する、福田隆浩氏の感動作。重度の知的障がいのある小五の女の子、発語できない、すずと、お兄ちゃん、同級生、先生、保護者たちなど周りの人をめぐる優しい物語。第60回野間児童文芸賞受賞作。
見えない人と見える人が一緒に楽しめる「バリアフリー絵本」
(黒柳 徹子:原作、 八鍬 新之介:監督・脚本、 鈴木 洋介:共同脚本、 シンエイ動画 )
\黒柳徹子さんの幼少期を描いた作品/
2024年公開の「映画 窓ぎわのトットちゃん」をもとにした、読みやすいストーリーブックを、点字つきさわる絵本にしました。美しいアニメ絵をふんだんに使い、その上に点字と触図を配置しました。ひとり読みだけでなく、読み聞かせにもぴったりです。小学校中学年以上向け。
\名作を点字と触図で楽しめる/
まっくらやみのあらしの夜、オオカミとヤギが繰り広げるハラハラドキドキの物語『あらしのよるに』の面白さを、点字と触図で再発見!たんに親本に点字がついているだけではなく、オオカミとヤギのちがいや、あらしの風雨や雷の様子を、見て・触って・読んで・楽しめる工夫が随所になされています。

中村 藍
1978年宮城県出身。小学校(通常の学級/特別支援学級)・特別支援学校(小学部・高等部)の教員として20年以上にわたり教育経験を積む。退職後、教育関連のWebメディアや雑誌への寄稿・監修、書籍執筆を行う。発達支援や教育DX、不登校、受験などの分野において、教育現場や官公庁、当事者への取材多数。 【URL】 ポートフォリオサイト https://ainakamura.edire.co/ ブログ「てとて~みんなの発達支援相談室」 https://tetote-tama.com 著書『発達障害&グレーゾーンの子 小学校生活の困りごと解決Book 学校の先生が教える!発達が気になる子のための困りごとヒント1』 https://amzn.to/3GVGKii
1978年宮城県出身。小学校(通常の学級/特別支援学級)・特別支援学校(小学部・高等部)の教員として20年以上にわたり教育経験を積む。退職後、教育関連のWebメディアや雑誌への寄稿・監修、書籍執筆を行う。発達支援や教育DX、不登校、受験などの分野において、教育現場や官公庁、当事者への取材多数。 【URL】 ポートフォリオサイト https://ainakamura.edire.co/ ブログ「てとて~みんなの発達支援相談室」 https://tetote-tama.com 著書『発達障害&グレーゾーンの子 小学校生活の困りごと解決Book 学校の先生が教える!発達が気になる子のための困りごとヒント1』 https://amzn.to/3GVGKii
























































































水木 志朗
雑誌・書籍デザイナー。1976年、北海道生まれ。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。デザイン事務所で勤務後、2009年に独立。不登校、発達障害の子育て、両親の認知症介護などを経験。 2025年、困り事のある子どもと社会をカルチャーで繋ぐ児童書の出版社「アノマーツ出版」を設立。算数障害をテーマにした絵本『すうじのないまち』(濱野京子・文、ユウコ アリサ・絵)を刊行。
雑誌・書籍デザイナー。1976年、北海道生まれ。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。デザイン事務所で勤務後、2009年に独立。不登校、発達障害の子育て、両親の認知症介護などを経験。 2025年、困り事のある子どもと社会をカルチャーで繋ぐ児童書の出版社「アノマーツ出版」を設立。算数障害をテーマにした絵本『すうじのないまち』(濱野京子・文、ユウコ アリサ・絵)を刊行。