「父親育児」でまず「やるべき」ことは? 育休10か月取得パパが伝える子育てのコツ

男性の育児とキャリア②

髙崎 順子

大切なのは「聞く力」

野﨑:それらも大切ですが、他にも大切なものがあると思います、それは「傾聴力(※)」です。

(編集部注:「傾聴」とは、相手の話をその人の立場に立ってきちんと聞きとるスキル。自分の好き嫌いや評価を入れずに、相手の主張・気持ちを理解することを指す)

野﨑:仕事で、後輩や同僚・上司、またはお客様の気持ちや想いを考えて「傾聴」していると思いますが、それを「家庭」に置き換えることです。

ポイントは「相手を主語にして考える」です。

赤ちゃんが泣いていたら、「この子は何を望んで泣いているのだろう、眠いのかな、お腹が空いたのかな、おむつを替えて欲しいかな、ただただ抱っこして欲しいのかな」などと、赤ちゃんの目線で考えます。

パートナーに対しても同じように、パートナーを主語にして、願望や希望に寄り添っていきます。

例えば「産後の妻は何を望んでいるのだろう、少し横になりたいのか、ゆっくり寝たいのか、少し一人になりたいのか、お腹は空いているのか、パパとお話をしたいのか」などなど。

編集部:父親に大切なのは「傾聴力」、「パパをする」のひとつは「分かち合うこと」ですね! まさに先ほどおっしゃっていた、マインドセットです。

野﨑:この傾聴力は、育休明けの復職後でも活かせます。職場で後輩や同僚・上司、またはお客様などを主語にして考える時などです。

育児で大切にしてきたことで、仕事にも役立つことはありました。私も育児や家事の時に、同時にいくつものタスクを進行する力や、タイムマネジメント力が磨かれたと実感しています。

編集部:それは実際に育児や家事をしてきた、父親ならではの体験ですね。

野﨑:最近では、人事部や上司の方々が、育児・介護で休業する予定のある人へ、早めに意思確認の場を作る機会も増えてきたと思います。また働く親が育児をしても、キャリアに支障が出ないようにする仕組みは今後も必要だと思います。

「一度きりの人生」をどう生きたいか

編集部:野﨑さんは1980年代生まれと、性別役割分担意識がある時代に育っているかと思いますが、自分が育児を楽しむ父親になったのは、どんな経緯があったのでしょうか。

野﨑:子どもの頃は、幼かったため、世の中がそのような時代だとはもちろん理解していませんでしたが、それでも私が小さい時、私の父親は週末には、車でどこか連れて行ってくれたり、一緒に野球をしたり、私の友達たちとも遊んでくれたりと、たくさん関わってくれる人でした。

その楽しい思い出・記憶を、自分の子どもにも伝えたい・共有したいとの想いはありましたが、実際には他にもキッカケがあります。

2018年に第1子が生まれたときです。出産に立ち会って、生まれてきてくれた子どもに初めて会ったとき、「この子を守ってあげたい」と強く感じました。
 
そして自分が育休の取得を決めたのは、妻の勧めで読んだNPO法人ファザーリング・ジャパンの書籍の一節にあった「子育ては期間限定です」という言葉に感銘を受けたからです。

その後、ファザーリング・ジャパンのイベントに参加したとき、代表理事で創設者の安藤哲也さんとお会いし、「子育ては期間限定だから楽しんでね」と声をかけてもらいました。

子育ての時間や期間が短いなら、その期間にたくさん関わりたい。関わる時間が多いほど、子どもとの思い出は増えるだろう、と。

編集部:先ほど「父親にはキッカケが必要」とおっしゃっていたのは、野﨑さんご自身の体験でもあったのですね。

野﨑:そのイベントで安藤さんが、「期間限定の子育てをいっぱい楽しもう」「笑っているパパでいよう」と伝えてくれたのが、とても印象に残っています。

自分が親として子どもと一緒にいられる時間は、子どもの成長とともにどんどん少なくなっていきます。人生は一度きり。その人生を「楽しかった!」と終われるようにしたいと思いました。

あの出会いがなかったら、私は育休を取っていなかったかもしれませんね。

一番大切なのはパートナー

編集部:日本では男性の育休取得率がぐんぐん上がっています。

野﨑:育休を取るパパが増えたことは、私のイベントや講演に参加する父親たちを見ていて実感します。取得期間も長くなって、「半年取りました」という声も聞きますね。

2018年の私の育休中はまだ「父親が育休を取るなんてすごい」と言われたり、子育て施設でも、子どもと二人でいると「ママは?」と聞かれたりしましたが、今は確実に変わってきています。

育休取得率の推移(出典:厚生労働省)
育休取得率の推移(出典:厚生労働省)
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野﨑:一方でやはり、育休明けの時短勤務は母親のほうが多い気もします。それは夫婦で話し合って決めたの? 話し合って決めていたら良いのですがね。

編集部:共働きの家庭はとにかく時間がなくて、その話し合いをする余裕もない、というケースも多いようです。

野﨑:パートナー間でのコミュニケーションは、仕事と家庭の両立で大きなテーマです。

話し合いをする時間がないと、どんどんズレが生じて、仕事と家庭の両立が難しくなってしまうと思います。

子どもとの生活ではどうしてもパートナーとの時間は減ってしまうので、短い時間でもより濃く、楽しく対話する意識が必要です。

そのためにはまず、パートナーを「自分にとっての一番大切な人」と再確認する。忙しい中でもお互いの時間を大切に考えられると思います。

編集部:子どもが生まれると、どうしても子どもを中心・一番に考えてしまいがちですが、そうではないと。

野﨑:自分がパパでいられるのは、妻と子どもたちのおかげ。子どもはかわいいですが、傾聴力を意識する先の一番はパートナーです。

育児は楽しいばかりではなく、子どもが思いどおりに動いてくれないなど、難しい場面はたくさんあります。それでも「パパをする」のは、楽しい。

今、そしてこれからパパになる男性たちには、「子育てを通して、自分の人生をどうハッピーにしたいか?」と考えてほしい。後悔しないために、自分から変えていこうよ! 動いていこうよ! と伝えていきたいです。

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「令和パパの育児参加とキャリア」連載・後編では、父親支援をするNPO法人ファザーリング・ジャパン多摩支部代表・野﨑聡司さんに、育児する父親に不可欠のマインドセットや想いを伺いました。「令和パパの育児参加とキャリア」連載・前編では、医師の村上寛先生に日本の現状と改善策を聴いています。

取材・文/髙崎順子

出典・参考/
厚生労働省 令和5年度雇用均等基本調査 結果の概要 P19
内閣府男女共同参画局 令和6年版男女共同参画白書 
『パパの子育て応援BOOK』(著/NPO法人ファザーリング・ジャパン、パイ インターナショナル刊)

パパの子育て応援BOOK(著:NPO法人ファザーリング・ジャパン)
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休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方(著:髙崎順子)
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たかさき じゅんこ

髙崎 順子

Junko Takasaki
ライター

1974年東京生まれ。東京大学文学部卒業後、都内の出版社勤務を経て渡仏。書籍や新聞雑誌、ウェブなど幅広い日本語メディアで、フランスの文化・社会を題材に寄稿している。著書に『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)、『パリのごちそう』(主婦と生活社)、『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)などがある。得意分野は子育て環境。

1974年東京生まれ。東京大学文学部卒業後、都内の出版社勤務を経て渡仏。書籍や新聞雑誌、ウェブなど幅広い日本語メディアで、フランスの文化・社会を題材に寄稿している。著書に『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮新書)、『パリのごちそう』(主婦と生活社)、『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)などがある。得意分野は子育て環境。