【子どもの咳】ホームケア新常識「咳止め薬で早く止める」は本当? 薬よりも大事な“つらい咳”の対処法〔医師が解説〕

令和の「子どもホームケア」#5~子どもの咳~

小児科専門医:森戸 やすみ

咳は異物を外に出す体の防御反応

空気が冷たく、乾燥する時期になると増える咳の症状。子どもが咳をしていると、心配になって「咳止め薬を飲ませなきゃ」と思うママパパも多いのではないでしょうか。咳がひどくてつらそうなとき、この対処法は正しいのか、森戸やすみ先生に聞きました。
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秋から冬にかけては、咳で小児科を受診するお子さんが増える時期です。

そもそも咳は、気道に侵入したウイルスや細菌、ほこり、煙などの異物を体の外へ追い出すための反射によって出ます。気道とは、鼻、のど、気管、気管支といった肺へ続く空気の通り道のこと。気道には咳の受容体があり、異物が侵入すると咳受容体が刺激されて自然と咳が出るのです。自分の体を守るための防御反応なのですね。

気道の表面は、線毛(せんもう)と呼ばれる細かな毛の生えた粘膜で覆われていて、ウイルスや細菌などの病原体が侵入すると分泌物を増やし、痰として排出する働きがあります。痰がからんだ咳が出るのは、気道に溜まった痰を外へ出すため。気道が炎症を起こしているときにも、分泌物が増えて咳が出ます。

こうした咳の症状をしずめるために鎮咳薬(ちんがいやく)、いわゆる咳止め薬があるのですが、実は風邪などのときにはあまり有効とは言えません。異物や痰を外へ出す必要があって咳が出ているときには、薬で無理やり抑えるのは難しいのでしょう。

特に子どもの場合、鎮咳薬でピタッと咳が止まるケースはごくまれです。そのうえ眠くなることがあり、薬の影響で眠いだけなのか、体調が悪いのかの見分けもつきにくくなることがあります。

子どもの咳の原因は多くが風邪、咽頭炎、気管支炎です。最近のある研究によると、それらが原因の場合、激しい咳が続くのは2日程度だと言われています。2日を過ぎたら咳がだいぶ落ち着き、食欲があって夜も眠れているようなら、鎮咳薬を飲む必要はないでしょう。

また、よく保護者の方から「咳止めのテープをください」と言われることがあります。正式には気管支拡張薬というテープ状の薬で、夜、眠れないほどの咳が出るとき、寝る前に胸や背中に貼って使用します。

気管支喘息、急性・慢性気管支炎、肺気腫で、気道が狭くなったことによる呼吸困難などの症状がある際に使うものです。ただし、咳そのものを止める効果はないと知っておくといいですね。

大事なのは鼻水や痰を取り除くこと

咳の対処法として有効なのは、何より鼻水や痰を取ること。鎮咳薬を飲むよりも効果があると思います。

鼻水が出るとすするお子さんがいますが、のどのほうへそのまま流れ込んでしまうと咳が長引きます。鼻とのどはつながっていますから、鼻水を取ることはのどの治療にもなるのですね。

自分で鼻をかめる子にはこまめに鼻をかませ、かめない子には市販の鼻吸い器がおすすめです。鼻吸い器は吸引力の強い電動から手軽な手動、おでかけに便利な携帯用までさまざまなタイプがありますから、状況に応じて使い分けるといいですね。

痰の除去には、うがいをしましょう。痰が切りやすくなりますし、喉が加湿されて咳も落ち着きます。

また、咳をしずめるにはハチミツが有効だという論文があります。寝る30分前に5グラム、スプーン1杯程度のハチミツを与えたところ、抗ヒスタミン薬や鎮咳薬などの処方薬を飲ませるより、咳の頻度や重症度が改善されたそうです。1歳未満のハチミツを摂取できないお子さんには、水飴でもいいでしょう。

住環境では、乾燥に注意しましょう。空気が乾燥する時期は、加湿器の使用や濡れタオルを干すなどして部屋を加湿すると、のどによく、咳の原因となるほこりやハウスダスト、ペットの毛などが舞い上がるのも防ぎます。

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