偏食がひどくて困っています【発達障害・発達特性のある子】の育児の悩みに専門家が回答

#3 偏食がひどくて困っています〔言語聴覚士/社会福祉士:原哲也先生からの回答〕

一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士:原 哲也

食事時間の6つの工夫

「家族と一緒に、おいしく、楽しく食べること」ができるようになるために、次のような工夫が考えられます。

(1)空腹時間を作る
「空腹は最上のソース」と言います。おなかがすいていると食事が待ち遠しく、料理がおいしく感じるものです。大変だとは思いますが、週末を含めて三食の時間を決め、スナック菓子やジュースなどの間食を控え、空腹の時間を作りましょう。

お菓子が見えると欲しがるので買い置きをしないで、都度都度買うようにするといいかもしれません。また、日中にできるだけ外で体を動かすのもいいことです。おなかもすきますし、遊びに集中している間はお菓子の要求も起きにくいのではないでしょうか。

(2)食事に集中できる環境を整える
乳幼児は2つのことを同時にすることがまだ苦手です。ですからテレビがついていれば食事がおろそかになります。また「自己制御の力」が未熟なので、おもちゃなど気になるものがあればそちらに向かってしまいます。おもちゃは見えないところに片付け、テレビやタブレットをOFFにして食事に集中できる環境を整えましょう。

(3)食事の時間、場所、食事内容を親が決める
子どもが「ボクは食べたいときに食べる」とか「ボクは食べたい場所で食べる」と誤学習してしまうと、家族と一緒に食事をすることが難しくなります。「家族と一緒に、おいしく、楽しく食べる」ために、食事の時間や場所は子どもの好きにはさせずに、親が決めましょう。

また、出したものが気に入らず「いらない、〇〇がいい」と言ったときは、応じないようにします。𠮟らず淡々と「わかった。食べないのね」と応じます。出したものが気に入らないと泣き叫ぶので、つい欲しがるものを出してしまうという話はよく聞きますが、それをしてしまうと「泣き叫べば嫌なものは拒否できる」「そのあと、欲しいものが食べられる」と誤学習してしまいます。食事の時間、場所、内容を親がコントロールすることは、「家族と一緒に、おいしく、楽しく」食事をするために大切です。

(4)周りの人がおいしそうに食べる
偏食の要因のひとつに「初めての食べ物は怖い」ということがありました。しかし「怖い」食べ物でも、周りの人がおいしそうに食べていると、子どもは「みんながおいしそうに食べているから、もしかしてこれは怖くないのかな?」と感じ、挑戦するきっかけになります。家庭では偏食だけれど保育園では何でも食べるという話はよく聞きますが、これも同じことです。

古い研究ですが、食べたことのない食べ物を母親が食べているところを見せると80%の幼児が食べるという研究があります。(Harper,L.V.&Sanders,K.M.[1975]. The effect of adults’ eating on young children’s acceptance of unfamiliar foods. Journal of Experimental Child Psychology, 20[2],206-214.) 親が「これおいしいぞ!」と食べてみせるのは大事なのです。

(5)子どもの食べ物への興味や挑戦を応援する
子どもが今まで食べなかった食べ物に興味を示したり、食事に意欲を見せたらそれを応援する声かけをしましょう。

例えば「パクッ」「モグモグ」とか、子どもがフォークで食べ物を刺したら「ザクッ」のような擬音を添えてみます。このような「オノマトペ」は子どもの興味を引き、楽しいので、子どもはオノマトペを期待して、食事に意欲的になることがあります。

また、今まで拒否していた食べ物や料理に少しでも興味を示したら「よく見てるね」「少し触ってみたのね。うれしいな」、席にきちんと座ったら「かっこいい!」などとプラスの声かけをしてみましょう。

応援の声かけをするには、子どもの様子や行動をよく見ていなければなりません。子どもをよく見て、子どもの小さな変化をしっかりとらえ、タイミングよく後押しする。このような関わり方をコツコツと重ねていくことが、子どもが食事時間を好きになることにつながっていきます。

(6)最後は子どもが自分で決める
このように大人は最大限の工夫をするわけですが、しかし、その上で最終的に、食べるか食べないかを決めるのは、子ども自身です。

工夫をし、努力したけれど親が期待するほど食べなかったとしても「そうか」と諦め、食べられる分だけ食べれば良しとしましょう。

国内外の文献を通して知る限り、偏食の影響で身長や体重などの成長が阻害されたという報告はありません。

「せっかく作ったのに!」「こんなに工夫したのに!」などと言ったり、無理やり口に押し込むようなことはしないでください。食べることを強制すると、偏食からの二次障害、つまり食材や食事場面、そして、強制する親に対する恐怖心が生まれ、偏食傾向が強まったり、食事に対する回避行動につながります。

最後に

「これおいしいね」と言いながら家族で食卓を囲むことは幸せなことであり、単に栄養を摂取する以上の意味があります。

「食事時間の6つの工夫」でお伝えしたことをするのは大変かもしれません。しかも、すぐにはうまくいかないかもしれません。しかし、それでも、テレビのスイッチを消す、子どもの食事の様子をよく見るなど、まずはできるところから意識して生活していくことで、少しずつ変わってくることもあろうかと思います。「家族と一緒に、おいしく、楽しく食べること」ができるよう、子どもを応援してあげてください。

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今回は「偏食がひどくて困っています」というお悩みに、お答えしました。栄養が足りないのでは? と心配される親御さんもいらっしゃると思いますが、「偏食をなくす」ことではなく、まずは楽しく食卓を囲むことを目標に取り組んでみてほしいという原哲也先生からのアドバイスでした。

第4回は、「子どもが真夜中まで起きて遊んでいます」という生活リズムのお悩みを取りあげる予定です。

第4回 子どもが真夜中まで起きている【発達障害・発達特性のある子】の生活リズムや睡眠の悩みに専門家が回答

原哲也
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事・言語聴覚士・社会福祉士。
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。

2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。

著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。

児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」

「発達障害の子の療育が全部わかる本」原哲也/著

わが子が発達障害かもしれないと知ったとき、多くの方は「何をどうしたらいいのかわからない」と戸惑います。この本は、そうした保護者に向けて、18歳までの療育期を中心に、乳幼児期から生涯にわたって発達障害のある子に必要な情報を掲載しています。必要な支援を受けるためにも参考になる一冊です。

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原 哲也

Tetsuya Hara
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士

1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」

1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」