男児の性被害 30年経っても癒えない・被害者が加害者に「残酷すぎる後遺症」
専門医・山田浩史医師に聞く 男児の性被害#2「相談・診察の現場と心身への影響」
2023.08.29
「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」副センター長、泌尿器科医:山田 浩史
子どもにとって、もっとも安心・安全であるはずの家庭内で生じる性暴力もあります。これもまた心に深い傷を負わせ、のちにさまざまな症状として表れます。
「親から性暴力を受けている場合、表沙汰にすることで、家庭生活が崩れてしまうのでは……、自分さえ我慢すれば……と考え、耐え忍んでいる子どももいます。
また、自分が親の言うことを聞きさえすれば親がよろこんでくれるから『自分はいいことをしている』と思っている、だけどその一方で嫌悪感も抱いているという子も。性被害者である子どもの感情はとても複雑です。
あとからそれが性暴力だと分かり、加害者である父親への信頼が崩れ、男性という自分の性自体をも受け入れることが難しくなってしまった方もいます。自分の性を他人に向けることへの罪悪感から、恋愛もできなくなってしまいました」(山田先生)
また、「被害者が男児の場合は、のちに加害者になるケースも少なくない」(山田先生)という指摘も気になる点です。前回(#1)も、加害側の男児が、実は過去に性被害を受けていたという事件を聞きました。
「性暴力を受けたことで性的な発育に悪影響を及ぼすのか、性への概念がゆがんでしまうのか、自分がされたことを人にしているという感覚なのか。“加害の陰に被害あり”で、男性(男児)の加害者のうち数割は幼少期に被害にあっています」(山田先生)
被害者と加害者を引き離して終わりという安易な解決ではなく、「両者の未来を守るために、両者がきちんとケアを受けられるような仕組みが必要」と、山田先生は、これからの国のサポートのあり方の重要性を説きます。
相談や支援は遅いということはない
子どもの被害に気づいたら、ワンストップ支援センターに相談することが大切です。
ワンストップ支援センターは、基本的には、被害にあってからおおむね1~2週間の急性期の被害者に特化していますが、「なごみ」で相談を受けた男性被害者の最年長は50代。30年ほど前の被害についての相談でした。
実際、どれくらいのタイミングで相談が寄せられるかというと、来所して、その後のサポートにつながった男性被害者27人のうち、被害から3日以内の相談が6件、1週間以内が2件、1ヵ月以内が7件、半年以内が5件、1年以内が1件、9年以内が5件、10年以上前が1件です。
「心理的なサポートはできるだけ早く受けたほうがいいですが、遅いということもありません。この数字からも分かるように、わりと時間が経ってからの相談も多いのです。どんなに昔のことでも大丈夫です。困っていることがあれば、できる限り力になるので相談してください」(山田先生)
もし、わが子が性被害にあったら──。
親としては想像もしたくないことですが、そうした場合に行われる診察内容や、その後に起こり得る心身の症状、また、適切な支援はどこで受けられるかなどについて知っておくことは、子どもを守るために必要なことではないでしょうか。
次回は、子どもの性被害を見逃さないための見守りのポイントや、性被害を打ち明けられたら親はどうすればいいのか、引き続き山田浩史先生に伺います。
取材・文/稲葉美映子
稲葉 美映子
フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。
フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。
山田 浩史
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院泌尿器科副部長。泌尿器科医。医学博士。「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」副センター長。 福島県立医科大学医学部卒業後、日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院、名古屋大学医学部附属病院を経て現職。2011年3月11日の東日本大震災で救護活動を経験したことで人道支援に目覚め、愛知DMAT(災害派遣医療チーム)、日赤DMAT、病院の国際医療救援部に加入。「なごみ」では、性暴力にあった男性(男児)の診察に当たる。 さまざまな学会で発表及び各種団体より依頼を受け講演をするなど、男性(男児)の性暴力被害への対応についてその重要性を訴え続けている。 ●性暴力救援センター日赤なごや なごみ
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院泌尿器科副部長。泌尿器科医。医学博士。「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」副センター長。 福島県立医科大学医学部卒業後、日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院、名古屋大学医学部附属病院を経て現職。2011年3月11日の東日本大震災で救護活動を経験したことで人道支援に目覚め、愛知DMAT(災害派遣医療チーム)、日赤DMAT、病院の国際医療救援部に加入。「なごみ」では、性暴力にあった男性(男児)の診察に当たる。 さまざまな学会で発表及び各種団体より依頼を受け講演をするなど、男性(男児)の性暴力被害への対応についてその重要性を訴え続けている。 ●性暴力救援センター日赤なごや なごみ