子どもの「スマホ依存・ゲーム依存・ネット依存」 小5息子の依存で自信を失ったママパパの「回復策」
公認心理師・スクールカウンセラーが語る 子どものスマホ依存 #3 長く続く治療を親子で乗り越えるために
2024.01.18
公認心理師:中井 ようこ
「病院受診はゴールではない」
最初の相談から数ヵ月後、6年生になったA君の両親は再びカウンセリングに訪れました。
A君は学校でのカウンセリングを嫌がったため、自治体の教育相談に行くようになり、病院受診をすすめられました。
スクールカウンセラー:その後のA君の様子はいかがですか?
A君ママ:特に大きくは変わっていないのですが、先月初めての病院受診をしました。予約をしてから半年待ちで、その間に心が折れそうでしたが、なんとか受診できてホッとしています。
A君パパ:医師からスマホ依存は治るのに時間がかかると聞きました。病院に行けば治る、状況が変わると思い込んでいたので……。私も妻もかなりショックを受けています。
A君ママ:息子は相変わらず学校には行けないし、自宅に引きこもりの状態です。友達とはスマホでつながっているようで安心していますが……。
息子をこんな状態にしたのもスマホだけど、外とのつながりをつくっているのもスマホなんですよね。頭の中がすごく混乱していて「これからこの子はどうなってしまうんだろう」という不安でいっぱいです。(涙が頰をつたう)
スクールカウンセラー:話してくださってありがとうございます。つらい気持ちはどこかで吐き出さないと、体や心に悪い影響をおよぼしてしまいます。よかったらご両親だけでもこちらに通ってください。何かお力になれるかもしれません。
「人とのつながり」を通して見つけた解決へのヒント
A君の両親はその後、1ヵ月に1回のペースでカウンセリングに訪れました。病院の医師にも相談を続けており、A君との関わり方やスマホ依存の知識を学ぶ中で、考え方に変化があったようでした。
A君パパ:息子に聞いてみたんです。「何か悩みがあるのか?」と。そのときは何も返ってきませんでしたが、別の日に、「お父さんも気持ちが沈んでいたとき、現実逃避がしたくてパチンコばかり行っていたな」と話しかけてみたんです。
すると、息子の表情が少し変わって、久しぶりに他愛もない会話ができました。息子の悩みは今も分かりませんが、きっと何かあるんだろうなと感じています。
スクールカウンセラー:息子さんとのコミュニケーションができてきましたね。パパは何か心境の変化があったのですか?
A君パパ:はい。病院から紹介された「家族会」でヒントをもらいました。スマホ依存や、ゲーム依存の子どもを持つ親の会ですが、同じ境遇の方と話すうちに子どもと、もっとかかわることが大切だと気づいたんです。
そこで、息子とつながるにはどうすればよいか、考えるようになりました。
スクールカウンセラー:それはよかったです。ママのほうはどうですか?
A君ママ:息子は病院やデイケアを嫌がりはしませんが、積極的に行こうとはしなくて。医師や心理師からは「焦らずに。見守りながら、できたことを認めましょう」と言われています。
以前だったら「うまくいかないことばかり。もう逃げ出したい!」という気持ちでいっぱいだったと思います。でも今は、この相談室でも自分の気持ちを話せますし、病院や家族会の人たちも助けてくださる。
まわりから見たら何も変わっていないのかもしれませんが、もし話せる場所がなかったら、皆さんとつながっていなかったら……、きっと前には進めなかったと思います。
スクールカウンセラー:少しずつ親子関係にも変化があらわれていますね。
A君パパ:そうなんです。今度、息子と一緒に町内のお祭りを手伝うんですよ。息子の友達も参加するから、「それなら行こうかな」と言ってくれて。当日になったらどうなるか分かりませんが。
でも、こんなふうに息子のことを誰かに話せるようになったのは、すごく大きな進歩です。
スクールカウンセラー:そうですね。本当に頑張っていらっしゃると思います。息子さんが元気になると信じて、少しずつでも前に進んでいきましょう。
A君のご両親は、現在でもA君に合ったスマホ依存の治療方法を模索し続けています。病院受診をきっかけに、いろいろな人のアドバイスを受けたことで、確実に親子の距離は近くなっていると感じました。
いつかきっと、A君は両親に本当の悩みを打ち明けてくれるでしょう。A君との心の距離に悩むご両親を、さまざまな人とのつながりと支援で変化が訪れたと気づかされたケースでした。
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「病院に行けばスマホ依存が治ると思っていたのに」やっとの思いでたどり着いた病院受診が、ゴールではなく治療のスタートだと知ったとき、絶望感に打ちのめされるママパパは少なくありません。「いつになったら治るのか」明るい未来を想像できず、つらさを抱える親子たち。そんな思いを受け止めるのが、病院や学校、自治体、家族会などの機関です。
公認心理師として言えるのは、苦しいときほど、人とつながってください、ということ。人とのつながりが、子どものスマホ依存を乗り越えるための力となってくれるでしょう。
監修・文/中井ようこ
子どものスマホ依存記事は全3回。
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メディペン
医療ライターズ事務所。 看護師、管理栄養士、薬剤師など、有医資格者のライターが在籍。 エビデンスに基づいた医療記事を得意とするほか、医療×他業種の記事を手掛ける。 産婦人科関連、小児科、皮膚科、医療系セミナーレポートや看護師専門サイトの記事の実績多数。 medipen
医療ライターズ事務所。 看護師、管理栄養士、薬剤師など、有医資格者のライターが在籍。 エビデンスに基づいた医療記事を得意とするほか、医療×他業種の記事を手掛ける。 産婦人科関連、小児科、皮膚科、医療系セミナーレポートや看護師専門サイトの記事の実績多数。 medipen
中井 ようこ
小学校の養護教諭として15年間勤務。退職後は、公認心理師の資格を取得し、スクールカウンセラーとして従事。コロナ禍では800件以上の相談を受けた。アドラー心理学の知識も活かし、子どもや保護者の気持ちに寄り添ったかかわりを大切にしている。
小学校の養護教諭として15年間勤務。退職後は、公認心理師の資格を取得し、スクールカウンセラーとして従事。コロナ禍では800件以上の相談を受けた。アドラー心理学の知識も活かし、子どもや保護者の気持ちに寄り添ったかかわりを大切にしている。