緩和ケアミュニティが子育て支援『ケアタウン小平』が守る子どもの居場所

子どもの居場所 ルポルタージュ #2‐1 東京都『ケアタウン小平』

ジャーナリスト:なかの かおり

りつこさんは臨機応変に、みんなの反応を見て、次から次へとアイデアを出していきます。

「持ってきた氷を隠そうよ」

庭のあちこちに隠して、宝探しです。見つけたときにはすっかり溶けて、中に入れてあったメッセージの紙が出てきました。

それからは、どうしたら氷の中のメッセージ用紙を取り出せるかな? とおのおのが考えて、日向に置いたり、水を張ったたらいに入れたり。

これまで接点がなかった子も、水を張ったたらいで、一緒に氷を溶かすのに没頭し、体験を共有しています。そこに、おばあちゃんと来ていた1歳半の子も加わって、手を入れて水遊び。

日向の排水溝や、マンホールのフタに氷を押しつけると、網目になったり、漢字の形に溶けて見えたり。

氷遊びの途中で、差し入れのメロンシロップを薄めてみんなで乾杯。おかわりが止まらない男の子もいました。

時折、車椅子の高齢者や、ケアするスタッフの姿も見られ、建物の中の入居者と、手を振り合う場面も。こうした、さりげない交流がケアタウンの魅力でもあります。

氷を溶かしたら、メッセージが出てきました!  撮影:なかのかおり

自分が楽しくて参加しているというお父さんも

小学3年生のときから毎月、友達と参加している高学年の女の子は、「ここには、いろんな友達がいるし、楽しい。秋は落ち葉で遊んだり、スポーツをしたり。いつも楽しみにしています」と話してくれました。

あるお父さんは、「自分が楽しくて参加しています」と笑顔。

今は、高齢者やリスクの高い人も多いことから、放課後の開放日は休止していますが、月1回のこども広場は続けています。コロナ禍も工夫し、ほとんど休まずに開いてきました。

氷を持ちよっただけで、いろんな方向に遊びが広がって、あっという間の2時間。終わりが近づき、氷から出てきたメッセージを、りつこさんがトレイの上に出し、発表しました。

みんなが考えたパワーワード!  撮影:なかのかおり

・今日のパワースポットはケアタウン
・元気に遊ぼう
・ハッピーサマーがやってくる
・熱中症に気をつけて
・小さな幸せがあるかも
・おめでとう大吉
・ラッキーなことがあるよ

こんなポジティブワードもあれば、寝たと思ったら起きる赤ちゃんの様子を詠んだ子育て川柳の紹介も。「うちの子だ」「あるあるですね!」と、親同士の自然な会話も生まれます。

りつこさんが怪談のときに使おうと持ってきたトライアングルを、即興で女の子が鳴らしました。りつこさんの読み上げに合わせて、まるで、のど自慢のチャイムのように、良いワードには、チンチン♪と2つ。普通のワードには1つ。

「トライアングルを鳴らしていたのは、ひらめきを持っている子。ここでは、ひらめいたアイデアを行動に移して、人と違うところも認めてもらえます」(りつこさん)

楽しいだけでなく、思い切ってやってみたことを、みんなが肯定してくれる。長く続けてきたスタッフや、ボランティアのママ、パパたちの支えがあるから、親も子も、のびのびできるのでしょう。

最後に、氷はすっかり溶けてしまったけれど、水風船のようになったゴム手袋を、大事に持ち帰る子もいました。あの子は誰に見せたのかな?

筆者も小学生の子を持つ親の1人として、垣根なく受け入れられ、猛暑を忘れて笑顔になる時間が過ごせました。

第2回は、住み慣れた地域で生きて逝く。子育て支援にも取り組む『ケアタウン小平』が目指すコミュニティとはどんな場所なのかを紹介します。

取材・文/なかのかおり

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なかの かおり

ジャーナリスト

早稲田大参加のデザイン研究所招聘研究員。新聞社に20年あまり勤め、独立。現在は主に「コロナ禍の子どもの暮らし」、「3.11後の福島」、「障害者の就労」について取材・研究。39歳で出産、1児の母。 主な著書に、障害者のダンス活動と芸能界の交差を描いたノンフィクション『ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦』、『家庭訪問子育て支援ボランティア・ホームスタートの10年「いっしょにいるよ。」』など。最新書『ルポ 子どもの居場所と学びの変化: 「コロナ休校ショック2020」で見えた私たちに必要なこと』が2022年10月22日発売。 講談社FRaU(フラウ)、Yahoo!ニュース個人、ハフポストなどに寄稿。 Twitter @kaoritanuki

早稲田大参加のデザイン研究所招聘研究員。新聞社に20年あまり勤め、独立。現在は主に「コロナ禍の子どもの暮らし」、「3.11後の福島」、「障害者の就労」について取材・研究。39歳で出産、1児の母。 主な著書に、障害者のダンス活動と芸能界の交差を描いたノンフィクション『ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦』、『家庭訪問子育て支援ボランティア・ホームスタートの10年「いっしょにいるよ。」』など。最新書『ルポ 子どもの居場所と学びの変化: 「コロナ休校ショック2020」で見えた私たちに必要なこと』が2022年10月22日発売。 講談社FRaU(フラウ)、Yahoo!ニュース個人、ハフポストなどに寄稿。 Twitter @kaoritanuki