中高生に「早寝早起き」を強いてはいけない…睡眠の専門家がアドバイスする本当の理由

専門医・神山潤先生に聞く「睡眠アドバイス」#2

授業中の居眠りも場合によっては看過する!?

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先の中高生然りですが、慢性的に睡眠不足に陥っている子どもたちは、無意識のうちにも、足りない分を補おうとします。週末に朝寝坊どころか、お昼前後まで寝ていたりするのは、その典型。

「多くの子は、そうやって睡眠補塡をするんです。十分な補塡ができているとは思えませんが、やらないよりマシ。ところが、それさえできない子がいるんですね」

「例えば、運動部に所属している子たち。土日に遠征試合があることも多く、週末のほうが早く起きなくてはいけない。そのような子たちは、平日も遅くまで練習していたりして、睡眠補塡をする時間がないんですよ。そうすると体がもたないでしょう? で、どうするかというと、授業中の居眠りです」

例えば、子どもの授業中の居眠りについて、担任の先生から連絡があったとしたら、あなたならどうしますか。頭ごなしに「授業中に寝てはいけない」と注意します?

「僕の睡眠外来にも、朝起きられない、夜なかなか眠ることができない、といった問題を抱えた中学生や高校生がたくさんやってきます。その中に、“授業中、寝てしまうんですけど、どうしたらいいですか”と悩んでいる子がいました」

神山先生の元には、睡眠の問題を抱えた中高校生が日々やってくる。(画像はイメージです 写真:アフロ)

「彼は、野球部に所属する男子でしたが、僕は彼に聞きました。“野球と勉強、どっちが大事?”と。すると彼は“野球”と答えたので、“じゃあ、授業中、寝ろよ”と僕は言いました」

「だって、その子は、授業中にしか睡眠の補塡ができないんですから、仕方ない。そうしないと体が持ちませんから。こういう子に“授業中、寝てはいけない”とは言えないですよねぇ……」


ちなみに、神山先生の睡眠外来を受診する子どもたちの中には、親に言われて渋々来たという子もいますが、多くは、自分から「どうにかしたい」と思っての受診だといいます。

「そうなんですよ。大事なのは、当の本人が、“今の状況から抜け出したい”と強く思い、積極的に改善する気持ちになることなんです。親御さんは、そのサインも見逃さないでほしいですよね」

子どもがまだその気になっていないのに、受診を勧めても反発されるのがオチ。でも、子どもが本気でどうにかしたいと思っているサインを受け取ったら、「お医者さんに行ってみようか」などと、さりげなく受診を提案してみるのも、ひとつの方法だといいます。

「睡眠外来での治療は、千差万別。睡眠の問題はいろいろな要素が複雑に絡み合っていますから、“この点さえ解決すれば治る”というものではないんです」

「中には、僕との対話によって、自分で少しずつ生活を改善していくようになって、それだけで問題が解決する子もいます。でも、中には、睡眠導入剤のような薬が必要な子もいます。治療法は本当に人それぞれ」

「ただ、いずれにしても、治療の大前提は、本人に“この状況をどうにかしたい”という強い気持ちがあること。患者さんの、この思いを受け止め、改善に向けてサポートしていくのが、僕たち睡眠の専門家の役割です」

【専門医・神山潤先生に聞く「睡眠アドバイス」は全3回。赤ちゃんの睡眠について解説した第1回に続き、第2回では「思春期の子どもに早寝早起きを強いてはいけない理由」を伺いました。最後の第3回では「大人の睡眠時間と睡眠不足の実態」について伺います】

取材・文/佐藤美由紀
写真/嶋田礼奈

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さとう みゆき

佐藤 美由紀

Miyuki Satou
ノンフィクション作家・ライター

広島県福山市出身。ノンフィクション作家、ライター。著書に、ベストセラーになった『世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉』のほか、『ゲバラのHIROSHIMA』、『信念の女 ルシア・トポランスキー』など。また、佐藤真澄(さとう ますみ)名義で児童向けのノンフィクション作品も手がける。主な児童書作品に『ヒロシマをのこす 平和記念資料館をつくった人・長岡省吾』(令和2年度「児童福祉文化賞」受賞)、『ボニンアイランドの夏:ふたつの国の間でゆれた小笠原』(第46回緑陰図書)、『小惑星探査機「はやぶさ」宇宙の旅』(第44回緑陰図書)、『立てないキリンの赤ちゃんをすくえ 安佐動物公園の挑戦』、『たとえ悪者になっても ある犬の訓練士のはなし』などがある。近著は『生まれかわるヒロシマの折り鶴』。

広島県福山市出身。ノンフィクション作家、ライター。著書に、ベストセラーになった『世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉』のほか、『ゲバラのHIROSHIMA』、『信念の女 ルシア・トポランスキー』など。また、佐藤真澄(さとう ますみ)名義で児童向けのノンフィクション作品も手がける。主な児童書作品に『ヒロシマをのこす 平和記念資料館をつくった人・長岡省吾』(令和2年度「児童福祉文化賞」受賞)、『ボニンアイランドの夏:ふたつの国の間でゆれた小笠原』(第46回緑陰図書)、『小惑星探査機「はやぶさ」宇宙の旅』(第44回緑陰図書)、『立てないキリンの赤ちゃんをすくえ 安佐動物公園の挑戦』、『たとえ悪者になっても ある犬の訓練士のはなし』などがある。近著は『生まれかわるヒロシマの折り鶴』。