中高生に「早寝早起き」を強いてはいけない…睡眠の専門家がアドバイスする本当の理由

専門医・神山潤先生に聞く「睡眠アドバイス」#2

中高生が昼夜逆転の生活になる前兆とは

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今、日本人は慢性的な睡眠不足に陥っていると言われています。成人と同様、子どもの寝不足が問題視されているわけですが、子どもの場合は、どれくらいの睡眠時間を確保すれば十分なのでしょうか。

東京ベイ・浦安市川医療センター、センター長の神山潤先生に伺ってみました。先生は小児科医であり、また、睡眠の専門家として同センターで睡眠外来も担当しています。

神山潤先生

【神山潤(こうやま・じゅん)医学博士。東京ベイ・浦安市川医療センター・センター長。専門は子どもの発達や健康教育、睡眠医療など。日本子育て学会理事• 東京医科歯科大学小児科臨床教授• 社会と共に子どもの睡眠を守る会会長】

「必要な睡眠時間には個人差があります。例えば、思春期の子どもなら、だいたい7時間から11時間くらいの間です。とはいえ、中には、6時間でOKな子もいれば、12時間寝ないとダメな子もいる。12時間必要な子に“あの子は6時間で大丈夫なんだから、あなたも6時間で頑張れ”は通用しない。12時間必要な子は12時間寝ないと無理なんです」

わが子の睡眠時間は足りているのだろうか。

親として気になるところですが、神山先生によると、「その人にとって必要な睡眠時間は自分自身で見極めていくしかない」。

その方法としては、毎日の就寝時間と起床時間を記す睡眠表をつけて1週間を振り返り、体調と睡眠時間を比較してみることが挙げられます。これを実践すると、「自分にはだいたいこれくらいの睡眠時間が必要なんだな」とおおよその目安がわかってくるといいます。

「この方法で、アバウトながらでも自分に必要な睡眠時間がわかるのは、大人も子どもも同じです。ただ、思春期の子どもの場合、たとえ寝不足だとしても、若いから、平気で過ごせてしまったりするため、睡眠表をつけても、自分の体調と比較しづらかったりします。第一、よほどのことがない限り、睡眠表などつけてはくれません(笑)」

睡眠不足を見極める3つのポイント

というわけで、先生は、睡眠不足かどうかを見極めるポイントを3つ挙げてくれました。以下に挙げる項目のうちひとつでも当てはまれば、寝不足の証拠だといいます。

①休みの日の朝寝坊
②授業中の居眠り
③夜、寝床に入ると5秒で眠れる

「どれかひとつとは言わず、全部に当てはまる子も多いのではないでしょうか。みんなそうだから自分は普通と思っている子もいるかもしれません。

確かに、思春期の子どもは、寝不足が続いても、若さゆえ、気合と根性である程度まではなんとかなります。

しかし、それが何年も続くと、ある日、突然、体が反乱を起こし、平日でも朝起きられなくなってしまう。そして昼まで寝てしまい、そうすると、夜眠れなくなる……。あっという間に昼夜逆転になり、学校に行けなくなってしまうことも珍しくありません」

▲寝た時刻と昼間の生活
(出典:社会と共に子どもの睡眠を守る会 指導者向け資料より)

思春期の子どもは「黙って見守る」ことが大事

昼夜が逆転してわが子が学校に通えなくなったりしては大変! その前になんとかしなくては! 親なら誰もがそう思うことでしょう。子どもが夜更かしをしていることがわかっているなら、「早く寝なさい!」と口うるさく言いたくもなってきますが……。

「中高生にそんなことを言ったところで、聞く耳は持たないでしょう。だって、価値観がぜんぜん違うんですから。インターネットやらゲームやら楽しいことがいっぱいで、寝る間を惜しんでも、こっちをやりたくなってしまいますよね」

「だいたい、お父さん、お母さんに“ああしろ、こうしろ”と言われて、“はい、わかりました”と思春期の子が素直に言うことを聞きますか。自分のことを振り返ってみてもわかるでしょうが、聞くわけがないと思いません? 思春期の子どもたちは親に反抗するのが当たり前。ですから、言うだけムダです」


でも、放っておくことなどできない。なんとか、わが子が「自分で改善しよう」と思えるような状況にもっていくことはできないものでしょうか。

▲思春期の子どもに「ああしろ、こうしろ」と頭ごなしに言っても響かない。「見守る」「話をきいてあげる」のが親にできる最善のこと(写真:アフロ)

「とにかく、ごちゃごちゃ言わないで、優しく見守ってやる。そして、子どもが何か喋りたそうにしていたら、話を聞いてやる。これが親にできる最善のことではないですか」

「ご自身のお子さんのことを一番わかっているのはご両親ですよ。過信は問題ですが、“自分の子どものことは私が一番わかっているんだ”と信じ、そして、お子さんのことも信じましょうよ。そうやって見守っていく中で、お子さんからのサインを見逃さす、SOSが出たら、ちゃんと応えてあげるのがいいのかな、と思いますね」


寝室の明るさは、ものの形がうっすらとわかる程度の薄暗さ、室温は夏場で28℃以下、冬場なら20℃以上──などと、快眠を得るために理想的な環境についてよく言われています。

わが子を黙って見守るなら、せめて、こうした環境だけでも整えてやりたいと思うのが親心ですが、神山先生は、これに関しても「No good」のスタンス。

「思春期の子どもが寝る環境を親御さんがチェックする!? 僕が子どもだったら絶対イヤです。親を自室には入れません(笑)。無理に入ろうとしたら、親子関係が険悪になりますよ」

「とにかく親御さんは黙って見守り、お子さんが何か言ってきたら、“今忙しい”とか“あとで”などと言わないで、すぐに対応する。親御さんには、それだけの余裕を持っておいていただきたい。そうすれば、子どもたちも救われるんじゃないでしょうか」

「早起きのススメ」の功罪

思春期の子どもの睡眠に関する問題というと、夜更かしだけがクローズアップされがちです。でも、「うちの子は大丈夫。夜は10時に寝ているから」などと安心するのは早計です。

「最近、僕の睡眠外来を受診した、ある中学生と高校生は二人とも、毎日の就寝時間は午後10時で、起床は午前4時。一人は勉強、一人はダンスの練習をするために、もう何年もこうした生活を続けていたらしいのですが、明らかに睡眠時間が足りていない……。よくよく話を聞いてみると、“早起きは絶対的にいいものだと思っていました”と、双方ともに同じようなことを言うんです」

「確かに、早起きはいいことですよ。ですが、“早寝”とセットになっていなければ、結局、慢性的な睡眠不足を招くだけになってしまいます」

この二人の子どもを前に、心を痛めたという神山先生。

「かつて僕は、睡眠の専門家で構成する『子どもの早起きをすすめる会』(現在は『社会とともに子どもの睡眠を守る会』に)で、散々、“早起きはいいことだよ”みたいなことを言ってきたわけです。当然、早起きの大前提として、早寝があり、それについても伝えてきたつもりですが、世間には、うまく伝わっていなかったのかもしれません。世の中に向けてメッセージを発信するのは、本当に難しい。特に子どもたちには……」

“早寝早起き”は、ヒトが健康的な生活を送るための基本です。

しかし、わが子に対して、「早く寝なさい」「早く起きなさい」の苦言は、子どもたちにプレッシャーを与えるばかりか、ともすると、件の中高生のように、間違ったメッセージとして伝わってしまうかもしれません。

このこともまた、思春期の子どもに早寝早起きを強いてはいけない理由です。

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