男児の性被害 30年経っても癒えない・被害者が加害者に「残酷すぎる後遺症」

専門医・山田浩史医師に聞く 男児の性被害#2「相談・診察の現場と心身への影響」

「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」副センター長、泌尿器科医:山田 浩史

性暴力は、その後の人生に大きな影響を及ぼすと言われている。  写真:アフロ

内閣府の調査(※1)によると、被害者のおよそ7割が誰にも相談していないとわかった男性(男児)の性被害。

幼すぎると性被害にあったと認識できないケースがあり、思春期の中高生ごろになると、親に言い出しにくい傾向もあることから、男児(0~17歳の未成年)の性被害の実態はまだよく知られていません。

しかし、「気づかれにくいだけで、性暴力は日常的に起こっている」と、「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」(以下、なごみ)で、男性被害者の診察に当たる山田浩史先生は話します。

前回(#1)は、未成年男児が受けた実際の被害例や、相談先について取り上げました。今回は、相談や診察の現場で行われていること、また、子どものころに受けた性被害がその後の心と体に及ぼす影響について、引き続き、山田浩史先生に伺いました。

※1=「男女共同参画白書 令和4年度版」

※2回目/全3回(#1を読む

山田浩史(やまだひろし)PROFILE
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院泌尿器科副部長。泌尿器科医。医学博士。「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」副センター長。「なごみ」では、性暴力にあった男性(男児)の診察に当たる。

「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」副センター長の山田浩史先生。
Zoom取材にて

診察の現場で行われていることとは?

日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院内にある「なごみ」は、性犯罪・性暴力被害者に対して、被害直後から、医師による心身の治療や、相談・カウンセリング等の心理面、捜査関連、法的支援や、被害後の居場所などの総合的な支援を、可能な限り1ヵ所で提供する「ワンストップ支援センター」です。

ワンストップ支援センターは、各都道府県に1ヵ所以上配置されています。

性被害にあった際の相談先

■性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(最寄りのセンターにつながります)
#8891(はやくワンストップ)

■性犯罪被害相談電話(最寄りの都道府県警察につながります)
#8103(ハートさん)

■性暴力に関するSNS、メール、チャット相談「Cure time」

「なごみ」では、24時間365日体制で電話相談を受け付けています。

電話が入ると、性暴力被害者支援看護師(通称SANE:セイン)や、性暴力被害者支援の養成プログラムを学んだ支援員(アドボケーター)、医療ソーシャルワーカー(MSW)が対応。被害者の状態によって、精神科や心療内科、産婦人科、児童相談所などへつなぎ、警察や弁護士への被害申告や相談を希望すれば、同行支援なども行っています。

電話対応をする支援員。心と体の回復に向けてどのような支援が必要かを考え、寄り添い、総合的にサポートする。  写真提供:「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」

ここで、何らかの医療的な処置が必要と判断された男性(男児)被害者に対応しているのが、泌尿器科の山田浩史先生です。

「まずは全身をくまなくチェックし、肛門性交があったり、肛門に異物を入れられていた場合は、診察台に乗っていただいて肛門に傷がないかを確認します。お尻に歯形がついていたときは、被害の証拠として写真を撮影しました。

ただ、肛門の傷は1~2週間もすれば自然と治ってしまうもの。できれば被害直後に、入浴も着替えもせずに、着の身着のままの状態で来所してほしいです。

とはいえ、わが子が被害にあったと知ったときの親は誰もが動揺します。すぐに必要な行動をとることは難しいですよね。ただ、体や衣類には加害者の精液などが付いている可能性もあり、それらが捜査や裁判のときに重要な証拠になる。このことは知っておいてほしいです」(山田先生)

山田先生は、ていねいに診察をしたあとで、「あなたの身体はどこも悪くない。今までどおり生活をして大丈夫だよ」と被害者に声をかけます。

「とくに子どもが性被害にあった場合、『自分の体がどうかなってしまったのではないか』『自分は汚いのではないか』などと思い込んでしまう場合が多いため、体に問題がないことを医師が伝えることで、『少しでも安心を与えることができれば』と考えています」(山田先生)

これらは町の泌尿器科でも診てもらうことができるのでしょうか。

「性病の検査はできますが、実際は何をしてあげていいのか分からない医師が多いと思います。男性の性被害への対応については、国としてもこれから動き始めるところなので、まだマニュアルがないんです。

警察へ直接行ってもいいかもしれませんが、警察から『なごみ』へ連れてこられる方も多いので、やはり、まずはワンストップ支援センター(#8891)に連絡をしていただくのが一番だと思います」(山田先生)

被害を受けた子どもたちの心の傷を最小限にするためにも、親は、いざというときの連絡先を知っておくことが大切です。

性被害だと分かりPTSDに苦しむ…

恐怖や戦慄の衝撃にさらされる性被害の体験は、子どもの心と体に大きな影響を与えることは想像に難くありません。

「精神科の専門医ではないので、経験上の話です」と前置きしたうえで、山田先生は話します。

「幼い子どもは、まだ自我が形成されていないことなどから、自分が何をされているのか分からないことも多いのですが、何らかのかたちで影響が残ると考えています。

のちに自分がされたことの意味が分かり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になるケースは多いです。そのことが何度も思い出され、『自分は汚れている』といった感情や、不安、恐怖心が続くような状態となり、引きこもりになってしまったり……。

10代のころは性被害の記憶に蓋をしていたけれど、結婚後、子どもと入浴中に突然フラッシュバックに襲われた方もいました。彼はそれ以降、男性に恐怖心をもち、地下鉄やタクシーに乗れないなど社会生活に支障をきたすような状態になってしまいました」(山田先生)

引き出しの中には、これまで、「なごみ」に相談が寄せられた被害者の記録が並ぶ。  写真提供:「性暴力救援センター日赤なごや なごみ」
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