発達障害のママは「ハグが嫌、泣き声が苦痛」 子育てを苦しめる感覚過敏

発達障害ママの子育て #4~子どもへの接し方編~_

ライター:桜田 容子

発達障害の中には感覚過敏の人も多く、子どもの泣き声でメンタルが削られるほど苦痛を感じるなど、一般の人からは想像できないような困りごとがある方もいます。  写真:アフロ
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コミュニケーションがうまくとれず、人づきあいで苦労しがちといわれる発達障害。ママになったら、子どもとの関係ではどんな工夫をしているのでしょうか。

発達障害当事者の女性が集うコミュニティで、実際にママたちがやっていることを聞きました。最後には女性の発達障害を専門とする精神科医・司馬理英子先生からのアドバイスも。

※全4回(#1#2#3を読む)

1000人以上の発達障害当事者女性が集う

不注意が多い、人とのかかわりが苦手、大きな音に過敏──こうした傾向が強い発達障害のママパパにとって子育ては一筋縄ではいきません。特性ゆえのストレスを抱えながら、いかに子どもと向き合うか──。

2017年に発足した発達障害をもつ女性だけのコミュニティ「Decojo(デコジョ)」は、当事者女性たちがオンラインなどで仕事や子育て、生活の悩みを思い思いに吐き出せる貴重な場。これまで、100回以上の交流が行われ、会員数は1000人以上(2023年5月現在)にも及びます。

さらに2022年からは「オンライン発達ママ会」を開催。子どもへの接し方やコミュニケーションの問題について、発達障害のママ(以下略:発達ママ)たちのリアルな経験談が交わされています。

活動の中から拾い集めた声を「Decojo(デコジョ)」代表の沢口千寛さんと、メンバーで2022年に出産したママでもある、豆の時間さん(仮名)に話を伺いました。

ご自身もADHDだと公言している「Decojo(デコジョ)」代表の沢口千寛さん。

発達障害ママが、子どもとの向き合い方での困っていることに、以下のような事柄がよく聞かれるといいます。

【発達障害ママに多い困りごと~子どもとの向き合い方編】

A:子どもの泣き声に耐えられない

B:子どもとのスキンシップ、特に突然のハグが苦手

C:先の見通しが立たないことがストレス


それらに対し、「Decojo(デコジョ)」の発達障害ママたちはさまざまな工夫をしていました。

【対策A:子どもの泣き声に耐えられない】

聴覚が過敏な人はイヤーマフで対応

ASD(自閉スペクトラム症)傾向を持つ、豆の時間さん自身が直面した育児の困りごとの一つに、感覚過敏の問題がありました。

感覚過敏とはASDに見られやすい特性で、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚などの五感が過敏であること。

聴覚過敏では、多くの人があまり気にならない程度の音でも非常に苦痛を感じたり、触覚過敏では肌触りがとても気になってしまい、着るものが極端に限られたりします。

「聴覚過敏の場合、赤ちゃんの泣き声にどうしても不快感がつのり、メンタルが削られていくようになる人も一定数います。

そこで、工事現場で使われるような防音性の高いイヤーマフを着けるのは、ASDママたちの間では有名な“ライフハック”です。

大きな音が遮断されるわりに、赤ちゃんの泣き声が完全に聞こえなくなるわけではないのも安心できます。絶妙に衝撃を減らしてくれる、必須アイテムです」(豆の時間さん)

【対策B:子どもとのスキンシップ、特に突然のハグが苦手】

子どもと自分の間に手袋や毛布を1枚挟む

触覚過敏を持つ人の中で深刻なのは、子どもとのスキンシップです。

「赤ちゃん独特の湿った手を気持ち悪く感じてしまったり、子どもが突然ハグしてきたりすることに強い抵抗感を持つ人は、実は少なくありません」(沢口さん)

こうしたストレスには、次の方法が役立ったと言います。

「手袋をはめたり毛布を挟んだりして、子どもと直に接触しなくて済むようにします。

こうすれば比較的、気持ちよくハグができるから。また、想定外にハグされるのは辛いけれど自分にとって都合のいいタイミングで抱きしめるなら大丈夫だった、という人もいました。

なかには、『最初の2~3年は気持ち悪かったけど、第2子、第3子と生まれてきたらだんだん慣れていった』という方もおられましたよ」(沢口さん)

【対策C:先の見通しが立たないことがストレス】

発達障害を持つ先輩ママの体験談を聞く

感覚過敏のストレスを抱えるママたちが口をそろえて言うのは、「誰にも言えなかったという苦しさ」だと沢口さんは続けます。

「『感覚過敏のため授乳のときに乳首を吸われる感触が嫌だった』『子どもに突然ハグされるがつらかった』といった本音を口に出すことが、世間一般的に、いかに批判の目にさらされるか、発達ママたちはじゅうぶん分かっています。

たぶんこう感じるのは自分だけで、他の人には理解不能な感覚なのだろう、とも。だからこそ、ママ会で共感の声が出たとき、大きな安心感があったそうです。辛い思いをしていたのは私だけじゃなかったんだ、と」(沢口さん)

分かってくれる人が他にもいる。それだけでも気持ちはラクになるもの。当事者だった、豆の時間さん(仮名)もこう続けます。

「ASDタイプは、先の見通しが立たないことへのストレスがとても大きい。それだけに、『数年経てば、子どもへの感覚過敏にもいつか慣れる』という発達ママからの実体験の声は大きな救いになりました」(豆の時間さん)

自分が発達障害だからこそ子どもの気持ちが分かる

このように、発達ママは自分のことでも大変なのに、子育てで想像以上に苦労しています。でも、2022年に1児を授かった豆の時間さんは、「発達ママならではの良さもある」とも言います。

「正直、自分が発達障害で幸せ、とは言いきれません。ですが、発達障害だったからこそ、子どもの気持ちが分かる面があります。それは子育てにおいて大きなメリットです」

豆の時間さんは続けます。

「子ども自身が発達障害でもそうでなくても、子どもの気持ちを察して、できないことがあっても怒らないでいられるのは、発達障害で長年、苦しんできた発達ママたちの最大の強み。

例えば子どもが食事をスプーンで食べてくれなかったら、『もしかしたら触覚過敏で、ステンレスのひやっとした感触が嫌なのかな』と考え、原因を取り除くほうに思考が向きやすい。

『なんでスプーンを使わないの!』と怒ったり、できるまで必死でやらせたりはしない親が多いなと感じています。

それは発達ママには、多くの人にありがちな“当たり前にできる基準”や“みんなができるなら我が子もできるはず”という思い込みが少ないからだと思うのです。

これは『みんなと同じようにはできないことがある』という発達ママ自身の人生経験があるから。これは子育てで大きなプラスになるのではないでしょうか」(豆の時間さん)

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