子どもが政治を自分事にする「こども選挙」 ハードルは“一部の大人の無理解と偏見”だった

子どもによる、子どものための「こども選挙」#2〜投票日まで〜

「こども選挙」発起人:池田 一彦

「市内のお店などに選挙ポスターを貼らせていただいたんですが、なかには『本当の選挙と同時にこんなことやるなんておっかない』と断られたことも。『前例がないことをなんでやるのか』という批判的な声もありました。

マンションに関する候補者への質問には、『あのような質問を子どもが考えられるわけない』『大人が子どもに言わせているんじゃないか』とも言われました。要は、子どもを使ったマンション反対運動、ひいては現体制への反対活動をしているんじゃないかって。

もちろんそんなわけありません。どれも僕たちの目の前で、子どもたちが真剣に考え抜いた質問です。

『子どもにできるはずがない』という偏見は、一定数の大人の中にあると感じました。ですからよけい燃えましたね。これは絶対に成功させてやろうって」(池田さん)

さらに、「公職選挙法にも配慮する必要があった」と池田さんは続けます。公職選挙法では、未成年者による選挙運動が禁止されています。池田さんらがとくに注意したのは、特定の候補者に対しての意見や感想を発信・発言することです。

「具体的に何が違反なのか明確には定められていないからこそ、子どもならありそうな、『誰に投票した?』『お前は?』といった会話も抵触する恐れがある。ですからいくつかルールを決めて繰り返し伝え、投票後にわたす投票済証にも記載しました。結果として、違反行為はありませんでした。子どもってすごいですよね」(池田さん)

17歳以下の子どもは有権者ではありませんが、国の事柄を決める権利を持った主権者です。日本では長い間、若年層の政治離れが問題視されていますが、子どもは権利の主体ではなく保護の対象だという大人の認識をあらためていくことも必要なのかもしれません。

子どもたちが投じた“初めての一票”

10月30日(2022年)の投票日当日は、子ども含む投票所運営ボランティア約60名が入り、カフェやショッピングセンター、寺など市内11ヵ所に投票所を開設しました。

総投票数はネット投票も含めて566票。ほとんどが小学生だったといいます。

「個人的に目指していた1000票には及ばずでしたが、それでもよく集まったと思います。何よりも子どもたちがめちゃくちゃがんばっていた。投票所での呼び込みや受け付け、投票方法の説明、投票時の監視役などすべてこども選挙委員が行い、大人はサポートするだけでした」(池田さん)

「子どもも投票していいんだ」とうれしそうな姿や、「選挙って楽しい」という声に、「とてもうれしかった」と池田さんは笑顔で振り返ります。

「小学3年生くらいの女の子が、『私は回答動画を見たけど、候補者のことがわからなかったから投票できない』と言ったことも印象的でした。真剣に向き合ったからこそ、選べない。子どもの、考える力について改めて気がつかされました」(池田さん)

開票作業も子どもたちの手で行いました。実際の市長選挙では、現職の佐藤光市長が大差をつけて再選。「こども選挙」でも同じく再選となりましたが、18票差の僅差(きんさ)でした。

当初は「子どもが投票したらどんな大人を選ぶのだろう」という、親の好奇心から始まった「こども選挙」。でも「途中から結果は気にならなくなった」と池田さん。子どもたちが自分ごととして町のことを真剣に考え、意思を表明していく。その姿を見るにつれ、「このプロセスのほうがよっぽど大切だと思ったんです」(池田さん)。

「こども選挙」は投票で終わりではありません。次回は、選挙後に候補者へ届けたメッセージや、活動を通して変化した子どもと大人のこと、さらに広がる「こども選挙」の輪について、引き続き池田さんに伺います。

取材・文/稲葉美映子

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