発達障害の特性のある孫を育てる“祖父母”とは?【前編 行動・気持ち】〔言語聴覚士/社会福祉士〕が解説

#18 発達障害の特性のある子どもの「祖父母」への支援─前編~祖父母の気持ち~ (3/3) 1ページ目に戻る

言語聴覚士・社会福祉士:原 哲也

祖父母も迷い悩み大きく揺れている

発達障害の特性のある孫を持つ祖父母の方から相談を受けることがよくあります。代表的なものを以下に挙げてみます。

・孫が発達障害なのではないかと思うが、私はどうしたらいいのか?
・自分の孫は発達障害だと思うが、孫の親たちは全く気にしていない。どうしたらいいのか?
・嫁が自閉スペクトラム症の孫にどなってばかりで、孫がかわいそうでしかたない。どうしたらいいのか?
・3歳になっても言葉が出ないが、どうしたらいいか?

発達障害の特性のある子を持つ親と同じように、祖父母の心も大きく揺れ動いていることがよくわかります。わが子でなく孫だからこそ少し客観的に見ることができる、しかし、わが子ではないからこそ、祖父母が事を勝手に進めるわけにはいかない。そのようなジレンマを感じます。

全国の発達障害者支援センターへの質問の調査でも、祖父母からの相談内容は「孫について感じる異常について専門的な意見を求めるもの」がもっとも多く、つぎに「孫のために自分がどのようなことをしてやれるかについて」「孫に対する自分の接し方について」「孫の将来について」であったといいます。

これらは発達障害の特性のある子を孫に持つ祖父母の典型的な心配なのです。

〈参考:今井和夫「発達障害者支援センターにおける祖父母支援─センターへの質問紙調査を通して─」『秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要』第31号,P.61-74,2009〉

祖父母の心情に寄り添う

より具体的に発達障害の特性のある子の祖父母の心情を整理してみましょう。

・混乱した気持ち:診断名を聞いて混乱してしまう
・とまどいやジレンマ:自分は孫に間違った関わりをしてしまわないか。両親に任せておいたほうがいいのではないだろうか。積極的に関わっていいものなのか、やはり一歩引いてみていたほうがいいのか、わからない
・嫌だという気持ち:外出時にパニックになられてしまうと恥ずかしい
・悲しい:孫との幸せな時間を夢に描いていたのに、この子との関係づくりは無理じゃないか
・罪の意識:嫌だとか悲しいとかという気持ちを持ってしまったことへの罪悪感

参考『孫がASD(自閉スペクトラム症)って言われたら?! おじいちゃん・おばあちゃんだからできること』(著:ナンシー・ムクロー、監修:梅永雄二、訳:上田勢子/明石書店)

発達障害の特性のある子の祖父母は、このようにさまざまな気持ちを抱きながら、孫と向き合っているのです。

子育てに大きな役割を担う祖父母が多い

では、現実に祖父母は発達障害の特性のある子どもとどのような形で関わっているのでしょうか。

私の児童発達支援事業所では、親に代わって発達障害特性のある孫の支援をしている祖父母が多くおられます。療育への付き添い、通園施設や学校への送り迎え、親が仕事から帰るまでの孫のケア、ときには、完全に親に代わって子育て全般を担っていることもあります。

発達障害の特性のある子と両親を祖父母が支えている家庭も珍しくないのです。

祖父母のストレスと疲労

祖父母が親に代わって発達障害の特性のある子の支援をしているケースでは、祖父母は多くの人生経験を積んでいるのでさまざまな出来事に対して、より達観してみることができる、両親より時間の余裕があるためゆっくり時間をかけて孫に向き合える、という強みがあります。

しかしだからといって「祖父母なしでは発達障害の特性のある子の支援ができないから、祖父母にどんどん頑張ってもらいましょう」というわけにはいきません。

先ほどご紹介した調査でも、祖父母は発達障害の特性のある子との暮らしの中で、「精神的に大変である」「体力的に大変である」「健康面で大変である」「経済的に大変である」「自身の生活というものがない」「知り合いや友人などから孤立しがちである」などの印象があったとされています。

祖父母もストレスを抱え、大きな疲労を感じながら、時には孤立感を覚えながら、発達障害の特性のある子の実質的な養育者として、必死に毎日を過ごしているのです。

〈参考:今井和夫「発達障害者支援センターにおける祖父母支援─センターへの質問紙調査を通して─」『秋田大学教育文化学部教育実践研究紀要』第31号,P.61-74,2009〉

最後に

今回は発達障害の特性のある子を孫に持つ祖父母の状況についてお伝えしました。

次回(第19回)は、このような祖父母に対してどのような支援が可能なのかを考えていきたいと思います。

原哲也
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事・言語聴覚士・社会福祉士。
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。

2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。

著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。

児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」

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はら てつや

原 哲也

Tetsuya Hara
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士

1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」

1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」