近年、大人の発達障害が注目されています。中でもADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)の特性がある女性は、仕事やコミュニケーションに加え、育児でもつまずきやすく、悩みがち。
前回(#1)では、発達障害がある母親は子育てでどんな困りごとを抱えているか、1997年から発達障害の母子を診療してきた精神科医の司馬理英子さんに伺いました。
司馬先生によると、発達障害の女性で、子育てに苦労している人はとても多いのです。今回は、特性に応じた対策を解説してもらいます。
※全4回(#1を読む)
司馬理英子(しば・りえこ)PROFILE
司馬クリニック院長。精神科医。医学博士。1983年渡米し、アメリカで4人の子どもを育てる傍ら、ADHDについて研鑽を深める。97年、東京都武蔵野市に発達障害専門のクリニック「司馬クリニック」を開院。大人の女性と子ども男女の治療を行っている。著書多数。
発達障害ママの困りごと例7
私のクリニックでは、発達障害を持つ女性と、高校生までの子どもを診察しています。
発達障害にはASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)などが挙げられますが、その特性は個人によって実にさまざまです。大人も子どもも十人十色。
そのため、これからお話しする対策も、同じASDやADHDのタイプの人でもうまくいく人もいれば、うまくいかない人もいるでしょう。
そのことを大前提に、もし参考にできそうならヒントにするくらいの気持ちで、読み進めていただければと思います。
まず、ASDやADHDの母親が抱える困りごとの一例として、下記が挙げられます。それぞれの対策を、順を追ってお話しします。
【発達障害ママの困りごとの一例】
1:子どもにルーティーンを崩されることがストレス
2:学校のプリントや忘れ物のチェックができない
3:子どもの話を集中して聞くことができない
4:あちこち気が散り、一つのことに集中できない
5:決まった時間に宿題をさせるなど、子どもに習慣づけが難しい
6:誰かに相談したり助けを求めたりすることが苦手
7:「適当にやればいい」「手を抜くことも大事」といったあいまいな指示、アドバイスに苦しむ
【困りごと1:子どもにルーティーンを崩されることがストレス】
【対策1】ルーティーンを崩す生きものだと認識する
ASDタイプの中には、朝から晩までみっちりと家事育児の段取りを決めていて、そのとおりに進めないとストレスを感じる人がいます。
そして、ルーティーンを崩されたらイライラ。そのストレスを軽減するには、子どもはルーティーンを崩す生きものだという認識をしっかり持つこと。
そして予定を詰め込みすぎず、イレギュラーな対応をする時間も1日の中に多めに組み入れておくと、想定外の出来事にもおおらかに構えられるかもしれません。
【困りごと2:学校のプリントや忘れ物のチェックができない】
【対策2】忘れがちな提出物はタスクの優先順位を高めに
ADHDタイプは先延ばし癖があったりうっかりしがち。気づいたら締め切りまでに提出物が間に合わなかった、子どもが持ち帰ったプリントに目を通していなかった、ということが多々あります。
記入して提出するプリントを見つけたら、すぐその場で書いてランドセルに戻すくらいにタスクにおけるプライオリティ(優先順位)を上げるといいでしょう。
【困りごと3:子どもの話を集中して聞くことができない】
【対策3】子どもとのおしゃべり時間を決めておく
子どもの話は、できるだけ聞いてあげてほしいと思います。とはいえ、子どもの話が延々と続き、集中力が持続しないというADHDタイプは多いでしょう。
子どもの話がとても長いケースも考えられます。対策としては、子どもの話を集中して聞ける時間を10分なり15分なり決めて、時間の区切りをつけておくこと。
「じゃあ15分だけ聞くね」と前置きしてから聞くと子どもも納得してくれるかもしれません。区切りのつけ方として、タイマーを活用する、「この曲が終わるまでね」とCDをかけるのも手です。
【困りごと4:あちこち気が散り、一つのことに集中できない】
【対策4】同時進行する作業の数を決める
子どものおしゃべりを聞きながら調理する、提出物を記入しながら子どもの話を聞き、その最中に飛んできたLINEに返信し、さらに他のきょうだいに注意をする──こうしたマルチタスクをミスなく行うことは、ADHDタイプは特に難しい。
「作業はここまでにしよう」とキリよくストップすることも苦手な人は多いです。でも、ミスを防ぐためには、ある程度の割り切りが必要なのです。
中には同時に10枚のお皿を回しているような人もいますが、危険ですよね。せめて、同時にやることは2つか3つまでなど、自分が無理なく回せる範囲を決めておきましょう。