【子どもの目 誤解と新常識】「わが子の視力が悪いのは遺伝だから仕方ない」◯か✕か?

【子どもの近視予防】◯✕クイズ #1~近視の遺伝~

眼科医、医学博士、窪田製薬ホールディングスCEO:窪田 良

答えは✕! 「体質」はあるが「環境」が重要!

父親も母親も目が悪いから、「うちの子も、目が悪くなる(なってしまった)のは仕方ない」と考えている方は少なくありません。

近視を発症する子どもの多くは、眼の成長期でもある6~12歳ごろから症状が出始めます。そして成長期の終わる14~18歳ごろには、進行が止まるとされています。学年でいうと、小学校低学年から高校生の終わりくらいまでです。

たいていは年に1度行われる学校の健康診断などで視力低下が指摘され、子どもの近視の進行に気がつきます。そこで「私たちも目が悪いから、ついに来たか」などとあきらめてしまう保護者もいるのではないでしょうか。

しかし、それは間違っています。

人間の身体に起こるさまざまな変化や病気の原因には、【環境によるもの】と【遺伝によるもの】、ふたつの要素があります。そして、それらがからみ合って起こることも、もちろんあります。

近視に関係する遺伝子は200以上発見されており、確かに、近視になりやすい「体質」というものは存在します。しかし、実際に近視を発症するのは、遺伝的要素よりも、環境的要素によるものが大きいと考えられているのです。

近視を引き起こす環境的要素とは、「近見(きんけん)」作業です。近代の人間は、遠くを見ずに近くを見る近見作業が多いライフスタイルに大きく変化しました。これが近視を増加し続ける大きな原因なのです。

「近視は遺伝」に裏付けはない

近視になる原因が遺伝的要素より環境的要素が大きいという理由を説明しましょう。

近視が急激に増えてきているのは、50~60年前からと言われています。近視が遺伝的な要因であるならそんな短いスパンで起こり得るはずがなく、50万年、100万年単位で起こるもの。近視の原因そのものが遺伝子によるという科学的なエビデンスはなく、説明不可能なのです。

また、「環境」が視力と密接に関係している証拠として、アフリカのマサイ族や、オーストラリア大陸のアボリジニなど、大自然の中で暮らす人たちは、視力が良く、近視が少ないことで知られています。彼らの大自然の中で遠くを見る生活が近視抑制につながっている可能性が大いにあります。

しかし、彼らが自分の子どもたちを都会の学校に通わせ、室内で勉強ばかりさせるようになったら、子どもの近視はグッと増えることが報告されています。

逆に、もし都会で生活していた家族がサバンナに引っ越しをして、広大な自然の中で原始的な生活を送りながら子どもを育てたとしたら、次の世代では近視が減ることでしょう。

メガネの子はメガネ……とあきらめない!

ではなぜ、まことしやかに「親の目が悪いと、子どもも目が悪くなる」なんてことが言い伝えられてきたのでしょうか。それはずばり、親子はライフスタイルが似ているから。

太っている親の子どもは、同じように太っていることがありますよね。これは太りやすい体質もありますが、カロリー高めの食生活や、運動が少ないなどの生活習慣による側面も大きいです。

これは【ライフスタイル=環境が同じ】ということ。太りやすい体質でも本気でカロリー制限に取り組めば多くは太らずにすみますよね。それは近視も同じ。やはり遺伝より環境なのです。

さて、ここからが大事なところ。近視の原因は遺伝より環境ですから、環境を改善すれば、予防することができます。さらに、気づいた段階で進行を抑制する措置も取れるのです。どんなに遅くても、対処しないよりはマシ。

「遺伝だから目が悪くなるのは当たり前」という迷信を、今すぐ手放しましょう! 次回は現代の「近視を進行させる悪環境」についてお話しします。

─・─・─・─・

取材・文/遠藤るりこ

「近視は治療が必要な『病気』である」という認識が、世界的に高まってきています。目に関するリテラシーを上げることが、今まさに必要。眼科医で創薬や医療デバイスの研究開発を行う窪田良先生が目について「役立つ」、「世界基準の」情報を伝える一冊『近視は病気です』(東洋経済新報社刊)。
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※1=令和4年度学校保健統計

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くぼた りょう

窪田 良

Ryo Kubota
眼科医、医学博士、窪田製薬ホールディングスCEO

慶應義塾大学医学部卒業。同大学大学院在学中に緑内障原因遺伝子「ミオシリン」を発見、「須田賞」受賞。 虎の門病院勤務を経て、2000年から米国に拠点を移し、ワシントン大学医学部眼科学教室助教授就任。2002年に創薬ベンチャー・アキュセラ、2016年に窪田製薬ホールディングスを上場。 「世界から失明を撲滅する」ことをミッションに掲げ、眼疾患に関する研究開発を行う。近著に、『近視は病気です』(東洋経済新報社刊)。 ・窪田製薬ホールディングスHP ・クボタグラスHP

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慶應義塾大学医学部卒業。同大学大学院在学中に緑内障原因遺伝子「ミオシリン」を発見、「須田賞」受賞。 虎の門病院勤務を経て、2000年から米国に拠点を移し、ワシントン大学医学部眼科学教室助教授就任。2002年に創薬ベンチャー・アキュセラ、2016年に窪田製薬ホールディングスを上場。 「世界から失明を撲滅する」ことをミッションに掲げ、眼疾患に関する研究開発を行う。近著に、『近視は病気です』(東洋経済新報社刊)。 ・窪田製薬ホールディングスHP ・クボタグラスHP

えんどう るりこ

遠藤 るりこ

ライター

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe

ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe