言葉が発達し、自我が芽生える1歳半〜2歳頃から始まると言われている「イヤイヤ期」。成長する過程の大切な時期とはわかっていても、どこでイヤイヤスイッチが入るかわからずお出かけするのも億劫になりますよね。第2回では、イヤイヤスイッチが入ったときにどうすればいいか、日頃から心がけておきたいことなど、「魔の2歳児」との上手な接し方を、育児ストレスに悩むママの心のケアを目的とした『ポジ育クラブ』を運営する公認心理師の佐藤めぐみさんに教えていただきました。
イヤイヤ期はいつもより「プラス15分」時間に余裕を持とう
――「イヤイヤ!」とグズってしまったら、どのように対応すればよいのでしょうか?
「第1回でもお話しましたが、自分の欲求に対する“イヤ”なのか、自立するための“イヤ”なのかをうまく線引きすることが大切です。自立するための行動であれば、極力待ってあげたいですね。ただ、親としては待っているだけだとつい手を出してしまうもの。でも子どもがやっていることに手を出すと“イヤ”がさらにこじれるのがオチなので、近くで用事をしながら見守ってみてはいかがでしょうか。朝の忙しい時間なら、ママも手を動かしながら付き合ってあげると、気持ちがまぎれるかと思います。子どもが靴下を履いている横で洗濯物を畳んだり、靴を履いている横で玄関の掃き掃除をしたりと、いずれやらなくてはいけないちょっとした家事をそのときに済ませるというわけです。もちろん、朝は時間の限界がありますから、できる範囲で。また、自分でやりたがることを予測して、多めに時間を取って行動するといった先回りをしてあげられたらいいのかなと思います」
――時間に余裕がないときだと、大泣きしていても連れていくしかないですからね。
「時間的な余裕は精神的な余裕に直結するので、『イヤイヤ期』のときはいつもよりプラス10分~15分かかる時期だと想定して、余裕を持って行動することが大切かなと思います。
また、お子さんの生活リズムを整えてあげることも、ある意味賢い先回りです。特に睡眠が十分にとれていると、スムーズになることが多いですよ。気をつけたいのがうまく進むようにお父さん、お母さんが先にやってあげてしまうこと。これから身につけてほしいことまで先回りしてやってしまうと、自立を妨げることになります。最近では、飲み物をうまく注げない子も多いそうです。こぼすのが嫌だからといってすべてやってあげてしてしまうと、子どもはできないまま。子どもの自立行動を妨げる先回りは望ましくありません」
「ダメ」なことの教え方は?
――先回りしてやってあげるのではなく、時間や生活リズムの部分でケアしてあげるということですね。
「『イヤイヤ期』がはじまる前の小さなお子さんがいらっしゃるご家庭でしたら、しつけの土台を作っておくことをおススメしています。まずは歩くようになった段階で、ダメなものはダメと教えてあげる。イヤイヤ期になってから今まで許していたことを急にダメといっても受け入れ難くなってしまうので、イヤイヤ期を迎える前に対応しておくことでスムーズに解決できる部分もあるかと」
――「ダメ」と教えるときはどのようにしたらいいのでしょうか?
「ダメにも段階があると思います。たとえば、料理中に火に手を伸ばしたり、車の前に飛び出したりといった危険な行動は絶対にダメですよね。本当にダメなことはしっかりとダメだよと言った上で、こうしたほうがいいと教えてあげる。強く言ったことで、“お母さんが怖いから言うことを聞く”というのは本質的な学びではないので、わかる言葉できちんと説明してあげてください」
子どもに決めさせることと、共感することがポイント
――それでもやっぱりグズって「イヤイヤ!」となってしまったときにはどう声がけをしてあげればよいのでしょうか?
「声がけの仕方にもコツがあります。まず、“~しなさい”という言い方だど、必ず答えは“イヤ!”です。では“~してくれる?”と聞くと、この時期の子どもは“はい”とは言わない。できれば“AとB、どっちがいい?”といった選択肢を与える声がけをしてあげてください。子どもは勝手に決められてしまうことがイヤなので、決めさせてあげることがポイント。なぜなら、自我や自立心を育てるには、“自分で決める”というプロセスがとても大切だからです。例えば、洋服を選ぶときに“これを着なさい”ではなく、“水玉のTシャツとストライプのTシャツどっちがいい?”と選択肢を狭めて聞いてみる。選ばせる、決断させることによってイヤイヤがおさまることもあるんですよ」
――子どもは自分で決断したいんですもんね。
「自分で決断したことによって満足する部分は大きいです。それから、共感してあげることも大切です。公園に行ったときに“帰るよ”と言ってもなかなか帰りたがらないですよね。そんなときには、まずは一旦共感する。“公園は楽しいよね。ママも本当はもっといたいんだけど”と共感しつつ、“でも、やらなきゃいけないことがあるからおうちに帰ろう”と提案する。それでもきっと“イヤ”と言うと思うので、“お家に帰って何しようか?”と、未来の楽しそうな提案で気持ちを引き上げる。頭ごなしに“帰るよ”と言うと100%うまくいかないので、お子さんを1人の人間として認めつつ誘導してあげてください」
叱る前に、できていたことを肯定してあげること
――まずは気持ちを受け止めてあげることが大切なのですね。
「そうですね。あとは、ほめや肯定を活用することで、脱線を起こしにくくする工夫もできます。つまり、イヤイヤからのグズグズの展開を未然に防ぐわけです。どうやるかというと、例えば、食事中に子どもが立ってしまったときには、“座って食べなさい”と叱りますよね。それは立ち上がってから言っているけれど、その前のちゃんと座っていた時間やがんばって自分で食べていた行動は肯定できていないことが多いものです。“上手に座って食べられておりこうだね”と、できている段階でまずそれを肯定してあげることで、その行動が持続しやすくなります。公園に行ってお友達とケンカしてしまったときも、いきなりケンカしたわけではなくて、仲良く遊んでいた時間もあったはずです。“仲良く遊べてえらいね”と早い段階で声をかけてあげることで、“きちんとできている”という満足感を高めてあげられると、それを維持しようという心理が働きやすくなります。簡単に言うと、“ぼく(わたし)はできる!”とその気にさせてしまうわけです。望ましい行動を肯定することによって、自我の成長を満足させることができます。脱線する前にほめてあげることを少し意識してみてください」
――共働きで忙しいお父さん、お母さんでも、できていることを肯定することはできそうです。
「静かにしてくれているときは“良かった”と思って別のことをしてしまいがちですが、実はそこにイヤイヤ解消の種がたくさんあります。“そこまでできるようになったんだね、すごいね”とひと言声をかけてあげるだけで、一緒に遊ぶ時間がなくても子どもは嬉しいんです。キッチンで食事の準備をしているときに、リビングで遊んでいる子に向かって言ってあげる。そんな些細なことでも認められている、肯定されていると感じることができます。叱ってばかりの毎日で、『イヤイヤ期』に“自己肯定感”を高めるなんて無理と思うかもしれませんが、“できていることを拾って肯定する”という声がけを、少しだけ意識してみてください」
第3回では、イヤイヤ期で少し疲れてしまったママ、パパのリフレッシュ法について教えてもらいます。
取材・文 石本真樹
佐藤 めぐみ
0~10歳の子の育児に役立つ心理学を発信する公認心理師。英・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会認定心理士。自身が運営する『育児相談室・ポジカフェ』では、子どもの困った行動に悩むご家庭向けの行動改善プログラムや育児ストレスのカウンセリングを行う傍ら、学びの場『ポジ育ラボ』にてスマホで受講できるオンラインの子育て心理学講座を配信中。2020年11月、コロナ禍で育児ストレスを抱えるママが自分の心のケアを学べる『ポジ育クラブ』をスタート。テレビ・雑誌などのメディアや企業への執筆活動を通じ、子育て心理学でママをサポートしている。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。海外経験が長く、諸外国の子育て事情にも詳しい。
0~10歳の子の育児に役立つ心理学を発信する公認心理師。英・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会認定心理士。自身が運営する『育児相談室・ポジカフェ』では、子どもの困った行動に悩むご家庭向けの行動改善プログラムや育児ストレスのカウンセリングを行う傍ら、学びの場『ポジ育ラボ』にてスマホで受講できるオンラインの子育て心理学講座を配信中。2020年11月、コロナ禍で育児ストレスを抱えるママが自分の心のケアを学べる『ポジ育クラブ』をスタート。テレビ・雑誌などのメディアや企業への執筆活動を通じ、子育て心理学でママをサポートしている。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。海外経験が長く、諸外国の子育て事情にも詳しい。