2男児ママが民間学童保育施設「こどもリビング」に学ぶ子どもの自由と規律の両立

#1 モンテッソーリ保育園を営むオーナーとスタッフに聞いた実践的な方法を紹介

コクリコサポートエディターズ:笹川 かおり

写真:こどもリビング

​​9歳と3歳の男の子きょうだいを育てているエニママのライター・笹川かおりです。自然豊かな東京都の多摩エリアで、のんびりと子育てを楽しんでいます。

今回は、長男が通う民間学童保育施設「こどもリビング」のオーナー・田中鉄太郎(たなか てつたろう)さんと、スタッフの二宮蓮夢(にのみや れん)さんにインタビューさせていただきました。

これから全3回にわたって、そのお話の内容をみなさんにお伝えしたいと思います。第1回のテーマは、「子ども×自由と規律」です。

写真:こどもリビング

9歳の長男が通う「こどもリビング」は、東京都多摩市の民間学童保育施設です。オーナーの田中鉄太郎(たなか てつたろう)さんは同じ東京都多摩市でモンテッソーリ教育を実践する保育園を複数経営しており、ご自身も国際モンテッソーリ教師の資格を持つプロフェッショナル。そのオーナーのもと、こどもリビングのスタッフのみなさんも、モンテッソーリの教えを軸とした子どもへの接しかた・声かけをしてくださいます。

「こどもリビング」には小1~中3の子どもたちが在籍し、放課後から帰宅(※最長19時半まで)まで過ごしています。キッチンで手作りされるおやつや夕食(※事前の申し込みが必要)を食べられるのも、魅力の1つです。

こどもリビングでの過ごしかたは、子どもによってさまざま。室内でカードゲームや読書を楽しむ子どももいれば、宿題に黙々と取り組む子どももいる。屋外での過ごしかたにしても、庭で鬼ごっこをする子どもたちもいれば、こどもリビングの敷地から出て(※スタッフさんの許可が必要)近くの河川敷で野球をする子どもたちもいる……といった具合に、自分の「やりたい」という気持ちに正直に、思い思いに過ごしているのです。

こどもリビングがスタートしたきっかけは、てつさんが経営するモンテッソーリ保育園の保護者たちの「19時以降も子どもを預かってもらえる場所が欲しい」「帰宅後に夕食を準備するのがたいへん」という声。てつさんがその要望を叶えようと、開設に踏み切ったのだそうです。

長男は小さいころから「(ならいごとなどに)通う」ことがあまり得意ではないのですが、こどもリビングには「中3(こどもリビングに通える上限)まで通う」と宣言するほど楽しく通えています。

その理由は「自由でありながら規律が守られている」点にあるのでは? と、母である私はつねづね感じています。そんな場所作りの秘訣を、オーナーの田中鉄太郎さん(以下てつさん)とスタッフの二宮蓮夢さん(以下れん)さんにインタビューしました。

田中鉄太郎(たなか てつたろう)プロフィール
株式会社ウィズチャイルド代表。保育士・国際モンテッソーリ教師・調理師・食育指導士。東京都多摩市で、学童保育とコミュニティカフェの融合施設『こどもリビング』のほか、東京都認証保育所4園、企業主導型保育園1園を経営。野外生活や環境教育、医療や療育といった他業界との連携を模索、多様な大人との関わりによりこどもが豊かに育つ環境保障の実現を目指す。

»プロフィール詳細

写真:こどもリビング

二宮蓮夢(にのみや れん)プロフィール
早稲田大学院人間科学研究科(修士課程)でこども環境・まちづくりを学ぶ。卒業後、株式会社ウィズチャイルドに就職。こどもリビングのコミュニティマネージャーとして、こどもたちが地域と緩やかに繫がりながら成長していくことを目指して多様な活動を展開している。早稲田大学人間科学部eスクール教育コーチとしても活動中。

写真:こどもリビング

自由にのびのびとすごせる「中も外もない」空間

──初めてこどもリビングを訪ねたとき、「空間そのものが魅力的!」と感激したんです。建物のなかも庭も、いたるところが子どもリビングらしく、自由な雰囲気があって居心地がよいなと思いました。

てつさん:

建物を建てるときに、「外だか中だかわからないようなつくりにしてほしい」とお願いしました。開放的で、明確な境界線や区切りがない空間にしたかったんです。

キッチンにも区切りを作らずオープンにして、子どもの出入りOKにしています。

みんなで作って、みんなで食べて、みんなで片付ける……そんなことが実現できる場所でありたいと思って、このような作りにしました。

こどもリビングではこの空間で、子どもたちが学年・性別問わずごちゃまぜになって、自由に好きなことをして過ごしています。

「外の景色が、飾られた絵画のように見えるように」と設置された、てつさんこだわりの開放的な大きな窓。庭の向こうには多摩川がゆったりと流れています。 写真:こどもリビング
こどもリビングが始まった当初からのスタッフ・さとみさんが、できたてのおやつや食事を食べさせてくれます。 画像:こどもリビング

れんさん:
開放的な空間でみんなが一緒に自由に過ごすことはもちろん、とてもいいことなのですが、子ども同士のトラブルが頻発する側面もあるんです。というか、ずっとみんなで同じところにいると、もうケンカしか起きないという状態になってきます(笑)。

──(笑)わかる気がします。

れんさん:
なので、開放感を損ねない程度にゆるやかに、意図をもったエリアわけをしています。たとえば中2階は区切りのない1つの広い空間になっているのですが、そのなかにネイルチップを自作できるコーナーを作ったり、カーテンで仕切れる半個室に近いスペースを設けたり。

そうすることで、ネイルチップのコーナーには高学年の女子が自然と集うし、ちょっと1人になりたかったり、数人でちょっとコソコソしたりしたいときには半個室スペースに行くし……と、自然な形で子どもたちが分散するようになって、余計なトラブルが減りました。

てつさん:
そしておもしろいことに、そうしてエリアをわけて、子どもたちがそれぞれ好きなことをして満たされると、またみんなで集まり始めるんです。まずは自分の欲求を満たさないと、ほかの子を思いやったり、ケンカしてしまったときに素直に謝ったりということができないものなのかもしれません。

──スペースをゆるやかにわける工夫は、自宅のリビングなどにも応用できそうですね! 毎日きょうだいげんかばかりしているので、長男と次男のスペースをそれとなくわけてみようかな……。

中2階に、女子たちがネイルチップを自作して楽しめるスペースを用意。 写真:こどもリビング
室内と庭をつなぐウッドデッキは、開設当時にてつさんが経営するモンテッソーリ保育園に通っていた子どものパパたちが作ってくれたのだそう。 写真:こどもリビング

自分だけが自由にはできない「他人の自由も大切にする」「約束を守る」

──自由で開放的な雰囲気と規律を両立させるために、ほかにスタッフのみなさんが心がけていることや気をつけていることはありますか。

れんさん:
スタッフ一同、こどもリビングの3ヵ条である「人を大切にする」「物を大切にする」「自分の事に責任をもつ」に基づいた声かけを意識しています。

まず最初に子どもたちに伝えるのは、「自分だけが自由にはできないよ」ということです。ほかの人の自由も守る必要があるし、自分勝手と自由は違うんだよ、という話をします。

日常保育でも、「周りの子はどう思ってるかな?」「ほかの人を不快にさせてない?」というように、どうしたらほかの人の自由を守りながら自分たちのやりたいことをできるか、を常に意識してもらえるような声がけをするようにしています。

次のステップとして、スタッフと子どもたちの信頼関係が成り立たないと、ここで自由に過ごすことはできないよ、ということも伝えます。たとえば以前Hくん(筆者の長男)が、スタッフの注意を聞かずにものを乱雑に扱って、結局壊してしまったことがありましたよね。

──卓球ボールを壊してしまった件ですね……!

れんさん:
そうそう。「物を大切にする」が守れなかったんですね。このときHくんには、「これ、壊れちゃったけどどうするの?」「みんなのものだから大切に使ってね、といったよね?」と声をかけて、Hくんの言い分や今後どうするのかについて、自分の言葉で話してもらいました。「自分の事に責任をもつ」ことを学んでもらうために、こういった声かけを意識しています。

Hくんは、「友達とつい調子に乗ってしまった」と弁明しつつも、自分の非を認めてちゃんと謝れたから、私たちも「わかった、次から気をつけてね」と言えたし、Hくんもまた卓球ができるようになりました。

でも、そのときにもし自分の非を認められなかったり、反抗一辺倒の姿勢を貫いたりしていたら、「じゃあここでは卓球は禁止」となってしまったかもしれないんです。

──なるほど。そういう問題が起きたときは、どう決着させるのですか?

れんさん:
信頼関係が成立しなかった、と一方的に決めつけることはせず、「子どもが冷静になるタイミングを見計らって、スタッフと子どもが1対1で話す」ようにしています。

周りに子どもがいると、「俺たちは悪くない!」「そうだそうだ!」というように、悪い意味で結託してしまうことがあるんですね。

そんな感じで、子ども同士の場ではワーっと盛りあがって反発していた子も、いざスタッフと1対1になると、「本当はちょっと悪いと気づいていた」「本当はやりたくなかった」というように、ぽつぽつと本音を話してくれるようになります。

大人と子ども、先生と子ども……という上下関係ではなく、人対人という意識で向き合い、会話することで、信頼関係を築くようにしています。

「大人も子どもも、みんな対等」という信念から、「先生」ではなく名前で呼んでほしいのだと教えてくれたてつさん。夏休みの流しそうめんイベントの時には、てつさん自らそうめんを流してくれる場面も。 写真:こどもリビング

大人の私も通いたい! 自由と規律が両立する「なにかに夢中になれる」場所

長男はどこかクールで、ならいごとや学校生活でも一歩引いた場所にいるようなところがありました。

それがこどもリビングでは、毎日顔をまっかに上気させて遊びに熱中し、帰宅時間になると「もっと遅くまでいたい」と私に電話をかけてくる。母として嬉しく思うと同時に、「こどもリビングは一体どんな魔法をつかっているのだろう?」と不思議に思っていたのです。

今回のお話から、長男は「本当の意味での自由」を学びながら、自分のやりたいことに思いきり取り組める環境にいるのだということがよくわかりました。親として本当にありがたく、また同時に、少し羨ましいような気持ちにもなりました(私も子どもリビングに通いたい……!)。

次回は「子ども×自活」をテーマに、引き続きお二人にお話をうかがいます。

【第2回】
なんでもやっていい 民間学童保育施設「こどもリビング」の子ども市場 ママの取材でわかったこと (2023年11月29日までリンク無効)
【第3回】
子どもだけじゃない 「大人も好きなことをする」で広がる〔民間学童〕「こどもリビング」の好循環 (2023年11月30日までリンク無効)

こどもリビング
住所:東京都多摩市一ノ宮2ー45-3
電話:042-400-6461
カフェ営業時間:月〜金9:00〜15:00、土9:00~17:00
HP:https://www.with-child-living.com/
アクセス:京王線 聖蹟桜ヶ丘駅より徒歩5分
※学童保育についてはお電話にてお問い合わせください

ささがわ かおり

笹川 かおり

Kaori Sasagawa
AnyMaMa(エニママ)ライター

AnyMaMa(エニママ)ライター兼コクリコ・サポート・エディター 東京都の多摩エリアで2男児(2014年、2020年生まれ)を育てる母。広告営業、ママ向け育児サイトの編集を経て、2019年に独立。エニママではライフスタイル・ビジネス・インタビュー記事などの制作を担当。 AnyMaMa:https://anymama.jp/  Twitter:https://twitter.com/AnyMaMaJP

AnyMaMa(エニママ)ライター兼コクリコ・サポート・エディター 東京都の多摩エリアで2男児(2014年、2020年生まれ)を育てる母。広告営業、ママ向け育児サイトの編集を経て、2019年に独立。エニママではライフスタイル・ビジネス・インタビュー記事などの制作を担当。 AnyMaMa:https://anymama.jp/  Twitter:https://twitter.com/AnyMaMaJP

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コクリコサポートエディターズ(CSE)は、コクリコの第2編集部。コクリコと、ママの社会復帰を支援するサービス「AnyMaMa(エニママ)」が協力して立ち上げました。子育てをしながら、ほかのお仕事をしながら……など、さまざまな立場で、子どもとの毎日が楽しくなる記事を発信していきます。

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