子どもが真夜中まで起きている【発達障害・発達特性のある子】の生活リズムや睡眠の悩みに専門家が回答

#4 子どもが寝なくて困っています〔言語聴覚士/社会福祉士:原哲也先生からの回答〕

一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士:原 哲也

子どもが真夜中まで起きて遊んでいることへの対応 

では子どもが真夜中まで起きて遊んでいることにどのように対応していったらいいでしょうか。

(1)睡眠障害の状態かを確認する

まず、子どもに次のような様子がないかを確認しましょう。

①なかなか眠れない
②睡眠中、何度も目が覚める
③一度目が覚めると1時間以上起きている
④睡眠時間が短い(9時間以下)
⑤不機嫌で泣いてばかりいる


①~⑤の状態だと、睡眠が細切れで「良質の睡眠」の状態が作れておらず、睡眠の機能が果たせていません。このような場合は、何とかして生活リズムを作って睡眠を整えていくことを考えます。

(2)生活リズムを作って睡眠を整えるには

STEP1 睡眠状態を把握する
入眠時刻、起床時刻、昼寝、夜中に目が覚めるか、という4項目を2週間毎日、記録します。2週間記録することで、週末を含めた生活リズムを把握することができます。日本眠育推進協議会のサイトの睡眠表「すいみんログ」 のフォーマット(https://www.min-iku-suishin.org/miniku_log/)が便利です。

STEP2 睡眠障害の原因を把握する
睡眠障害の原因は主に次の7つです。
①起床時間が一定しない
②太陽の光を浴びる日中の活動が少ない
③日中のストレス
④就寝直前の入浴
⑤入眠前の興奮状態(テレビやスマホ、遊び)
⑥他の家族と一緒に深夜まで起きている
⑦疾患等

①~⑦を手掛かりに生活を振り返って、その子の睡眠障害の原因を把握します。

STEP3 原因に応じた対応をする
①起床時間が一定しない
「平日は早起きするが、休日は朝遅くまで寝ている」のように起床時間が一定しないと、睡眠リズムが崩れがちになります。休日も平日と同じ時間に起きるようにしましょう。前夜どんなに遅く寝ても、朝は一定の時間に起こして朝の太陽の光を浴びるようにします。そうすることで、生活リズムが整ってきます。

②太陽の光を浴びる日中の活動が少ない
日中、運動の機会を増やしましょう。太陽の下で運動をするとセロトニンが作られ、メラトニンも多く作られるので寝つきがよくなります。発達障害のある子の中には運動嫌いの子どもがいますが、そういうときは、買い物のときに荷物を運んでもらうなどでもよいのです。工夫をして生活の中で体を動かす機会を作りましょう。

③日中のストレス
ストレスがあると交感神経が優位になり、リラックスできず眠りにくくなります。発達障害のある子は、日々、大きなストレスを感じて過ごしていることが多いです。良質の睡眠を得るためにも、保育園等や家庭での生活を振り返り、子どもが穏やかに過ごせる物理的環境と関わりを工夫して、ストレスが少しでも減るようにしましょう。

④就寝直前の入浴
人は脳の温度が低下するときに眠くなりますが、就寝直前に入浴すると脳の温度が上がり、寝つきにくくなってしまいます。入眠に最適なのは就寝時間の2時間から2時間半前の入浴なので、例えば9時に寝かせたいなら6時半頃に入浴するのがよいのです。何とか都合をつけて夕方早い時間に入浴をするようにしてみましょう。

なお、脳の温度が下がるとき眠くなる、ということから言うと、就寝の2時間半くらい前の運動も良いようです。運動をして脳の温度が上がるとその分、その後の脳の温度の「下がり幅」が大きくなって、より眠くなるからです。

⑤入眠前の興奮状態(テレビやスマホ、遊び)
太陽光だけでなく、テレビやスマホなどの光でも、光を浴びるとメラトニンの分泌量が減って目が覚めます。また、音の刺激や寝る前におもちゃなどで遊ぶことも、交感神経を興奮させ、寝つきを悪くします。就寝の2~3時間前にはテレビなどは消して部屋を暗くし、音やその他の刺激も避けて眠る状況を作りましょう。

睡眠障害への対応に限った話ではないのですが、発達障害のある子の場合、日中、保育園等での生活で強いストレスを感じていることもあって、安心できる家庭に帰るとその反動でテレビやゲームなどに没頭する、ということが起きがちです。これに対して「ダメでしょ」と言って無理やりテレビやゲームを取り上げても、子どもが強く抵抗するだけで、まずうまくいきません。原因である「日中のストレス」が解消していないからです。

対応としては、まず保育園等や家庭での生活を点検して、ストレス軽減の取り組みを行うこと、そしてテレビやゲーム以外の「好きなもの」を見つけられるように周囲がアシストすることです。いずれも一朝一夕にできることではなく長期戦にはなりますが、その意義を確認して、根気よく取り組みたいです。

⑥他の家族と一緒に深夜まで起きている
他の家族につられて、子どもが深夜まで起きていることがよくあります。遅くに帰宅した父親が子どもをかまう、兄姉が遅くまでテレビなどを見ているので寝つけない、という話もよく聞きます。

家族各人の事情もあるでしょうが、子どもの睡眠の大切さに鑑みて、父親とは休日に遊ぶ、兄姉が動画を見るならヘッドフォンを使うなど協力してもらい、子どもが寝つきやすい環境を作りたいです。

⑦疾患等
アトピー性皮膚炎でかゆい、呼吸器疾患で息が苦しいなど、疾患が睡眠障害の原因になっていることもあります。適切な治療を受けさせ、原因を取り除きましょう。

(3)それでも改善されないときは

さまざまな対応をしても、どうしても睡眠が整わない場合は、医療機関の受診を考えてみてください。医師は睡眠の改善のための知見を多く持っており、必要と判断すれば投薬もしてくれます。私の経験上も、服薬で睡眠の改善が見られたことは多々ありました。

最後に

いかがでしょうか。「良質の睡眠」を得るために、上に挙げたことを実践するのは、もちろんかなり大変です。発達障害のある子であればなおさらです。

ただ、幼児期の睡眠は子どもの脳・身体・心の発達にとって、非常に大切であることは確かです。ですから、どうか、できるところから、少しでも対応してみてほしいのです。

発達障害のある子の不機嫌の根底に睡眠不足があることはよくあります。睡眠が整うことで子どもが健康で機嫌よく生活できるようになるならば、家族の生活も少しスムーズになるのではないかと思います。ご家族皆さんで協力して、子どもの睡眠の問題に対応していただきたいと願います。

ーーーーーーーー
今回は「子どもが真夜中まで起きて遊んでいます」という生活リズムと睡眠のお悩みを取りあげました。原哲也先生に、子どもが「良質の睡眠」をとり、親御さんの睡眠不足も解消できるよう、家庭でできることを教えていただきました。

第5回は、「ものを並べるのが好き」などお子さんのこだわりについてのお悩みを取りあげる予定です。

原哲也
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事・言語聴覚士・社会福祉士。
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。

2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。

著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。

児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」

「発達障害の子の療育が全部わかる本」原哲也/著

わが子が発達障害かもしれないと知ったとき、多くの方は「何をどうしたらいいのかわからない」と戸惑います。この本は、そうした保護者に向けて、18歳までの療育期を中心に、乳幼児期から生涯にわたって発達障害のある子に必要な情報を掲載しています。必要な支援を受けるためにも参考になる一冊です。

35 件
はら てつや

原 哲也

Tetsuya Hara
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士

1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」

1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」