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小学4年生ごろから見られる思春期の反抗期。成長過程にそれがあるとはわかっていても、いざ豹変した我が子に直面すると、急速な変化とその扱いにくさに親は戸惑うことがあります。
かといって、まったく反抗期を感じさせず、ずっと親にベタベタしているのも成長の面で心配です。
時代が令和となり、思春期の反抗期も親世代のそれとは変わってきています。学校や児童相談所のカウンセラーとしても活躍し、40年以上、あらゆる親子の問題に寄り添ってきた諸富祥彦先生が、今どきの思春期の反抗期とその対応術を解説します(全4回の1回目)。
◆諸富 祥彦(もろとみ よしひこ)
明治大学文学部教授。教育学博士。
1986年筑波大学人間学類、1992年同大学院博士課程修了。英国イーストアングリア大学、米国トランスパーソナル心理学研究所客員研究員、千葉大学教育学部講師、助教授を経て、現職。40年以上のカウンセラーキャリアを持つ。臨床心理士、公認心理師、上級教育カウンセラーでもある。
【諸富先生の過去の記事を読む】
【思春期の反抗期 乗り切りガイド:第2回 第3回 第4回を読む】
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そもそも思春期ってどんな時期だっけ? 子育てにおける思春期をおさらい
思春期は子育て中の親にとって、もっとも悩みの多い時期です。この期間の子どもは「難しい年ごろ」とたとえられますが、そう称されるほど繊細で複雑。だからこそ親にもさまざまな感情を呼び起こし、戸惑わせます。
「難しい年ごろ」の源流は一体どこにあり、何なのでしょうか。
「思春期を解説するにあたっては、まずは子育てのステージについてお話しさせてください。私は、子育てには次のような3つの段階があると考えます。
子育ての3つのステージ
① 0~6歳前後(乳幼児期) “心の土台”をつくる時期
② 6~10歳前後(児童期) “社会のルールや協調性”を学ぶ時期
③ 10歳以降(思春期) “自分づくり”に取り組む時期
このように思春期は、親とのつながりが深かった幼い自分から、親とは違う自分につくり変える時期を指します。他者からの視線や評価にも敏感になり、不満や不安、焦り、劣等感を感じるほかに、自分を誇らしく思って自信をつけるタイミングでもあります。
しかも、これらプラスとマイナスの感情が心の中で激しく入り混じると同時に、体にも変化が起こります。心身ともに大人へと成長する速度に、子ども自身が追いついていないのが思春期という時期です」(諸富先生)
ひとりの子どもの中に「自立したい自分」と「まだ親に甘えたい自分」がいたり、「理想の自分」と「現実の自分」がいたりして、常に葛藤しています。さまざまな面でアンバランスになることが、子育ての難しさにつながります。
「さらに、この時期の子どもは、これまでとは違ったストレスにもさらされます。思春期に入ると、親よりも友だちとの関係が重要になってきて、たとえば『周りに合わせなきゃ』とか『浮かないようにしなきゃ』といったプレッシャーも強まります」(諸富先生)
1日の大半を過ごす学校で息苦しさを感じつつ、自分の居場所をつくろうと頑張る子もいると諸富先生は話します。そういったさまざまなフラストレーションが子どもの内面をさらに複雑化させ、「難しい年ごろ」の一部分になっているのです。
デメリットばかりじゃない! 思春期に育まれる3つの力
思春期は自分の中で常に葛藤していて、ストレスフルな時期です。そのため子育ても一筋縄ではいかなくなりますが、子どもの成長にとってはメリットもあります。
「思春期は子ども本人にも、子育てをする親にも大変な時期ですが、何もデメリットばかりが起こる時期ではありません。思春期があるからこそ、子どもには次のような3つの力が育まれます。
思春期に育まれる3つの力
① 自分設計力
② レジリエンス力
③ 悩む力
①の自分設計力は、自分をつくる力のことです。最初にも解説しましたが、思春期は親とは違う自分につくり変える時期です。自分なりの新しい価値基準を形成していきます。
したがってこの間に重要なことは、親は先回りしたり、安易に安全な道に引き戻したりしないこと。親の価値観を押しつけるのではなく、自分づくりを後押しする姿勢が大切です。
次に②レジリエンス力とは、挫折から立ち直る力を指します。思春期は、悔しさや悲しみなどの経験から、自分で心の中を整理して立て直す術を育むときです。これは、困難に打たれ弱い大人にならないためには重要な力です。
③の悩む力にはネガティブなイメージを持たれる方も多いと思います。しかし、この力を手に入れることは思考力の向上にもつながります。きちんと悩むことができる人は、人生の問題にしっかりと向き合える人になれるでしょう」(諸富先生)
子どもに何か問題が持ち上がった場合、親は手助けしたくなりますが、思春期は親が先回りして正解を出したり、安全な道を用意したりするのを意識的に控えたい時期です。
3つの力がよりよく育つように、親は子育てのスタンスを見直す必要があります。