「『お仕事』に対して、おこづかいをあげてもいいですか?」子育て相談 モンテッソーリで考えよう!

第19回

モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長:田中 昌子

子育て中は、日々、悩みや困りごとがありますね。そこで、「モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所」所長で、たくさんのお母さま、お父さまの相談にのってこられた田中昌子先生にお話をお伺いしました。ちょっとした工夫で、子どもたちに大きな変化が起こるモンテッソーリの考え方は、目からうろこが落ちることがいっぱいです。子育て中の人、必読です!

※この記事は、講談社絵本通信掲載の企画を再構成したものです。

(イメージ写真/photoAC)

「お仕事」に対して、おこづかいをあげてもいいですか?

3歳9ヵ月の女の子です。最近、娘が自分の好みで、ほしいものが出てきました。親としては、う~ん、これを買うのかと思ってしまうものもあって、親の基準で、あるときには(これなら)「買っていいよ」と言ったり、「今度にしようか」と断ってみたりすることに、親としても疑問を感じています。
そのため、4歳になったら、おこづかいを渡して、その金額の範囲内で自分の好きなものを買ってもらおうと考えています。その際、「親はおこづかいを支払い、子どもは家の仕事を引き受ける」という形にしようと思っています。
モンテッソーリ教育では、日常生活の練習が基礎になっているので、家事の手伝いをさせて金銭を稼ぐという方法にすることについて、どうお考えでしょうか。子どもと最初に相談して、この家の「お仕事」をすればおこづかいがもらえることをあらかじめ約束すれば、支障はないでしょうか。
また、モンテッソーリ教育で、子どもにマネー教育をする方法がありましたら、ご教示をお願いします。

マルチ商法やカードローンによる自己破産など、金銭トラブルに巻き込まれる若者が多くなっていることなどもあり、子どもが小さい頃からマネー教育を始めたほうがいいという話は、最近よく耳にします。どういうマネー教育をするかで悩む親御さんは多いようです。

子どもがほしいと言ったものを、親がその都度判断するのではなく、おこづかいを渡して、その金額の範囲内で自分の好きなものを買うシステムにすることは、「ダメ」と言わずに済むので、親としては対応が楽ですし、子どもも喜ぶことでしょう。

ただ、モンテッソーリ教育で子どもの活動を「お仕事」と呼んでいるのは、大人のように仕事をして金銭を稼ぐという意味ではなく、むしろ正反対の意味合いがある、ということをまずお伝えしておきます。

モンテッソーリは『幼児の秘密』という著書の中で、大人の仕事と子どもの仕事の違いについて1章を割いているほどです。

大人の仕事は金銭を稼ぐことが目的ですが、これまでの連載でお伝えしてきたように、子どもの「お仕事」は自然のプログラム、いわば「神様からもらった宿題」のようなものです。子どもが取り組んでいるのは、自分自身の人格を形成するという「偉大な仕事」であり、この連載の第9回では、「自分自身を創りあげていくという崇高なお仕事をやり終えた子どもは、ほめるという大人の評価やご褒美が不要になるのです」とお伝えしました。

ほめられることもご褒美もいらない子どもに対して、お金を払う必要はありません。お金が目的になった瞬間に、子どもの崇高な「お仕事」は、単なる大人の仕事に変わってしまい、自分自身を創り上げていくという目的が失われてしまいます。ですから、モンテッソーリ教育では、お手伝いに対してお金を払うことは、基本的にはあり得ません。

マネー教育を行う時期

それでは、モンテッソーリはお金の教育について全く不要であると考えていたかというと、そうではありません。むしろ、仕事に対する報酬は必要であると考えていました。ただし、その時期は幼児期ではなく、思春期になってからです。モンテッソーリは、著書の中で、次のように述べています。

思春期のこどもの自立は違ったレベルで獲得されなければなりません。その理由は、彼らの自立は社会という分野で経済的に自立していなければならないからです。」(『児童期から思春期へ』マリア・モンテッソーリ著 K.ルーメル 江島正子訳 玉川大学出版部)

同書には、このあとに思春期の子どものホテル経営、ショップの経営について記載があります。海外のモンテッソーリ中学校では、自分たちで作った商品をショップで売ったり、カフェを開いたりして金銭を得る活動が、実際に行われています。利益はクラスの課外活動や物品の購入に充てられます。つまり、真のマネー教育とは、家庭内での「お仕事」やお手伝いでおこづかいを親からもらうことではなく、本当の意味での経済的な自立と考えているのです。

モンテッソーリ教育では、幼児期にごっこ遊びやままごとではなく、子どもたちに実際の家事を経験させます。思春期のマネー教育でも、考え方の基本は同じです。

ただし、モンテッソーリの基本的な考え方として「発達の4段階」というものがあり、その中の3段階目(おおよそ12歳から18歳)を思春期としていますので、一般的な思春期とは、ややずれているかもしれません。だいたい中高生の時期にあたります。

マネー教育をするための準備

私のモンテッソーリIT勉強会の海外の卒業生からいただいたレポートで、その一端をご紹介しておきましょう。

「モンテッソーリ 中学校に進んでから我が家では、単なるお手伝いではない本格的な仕事に対して報酬を払っています。たとえば外部の会社を雇うと1回で100ドルくらいかかる芝刈りの仕事を、1回25ドルでしてもらったり、私の翻訳の仕事を分担してもらって、報酬を払ったりしています。
中学生ともなると本人が欲しいものも、パソコンの自作パーツといった値段の高いものになっていて、頑張って仕事をしながら1つずつ揃えています。14歳からは、親の許可があればアルバイトもできます」


気を付けなければならないのは、中学生になったからといって、だれにでもいきなりこうしたマネー教育ができるわけではないということです。
モンテッソーリ教育は、系統性のある教育であり、なにごとも前段階の準備があります。幼児期の終わりから小学生の間に、マネー教育と銘打っているわけではありませんが、実はたくさんの準備がされています。

おもな準備を挙げると、以下の3つにまとめられます。

 1 計画や見通しを立てられる
 2 大きい単位の計算ができる
 3 奉仕の心を持っている


 お金を扱う際に計画や見通しが大事であることは、ご理解いただけると思います。モンテッソーリ教育では、すべての「お仕事」が準備から片付けまでを含んでいますし、日常の生活や家事をしっかりとこなす中で、段取りの仕方や先を見通す能力が自然と養われます。

直接お金を扱わせることでそれを養うのではなく、その前段階として「お仕事」の中でこのような力を身につけておくのです。数の要素を含む「お仕事」もたくさんあります。幼児期の「お仕事」はもちろんですが、モンテッソーリの小学校では宿題も時間割もなく、自分で学ぶ計画や見通しを立てますので、さらに磨きがかかっていきます。

さやえんどう いくつ入っているかな?
数の要素もあるシール貼り
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