介護施設で「SOMPO流 子ども食堂」 子どもと高齢者に起きた想定外の効果

子どもと一緒に学ぶ「介護事業」 ~後編~ 「SOMPO流 子ども食堂」での高齢者と子どもの多世代交流について

ライター:山田 優子

「SOMPO流 子ども食堂」での交流の様子。  画像提供:SOMPOケア

「学校の仲間に馴染めずに不登校になっていたお子さんが、『子ども食堂』での高齢者との触れ合いをきっかけに、表情が明るくなり、さらに別の学校に通えるようになったんですよ」

そう語るのは、SOMPOケアの地域包括ケア推進部で「子ども食堂」を推進する櫻井絵巨(さくらい・えみ)さんです。子どもたちは、高齢者へのお手伝いを通じて「ありがとう」の感謝の言葉をたくさんもらい、それが自信と成長につながっているのではないか、と櫻井さんはいいます。

後編では、子どもと高齢者との多世代交流を目的とした「SOMPO流 子ども食堂」についてお伝えします。

(全2回の後編。前編を読む

子どもには医療にはない「パワー」がある

SOMPOケアでは、2022年11月から、多世代交流の場として「SOMPO流 子ども食堂」を開始しました。

一般的に「子ども食堂」といえば、子どもの孤食解消や栄養のある食事の提供が主な目的とされますが、SOMPOケアではそれに加え、高齢者の活力向上や地域貢献、さらに子どもたちに介護職の体験を提供。

現在、約440の介護施設で月に1回(または2回)のペースで開催され、2023年11月末までに累計で1万4486名の子どもが参加しました。

この「子ども食堂」で、高齢者との触れ合いにより、子どもたちは介護への関心が芽生え、「もっと高齢者の人たちの力になりたい」「もっと優しくしてあげたい」と、将来は介護士や高齢者をケアする医者になりたいという夢を持つ子どももいるといいます。

「子ども食堂」で実施するレクリエーションの様子。子どもたちとのコミュニケーションを通じて笑顔になる高齢者の方たち。  画像提供:SOMPOケア

櫻井さんによると、「子ども食堂」を通じて、子どもたちの心の変化だけでなく、高齢者の方々の心身の状態にも変化が起きているといいます。その様子を尋ねてみました。

「普段、車椅子を利用しているご利用者さまが、子どもたちがペットボトルのボウリングをしている姿を見て『私もやりたい』と車椅子から立ち上がり、2~3歩ご自分の足で歩かれたのです」(櫻井さん)

車椅子から突然立ち上がれた瞬間、ご利用者さまの笑顔を見て感動して喜ぶ職員。  画像提供:SOMPOケア

「隣にいたホーム長と看護師は驚いて、慌てて身体を支えましたが、子どもたちとの交流がご利用者さまにとって思いがけない力になることがわかりました。担当の往診医も『医者では治せない力を子どもたちは持っている』と感動していました。

また、普段はあまり笑顔を見せない気難しいご利用者さまも、子どもたちといるときは笑顔で会話をしたり。子どもが来るとぽろぽろと涙を流して喜ぶ方もいらっしゃいます。

現場の職員からは、『日頃見られないご利用者さまの笑顔や、喜ばれる姿に心から感動しました。介護の仕事にやりがいを感じる瞬間です』という声が届いています」(櫻井さん)

前編でも触れたように、介護職員の人手不足が深刻な問題となっている日本。介護の需給ギャップを埋めるには、子どもたちに介護の魅力を伝え、興味を持ってもらわなければなりません。

「SOMPO流 子ども食堂」は、介護の魅力を伝える活動の一環であり、子どもたちにとってポジティブな影響があることはもちろん、高齢者自身にとっても子どもとの交流が生きる活力となっていることがわかりました。

「子ども食堂」笑顔で迎えてくれる温かい居場所

「SOMPO流 子ども食堂」の取り組みが見えてきた中で、具体的にどのような活動が行われているのでしょうか。

「まずは、子どもたちがご利用者さまの食事の配膳のお手伝いをするところから始まります。これは、子どもたちにとってちょっとしたお仕事体験となりますね。

その後、子どもたちはご利用者さまと一緒に食事をとることもあれば、少し離れた別の席で食事をすることもあります。食事は皆さん同じメニューですが、ご利用者さまによっては軟らかい食事が出されます」(櫻井さん)

ある日の食事の様子。  画像提供:SOMPOケア

「食事の片付けが終わると、多くのホームでレクリエーションの時間を取っています。紙で作ったボウリングや体操、ダンス、地域のボランティアの方と一緒に歌を歌ったり、手作りの魚釣りゲームで遊んだりすることもあり、開催内容は施設ごとに異なります」(櫻井さん)

レクレーションの様子。   画像提供:SOMPOケア

「そして最後は、子どもたちにお土産をお渡ししています。お土産は、私どもの活動に賛同してくださる企業から協賛していただく文房具やお菓子のほか、地域のボランティアの方たち手作りの竹とんぼなど、差し入れをしていただいた物などをお渡ししています。

レクリエーションまですべて含めてトータルで2~3時間ほどの時間ですが、各施設で、子どもと一緒に楽しめるよう、工夫をしています」(櫻井さん)

「『SOMPO流 子ども食堂』
・対象者:各事業所1回の開催につき、18 歳未満または高校生以下の子ども10 名まで。
・費 用:無料(同伴の保護者は300 円税込/人)。
・ホームのお仕事体験とお土産付き。  
※実施内容はホームによって異なります。

普段、高齢者施設に入る機会がほとんどない子どもたちにとって、中の様子はわかりません。しかし、このような体験を通じて、子どもたちは「施設の中は明るくて清潔な環境で、高齢者の方たちやスタッフが笑顔で迎えてくれる温かい場所」であることに気づくといいます。

ある子どもは、まるで雲に隠れているように見える高齢者施設が、実際に入ってみたらすごく明るく楽しい場所に感じられ、そうした気持ちを「雲の上はいつも晴れ」という作文で表現し、校長先生に発表して話題になったことも。

「最初、子どもたちは普段接しない高齢者を前にすると緊張してしまうんです。そうした子どもたちには職員が『笑顔で大きな声でゆっくり自分の名前を言ってね』と声をかけたりします。

そして、子どもたちがニコニコと笑顔で自分の名前を言うと、ご利用者さまからは『あらぁ、かわいい!』という嬉しそうな声が笑顔で返ってきます。そこから『どこから来たの?』『今、何年生なの?』という自然なコミュニケーションが生まれていくんですね。

最初は緊張していた子どもたちも、ご利用者さまとコミュニケーションを通じて心の距離が縮まり、すぐに仲良くなっています。

実際、昔の遊びを教えてもらったお子さんの中には、楽しくなり『帰りたくない!』と涙を流すお子さまもいました。そうした姿を保護者の方たちも微笑ましくご覧になっています」(櫻井さん)

人生の大先輩から人としての優しさを学ぶ

「SOMPO流 子ども食堂」は、子どもたちの成長にも良い影響をもたらしていると語るのは、SOMPOケア地域包括ケア推進部・理事部長の薄一臣(うすき・かずおみ)さんです。

「高齢者施設に入られている方々の平均年齢はおおよそ85歳と、人生の大先輩です。子どもたちは、場合によっては祖父母よりも上の世代である高齢者の方たちとの交流を通じて、人生経験や価値観を学ぶことができる。子どもの成長を考えると非常に大きな意味を持つのではないでしょうか。

一般的に『子ども食堂』というのは、孤食や栄養が偏りがちな子どもに向けて、食事を提供するのが目的ですが、私たち介護施設が『子ども食堂』を実施することで、食事だけでなく高齢者との触れ合いの場の提供につながります。私たちは地域交流の拠点として、これからも地域社会に根付いていきたいですね」(薄さん)

実際、学校帰りの子どもたちが施設に立ち寄って宿題をしたり、かつて教師をしていた高齢者の方に英語やピアノを教えてもらったりと、交流の場が生まれているといいます。

「介護という仕事は、ご利用者さまがこれまで歩んできた人生を大事にしながら、その人らしく、最期まで笑顔で生き抜いてもらうためのお手伝いをさせていただいている、と私は考えています。

子どもたちとの交流を通じて、ご利用者さまが心身ともに元気になっていく姿を見るのは、私たちにとって大きな喜びです。

そして、このような活動を10年、20年と地域で長く続けていくことで、子どもたちにとっても思い出に残るような経験を提供し、将来、介護への興味を持ってもらえる子どもたちが1人でも増えてくれると嬉しいですし、私どもの取組みによって地域が抱える複合的な課題の解決につなげていきたいです」(櫻井さん)

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「SOMPO流 子ども食堂」では、子どもたちと高齢者のとの間に絆が深まり、心温まるエピソードが数多く生まれています。こうした繫がりは、子どもたちが人に対してやさしい気持ちを育むと同時に、介護という仕事に対して興味を引き出すきっかけになるはずです。

超高齢社会を迎える日本において、避けて通れない介護問題。地域や子どもたちを巻き込んで生まれるこうした繫がりは、お互いに寄り添い合う大切さを学ぶ貴重な経験になるのだと感じました。

取材・文/山田優子

SOMPOケアの記事は全2回。
前編を読む。

やまだ ゆうこ

山田 優子

Yamada Yuko
ライター

フリーライター。神奈川出身。1980年生まれ。新卒で百貨店内の旅行会社に就職。その後、拠点を大阪に移し、さまざまな業界を経て、2018年にフリーランスへ転向。 現在は、ビジネス系の取材記事制作を中心に活動中。1児の母。

フリーライター。神奈川出身。1980年生まれ。新卒で百貨店内の旅行会社に就職。その後、拠点を大阪に移し、さまざまな業界を経て、2018年にフリーランスへ転向。 現在は、ビジネス系の取材記事制作を中心に活動中。1児の母。