奄美大島「児童養護施設」での性教育 医師が子どもたちへ「将来の夢」を聞いたその理由

児童養護施設の性教育 #2

産婦人科医:小徳 羅漢

純粋な子どもが社会で傷つかないための「性教育」

──子どもたちの反応はどうでしたか?

小徳先生:どの子も、本当に真剣に話を聞いてくれて、とてもピュアな心を持っていることが伝わってきました。本音を言えば、「もっと反抗的な態度を取られるかもしれない」と心配していたのです。

思春期の少年・少女たちですから、大人に対して反抗的になっても不思議はありません。しかし、実際にはまったく心配は不要でした。

同時に「このように純粋な子どもたちだからこそ、何も知らないままで社会に出て傷つくようなことがあってはいけない」とも強く思いました。彼ら、彼女らが身を守るためにも、性に関する話題を避けることなく、もっとオープンに話していくことが必要なのです。

また、女性職員からは「性の話をこんなにフラットに話していいんだとわかりました」などと言ってもらうことができました。やはり女性同士であっても、なかなか性のことは話しにくいのだと改めて感じました。

写真:maruco/イメージマート

傷つけない伝え方を考え「一人反省会」も

──やっぱり、性教育はすべての子どもたちに必要なことなのですね。

小徳先生:はい。ただ一方で、自分の伝え方が本当に適切だったかどうか、毎回、授業が終わるたびに「一人反省会」も開いています。

授業中、ふといなくなってしまった生徒がいました。もちろん、授業を受けるのも受けないのも自由ですから、それはまったく構いません。

ただ、児童養護施設にはさまざまな背景を持つ子どもたちが過ごしているので、もしかしたら自分の伝え方で彼女、彼らを傷つけてしまったのかもしれない──。そんなふうに思って、いつも終わると反省会を開くのです。

次なる取り組みは特別養護学校での性教育

──小徳先生の次なる展開も気になります。

小徳先生:実は、特別養護学校からも授業の依頼が来ています。重度の心身障害などを持つ子どもたちに、「何を」「どのように」伝えるかはとても難しい課題ですが、前向きに取り組んでいきたいと思います。

性教育は年齢、性別を問わず、生きていくためにすべての人にとって必要な知識だからです。

──最後にメッセージをお願いします。

小徳先生:今後は現場で性教育に関わる保健体育の先生など、さらに連携の輪を広げていきたいです。そして、奄美大島の取り組みを鹿児島県全体へ、そして全国へと広げていきたいと思っています。

そうすることで、悲しい思いをするママやパパ、子どもたちを一人でも減らすことができればと願っています。

──◆──◆──

「すべての子どもたちが自分を大切にできるようになるために」。離島で奮闘を続ける小徳先生。小徳先生の挑戦が、奄美大島からやがては全国へ広がることを願ってやみません。

小徳先生の夢が叶うその日まで、私たちもずっと応援し続けたいと思っています。

取材・文/横井かずえ

小徳羅漢先生の児童養護施設への性教育記事は全2回。
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ことく らかん

小徳 羅漢

Kotoku Rakan
産婦人科医・総合診療医

産婦人科専門医・総合診療医。 1991年、茨城県生まれ。小学校高学年から神奈川県で暮らす。2016年、東京医科歯科大学(現・東京科学大学)卒業後、鹿児島市医師会病院で初期臨床研修。2018年は長崎県上五島病院、2019年には離島へき地医療の最先端といわれるオーストラリア・クイーンズランド州で研修。 2020年から鹿児島県立大島病院に勤務。2025年4月から1年間、「みんなの診療所」に週4日、県立大島病院に週1日勤務。総合診療専門医を目指す。 病院勤務以外に、街中で医師らに無料相談ができる「暮らしの保健室」を開催。 2018年に結婚、2020年に夫婦で鹿児島県奄美市に移住。2児の父。趣味は温泉巡りと映画鑑賞、そして島巡り。 @rakankotoku

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産婦人科専門医・総合診療医。 1991年、茨城県生まれ。小学校高学年から神奈川県で暮らす。2016年、東京医科歯科大学(現・東京科学大学)卒業後、鹿児島市医師会病院で初期臨床研修。2018年は長崎県上五島病院、2019年には離島へき地医療の最先端といわれるオーストラリア・クイーンズランド州で研修。 2020年から鹿児島県立大島病院に勤務。2025年4月から1年間、「みんなの診療所」に週4日、県立大島病院に週1日勤務。総合診療専門医を目指す。 病院勤務以外に、街中で医師らに無料相談ができる「暮らしの保健室」を開催。 2018年に結婚、2020年に夫婦で鹿児島県奄美市に移住。2児の父。趣味は温泉巡りと映画鑑賞、そして島巡り。 @rakankotoku

よこい かずえ

横井 かずえ

Kazue Yokoi
医療ライター

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2